アイドルを目指したわけ/ダンス審査編

2015年8月20日 ダンス審査のオーディションに参加した。都内のスタジオで、降りたこともない使ったこともない駅だった。

指定された時間に駅を降りると同じような子たちがちらほらいた。ライバルなんだ、と思いながら以前の面接で仲よくなった子と一緒に会場へ向かった。

審査内容は事前に伝えられていて

「乃木坂46の太陽ノックのサビ部分を覚えてきてください」

言われたのはこの一言だった。

指定の動画を送られたりなどはない。つまりYouTubeなどに乗ってる動画をみて自分で選んで覚えなきゃいけないのだ。

まずは曲を覚えていろんな動画を見漁った。

ダンスだけがわかりやすく乗ってる動画なんてものはなく、あったのはMVとテレビ番組に出演した時のもの。

ただ一つだけ、

MVは両手で踊ってるのに対し、テレビ番組のものは歌のためにマイクを持っていて片手だった。

運営から指定もなかったのでわたしは何も考えず普通に両手で踊ってるので覚えることにした。

当日、待機の時間が本当に本当に長くて、朝から集合して当日に結果を発表するので1日拘束されていた。 

100人以上の人間が大きいスタジオに集められ5〜10人ずつ別の部屋に呼ばれそこでダンスを披露した。


わたしは合間の時間仲よくなった女の子とダンスの確認をしあっていた。

話せる子が1人いるっていうのは本当に心強くて、大勢の女の子の中で私とその子だけがずっとしゃべっていた気がする。

後に他のメンバーに聞いたが、ダンス審査の時から2人でお喋りしていたのでもう友達作ったのかと思って怖かった、と言われた。

今思えば他の女の子に負けたくない一心でわたしは必死に虚勢を張ってただけだ。

3次審査に残っているのは当たり前に可愛くて華奢で誰がアイドルになってもおかしくない容姿を持つ子たち。私は特筆して可愛いわけでも歌が上手いわけでもない、本当になにもない。ただ乃木坂46がすきでアイドルになりたいという気持ちだけでここまで来てしまった。だから強がるしかなかった舐められたくなかった。

私の番になり、ダンスを踊ってくださいといわれ鏡の前で覚えたものを披露した。自分なりにぎこちないかもしれないけど笑顔で踊った、大きな失敗もしなかった。よかった、と思いふと横を見るとマイクを持って踊っている子がいた。お菓子のラムネのマイクだった。

衝撃だった、わたしにはマイクを持って踊ろうという発想なんて1mmもなくて、マイクなんて用意はないだろうしMVの振り付けを覚えよう、としか思えなかった。

別にそれも正解だと思うけど、ラムネのマイクを家から持参する愛らしさ、発想の豊かさ、自己アピール。完璧だと思った。

すごい悔しくてダンス審査が終わった後も、ずっとその子の事を遠目でチラチラみていた。顔も可愛い、佇まいも可愛い、坂道グループに受かる子はこういう子なんだろうな、と心からから思った。

最終審査に残る人を当日発表するのでスタジオで3時間ほど待っていてと言われ、

私はやり切った安堵感と発表までの不安と朝から活動してたから眠気が一気に襲いかかってきて体調が悪くなった。 

スタジオの隅で岩のようにうずくまって時間が過ぎるのを待っていたらガチャっと何の前触れもなく大人の人が入ってきた。

「発表します」

淡々と名前が呼ばれていく。

心の中で自分の名前を何度も繰り返し呟いた。
大丈夫絶対次に進める、だってそんな予感がする。

100人以上いた女の子のなか、次に進めたのは46人だった。


仲よくなった子と、マイクを持って踊っていた彼女と、

私。


つづく

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