妊娠ってこんなんだったのか!④

【1.妊婦になってからこれまでの流れ】

④妊娠後期

安定期に妊娠糖尿病と指摘されて以降、朝食はグラノーラ、昼食はサラダやおでん、夕食はサラダと豆腐という、なんともヘルシーな食生活を送っていた私。おかげで体重を増やすことなく、産科の先生に褒められるまでになった。

安定期に入ったばかりのころはまだ目立たなかったお腹も、妊娠7か月以降急激に膨らみ始めた。ウエストが苦しく、スーツのパンツのボタンは開けっ放しになり、そのうちチャックまで全開にして上からトップスで隠していたが限界がきて、急いでユニクロへマタニティパンツを買いに行った。


そうこうしているうちに気が付けばあっという間に妊娠8か月、楽しかった安定期も終了し妊娠後期へ突入である。


お腹が大きくなるにつれて疲れやすくなり歩くのが遅くなった。普段苦にもならなかった駅の階段で息切れし、ベッドで仰向けになっても横向きになっても苦しい。アトピーもホルモンバランスの変化で超絶悪化。体中湿疹だらけになり、3時間ごとに保湿クリームを塗らなければ猛烈な痒みが襲う。内服薬も弱いものしか飲めないため、夜も痒くて眠れず服が血まみれになるほど掻きむしった。腰痛が激しくなり骨盤ベルトをきつく巻きながら営業し、普段の業務をこなしながら産休に向け帰宅後は夜遅くまで引継ぎ書をカタカタ作る毎日。

ただ、赤ちゃんが元気にお腹の中でウニウニ動き、旦那がお腹に話しかけ歌う毎日。赤ちゃんの小さな服やオムツが増えていく我が家を見渡すと、私はとても幸せな気持ちになった。


仕事の方はというと、いよいよ産休目前。担当エリア業務へ後任へ引き継ぎ始めた。妊娠してからも大きな営業バッグを片手に走り回ってきた担当エリア。他社からは「元気すぎる妊婦」「そんなに大きなお腹でまだ営業してるの?」とよくからかわれたものだ。

今まで頑張って毎日営業してきた多くの得意先、自分が種をまいてやっと花が出そうになっきたところを後任へ渡すのは何とも悔しかった。数字が伸び盛りのエリア、私はまだまだやりたいことが沢山あった。本当は今後もずっと自分が回り続けたかったのに途中離脱しなければならない悲しさ。引継ぎ挨拶に伺うと「頑張って...!!また戻ってくるのを待ってるよ!」と泣きながら抱きしめてくれたお得意様もいた。「旦那よ、代わりに産んでくれ」「仕事から離れたくない」「卵みたいに産めたらなあ」と何度思ったことか。

しかもやってきた後任は、悲しいかなやる気のないおじさんである。渡した引継ぎ書も読まず社会人マナーすらなっていないような状態で、大好きで大事な得意先を渡すのが本当に口惜しかった。

旦那の仕事も激務であり、毎日帰宅は21時を過ぎる。しかし私からすると、仕事を続けられること自体がうらやましくてたまらなかった。


そして、気が付けばあっという間に産休へ入っていた。里帰りをするまでの1週間、私は旦那のためにひたすらおかずを大量に作り冷凍庫にストックするミッションをこなしていた(コンビニ弁当は栄養が偏るし、何より食費がかかりすぎるのを防止したかった)作ったおかずは副菜も併せて130セット...!! 我ながらよく頑張った!!

また、出産後に区役所や会社へ提出する書類の準備、産前産後4か月間里帰りするための荷造り(季節をまたぐための多めの衣類、日用品、赤ちゃんグッズなど段ボールのべ6箱)をしながら、スキマ時間で保育園見学もこなし非常にハードな1週間だったように思う。


そんな中、私が産休に入ってふつふつ感じたこと、それは「社会から断絶された絶望感」である。

今まで毎日会社へ出勤し、上司や先輩とコミュニケーションを取りながら得意先で営業していたのに、産休に入った途端に他者と話す機会がガクンと減った。平日は家族も友人も仕事をしているため遊んだり電話したりもできず、私は本当にひとりぼっちになった。たまに連絡を取っていた会社の先輩方からは、「この前の会議で...」「今はこんな業務が...」と私の知らないワードがぽんぽん出てきて、置いていかれる感覚が強くなりひどく悲しくなった。

産休に入ったばかりでこんな状態なのに、出産後は家で赤ちゃんとマンツーマン、毎日育児に追われながらコミュニケーションの取れない乳児との私はやっていけるのか、不安が膨らむばかりである。

さらにいざ実家に里帰りする際も、私は旦那と離れ離れになるのが寂しくて駅のホームで号泣(大の大人なのに迷惑な話である)。今後の生涯、実家で何か月も家族と生活できる機会はきっと里帰りくらいであろうし、私の両親は赤ちゃんのお世話ができることを楽しみにしているため、妊娠直後から里帰りをすることは決定事項だった。しかし、旦那と3年以上遠距離恋愛をして、やっと結婚後同居できたと思えば1年ちょっとですぐまた離れ離れ、新婚生活はいずこに... そう思えるだけまだ夫婦関係が良好なことに私は感謝するべきなのだろうか。


