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SO LONG GOODBYE 17.バイバイまたね


私の名前は田中愛美です むかし京都の南の方で生まれて 今は京都市内に住んでいます 身長は159センチで 体重はひみつです 4年生の芸術大学を卒業したあと 大学院で2年制作を続けました 資格は普通自動車運転免許を持っています 最近目が悪いです 夢は いい部屋で いい寝室を構えること 食べるものにはあまり興味がない というか なんでもいい お酒は好き 最近弱い 今のところ 仕事について話をすることはない

生活の話をしていると自然と仕事の話になってしまう。人の生活というものが、だいたいの場合、食事と仕事と睡眠で構成されているからな気もする。
さてこの仕事というもの、いったいなんのことだろう。職業か、使命か、ただの運動か。

昨年度PIPE DREAMに続き、二年目となるU30支援プログラムでの公演。
舞台に立つのは昨年も本年も一人だが、インタビューを元にしたテキストでの公演は、数多の生きた声の集積だ。
私たちはまったく別の思想を持つ別個の人間だが、それはそれとして、それぞれの「最寄りの共通点」(河井が稽古中に言っていた言葉だ)をさがして上演を試みる。

稽古の終盤、改めてインタビューの音声を聞いた。
テキストをずっと追っていると、言葉だけがクローズアップされてきて、その背後にある人やその生活のことを失念してしまう。
この言葉たちは、日頃私たちと同じように、ご飯を食べて、仕事をして、ものを考え生きている体の、その暮らしの中から滲み出たものなのだということを忘れないようにしたい。
自分以外の全てのものごとについて、私たちは想像することしかできない。他人のことなんか分かり得るわけがない、想像することしかできない。想像すること、思いを馳せることが、他人に対する最低限の礼節であり同時に最上の敬意であると信じる。

これまでの生活があって、これからもまた綿綿と生活が続いてゆくこと。その中に仕事という運動があること。そういう、生活というものそのものと、それに伴う光と影やその些細なゆらぎを私はとても愛おしいと思っている。

以上、当日パンフレットに掲載の文章です。
SO LONG GOODBYE、ありがとうございました。いったんここでおしまいです。

舞台上に人を送るとき、なんであんなに感傷的な気分になるんだろうな。将来子供を産んだとして、小学校の入学式や大学の卒業式なんかで同じような気分になるんじゃなかろうか。

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河井朗、あやこさんと昼前に集まって、うどんを食べた。河井朗はずっと「お腹空いてない」と言っていた。あやこさんはカレーうどんを食べていた。

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朝から雪が降っていた。ぼたぼたとした大きな雪。うどんを食べている間も横殴りで雪が降っている。うどん屋のドアのガラス窓を見ながら交通機関の遅れを心配する。三年前にあやこさんがここ文芸で公演を行った日にも、たいへんな雪が降っていたのだそうだ。

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気づけば会場開場の一時。受付に座りながらバナナをパック詰めする。子供達が物珍しそうに覗き込んでくる。
あっという間に四時半になり、いそいそと受付を閉めて会場に入る。なぜかわたしが緊張していたがあやこさんが出てきた瞬間ほっとする。

最後の5分ほど、ああもう終わってしまう、と思っていた。いつもだいたい「けっこう長いな」と思っていたのだが、今日だけは、もう終わってしまう、もう少し聞いていたい、と思った。

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真空パックされたバナナは、袋から取り出された瞬間から傷んでいく。時を止める魔法を使った少女が反動で一気に年を取るように、袋を切って空気に触れた瞬間から倍々のスピードで時が進むようにしてみるみるうちに茶色く、やわくなってゆく。
少し目を離すとしっとりしている。変色がはじまる。も少し目を離すと茶色く、べったりとしている。もう食べられそうにない。驚いちゃうな。

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会場を後にして、台湾料理を食べ、バーに寄って、早めの解散。すごい健康的。だいたいみんな次の日の予定があるので酒も飲みすぎない。河井朗はこのまま夜行バスで東京に帰るのだとか。大変だな。気をつけてね。

12月からの二ヶ月半ほど、実質一ヶ月くらいな気もするけど、本当に早かった。去年は二人だった現場にあやこさんが増え三人に。よかったな。いい現場だった。みんな、とても「いいやつ」(河井朗がよく言う)。

来年はU30支援プログラム、とうとう三年目です。どうなるのかな。わたしは分からないけど、河井朗は「争い」についての作品になると言っています。

それじゃとりあえずさようなら。またどこかでお会いしましょう。

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★ ご来場まことにありがとうございました!

第41回記念Kyoto 演劇フェスティバル
〈U30支援プログラム〉採択作品
ルサンチカ『SO LONG GOOD BYE』

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「人は一日八時間食べてはいられないし、一日八時間飲んでもいられないし、八時間セックスしつづけもできない。八時間続けられるものといえば、それは仕事だ。それこそが人が自分も他の人すべても、こんなに惨めで不幸にする理由なのだ。」

第41回記念Kyoto 演劇フェスティバル
2020年2月9日(日)
ホール開場16:10 / 開演16:30  

京都府立文化芸術会館 ホール
【料金】
一般前売:1,000円(当日1,200円)
高校生以下前売:500円(当日700円)




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