また、臨月に入ったここ最近新たに感じ始めたのは「出産への恐怖」である。

妊娠37週以降は「正期産」、つまりいつ赤ちゃんが生まれてもおかしくないよ!という期間に入る。私たち妊婦は「今日陣痛が起こるかもしれない」「明日破水するかもしれない」と、日々時限爆弾を抱えたように怯えながら過ごすのだ。

後輩や同期の男性と話していると「陣痛が始まって病院に行ったらすぐ分娩台に上がって出産に入る」と勘違いしている人が多い。私の旦那も最初はそう思っていたとのこと。

しかし実際は陣痛が10分間隔(経産婦、初産婦か、病院による)になるまで病院へは行けないし、病院に行った後も初産婦で平均10時間ほどは、子宮口が開くまで痛みに耐えなければならない。開ききる前にいきんでも、出口がないのに圧迫されて赤ちゃんが苦しいだけ、よって我慢するしかない。

また、どう転んでも出産は痛い。無痛分娩だって麻酔を入れるまでは陣痛促進剤によって起きた陣痛に耐えなけれなばらないし、帝王切開なんて下半身麻酔で意識がある状態でお腹を切るのである。術後は感染症リスクもあるし、縫ったあとの傷口が痛む。また、正常分娩はドラマでもあるようにあれだけ顔を真っ赤にして痛みに泣き叫びながら出産する。男性は知らずに聞くと信じられない!と顔をしかめるが、出産の途中で妊婦はあそこの穴が裂ける、もしくはその前に医師が切開することが多い。自分でも想像すると泣きたくなる。

そして何よりも怖いのが「出産で死ぬかもしれない」という事実である。

妊娠を報告されたとき、産休に入る人を見送るとき、多くの人は「出産頑張ってね」「元気な赤ちゃんを産んでね」と嬉しそうに言い、母子ともに元気に出産を終えるのを当たり前のように思っているはずだ。出産はおめでたいことであり、ポジティブなイメージやエネルギーをはらむことは当然のことだと思う。

しかし恐ろしいことに現実は、「出産で死ぬ妊婦は0にならない」のである。

日本は世界各国に比べ医療の品質が高く、出産による母体死亡も1番少ないと言われている。ただ、出産は何が起こるか分からないもの。2019年の日本の出生数は初の90万人割れ、89万人だとニュースになっていたが、その中実は年に50人ほどの妊婦が出産によって命を落としているのだ。

原因は、予期せぬ大量出血であったり、心臓や脳の出血や梗塞など心血管イベントが多い。

出産する妊婦が年間89万、そのうち50人の死亡数だと、確率的には死亡率1%にも満たない。きっと交通事故や不慮の病気で亡くなる確率の方が高いだろう。しかし、これから出産を迎える妊婦からすると、自分がその年間50人に入るか否か、死ぬか死なないか、0か1かという気持ちなのだ。恐怖心を感じるのは当然だと思う。陣痛が始まった、破水したときにやっと赤ちゃんに会えると思う人は多くとも、まさか自分が死ぬと思う人はいないはずだ。

この前参加した母親学級でも、お話した妊婦さん6名は全員「出産が怖い」と言っていた。「何としても母子健康であればそれでいい」と。付け加えるように「赤ちゃんに会えるのが楽しみです」という人がほとんどだった。

私も出産が怖い。周囲からはポジティブに「出産頑張ってね」と言われるため、口に出してオープンに言うことはないけれど「死ぬかもしれない」と思うと震えるほど怖くなる。「そんな大げさな」と言われるかもしれないけど、出産は本当に命がけなのだ。だからこそ、出産を控えている奥さんがいる旦那さんたちに言いたい。もし陣痛が始まったなど連絡を受けたときには、仕事なんて全部放り投げて奥さんのところに駆けつけてほしい。奥さんからしたら生きるか死ぬかの一大事、是非そばにいてあげてほしい。


少し怖い話をしてしまったが、妊婦さんは妊娠が分かってから自分の栄養を赤ちゃんに与え、お腹の中で10月10日間も育て、出産の恐怖や日々の体調不良を乗り越え、激痛に耐えて赤ちゃんを産むのである。妊婦さんはなんて尊く、強いのだろう。

私は妊娠してからというもの、街で子供連れのお母さんたちを目にするたびに尊敬しまくるようになった。出産は人生でありふれたものなのかもしれない。しかし私自身、妊娠するまで知らないことが多すぎた。現在の社会は昔に比べて核家族が多く、自分がその立場になるまで妊婦や赤ちゃんに接する機会が非常に少ない。だからこそ、「妊娠するとそんなんも食べたらだめなん!かわいそう」「女じゃなくてほんとに良かった!」こういう悲しい発言があたりまえのように飛び出すのである。

私は、私のように今まで妊娠出産を間近にすることがなかった方々に、これをつたない文章を読んでほしい。

世間は妊娠出産に対して知らないことが多すぎる。

妊婦マークをつけている人を見ても知らんぷりで優先席に座り続ける人、泣く子供に「うるさい」と文句を言う人、電車やバスにベビーカーを畳んで持ち込んでも「邪魔」と悪態をつく人、最近では抱っこひものストッパーを後ろから外すいたずらが増えたとニュースになっていたことも記憶に新しい。

しかし、たとえ自分が当事者でなくとも、もっと多くの人が知識や理解を深めれば、相手を理解し尊重し優しく接することができるのではないか、子供や妊婦さんに優しい社会になるのではないだろうか。





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