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私は「空間を共有すること」ヲタクなのかもしれない

そのときの衝撃はいまだに忘れられない。日曜の夕方に何気なく見ていた国民的テレビ番組・笑点の演芸コーナーで現れたその人が披露した「講談」という初めて見る伝統芸能に、私は心を鷲掴みにされた。基本的にミーハーで芸能的なものは一通り好きなので、それまでもなんどか「落語」にハマろうとしたことがあった。でもなんだかしっくりこなくて、自分にはそれに心酔できる才能はないのだと、どこかで諦めていた。

それから神田松之丞改め6代目神田伯山という人は私の人生の一部に……なれば綺麗なのだが、当時妊娠中だった私は2019年1月に行われたイベントで彼の講談を生で聞いて「あ〜やっぱり好きだな〜」と思いながらも、仕事と子育てに追われる生活の中で、日本一チケットが取れない講談師のチケット争奪戦に参加する余力はなく、ラジオやYouTubeやSNSでうっすら情報は見ている程度の典型的な「在宅」ぶりであった。

なんだかんだで4年近くライトな伯山ファンである私であるが、やっぱりいつかは寄席に行きたいという気持ちはあった。できることならば、伯山ティーヴィーでお馴染みの新宿末廣亭に行ってみたい。寄席に行ったこともないのに伯山ティーヴィーはしっかり見てるから、楽屋の風景の方が馴染みがあるあの新宿末廣亭で、生の演芸というものに触れてみたい。なんならまだ少し「落語ファン」への憧れもあるので、もしかしたらビビッとくる落語家に出会えるかもしれない。寄席に行ったこともないし落語も聞かないのに成金のことだけは知ってる(いまや高騰していると噂の成金本も持ってる)ので馴染みがある成金メンバーの落語家さんの落語を、好きになりたい。私は笑点の新メンバー・桂宮治を当てた人間である。寄席に行ったこともないのに。寄席に行ったことがないというだけの理由で、私は私に「神田伯山が好き」だと公言させない呪いをかけていた。

宮治さんが笑点メンバーになったのが本当に嬉しくて、笑点を録画して、ヨネスケチャンネルをチャンネル登録して、再び在宅演芸ヲタクの道を進みかけていた私の目に、以下の記事がとまる。サジェストってすごい。

こういう記事を読むと、応援したくなってしまうのがヲタクの性だなと思う。とくに鯉八さんは同郷なので、バイアスがぎゅんぎゅんにかかる。絶対に見に行きたい。ということで、当初私の寄席デビューは一月下席の鯉八さん主任の会になる予定だったのであるが、再びコロナの陽性者数が急激に増え、それに伴う自分の不安感なども伴って、私は一月下席の予定を見送ることになる。

苦渋の決断ではあったけれど、一月下席を見送れたのは、二月中席があったからである。二月中席は宮治さんが初主任を務めて、ほぼ成金メンバーで高座を務めるという通称”寄席成金”であった。通称というか、初めての試みであるし、そもそも若手真打のみで行うということはいろいろなしがらみがあるだろうに、落語芸術協会と新宿末廣亭の懐の深さで成り立ったのだと思う。このあたりは初心者なので書くの怖いけど、ヨネスケチャンネルでみなさんがそう仰っていたのでそうなんでしょう。

鯉八さんの一月下席に行きたかったけど(初心者に優しそうだし)、寄席成金に万全の体調で向かおうと意気込んでいた矢先に、今度は当の宮治さんがみなし陽性になり、もともと行こうと思っていた2月11日(金)が伯山トリになってしまった。私は初心者だけどわかる。多分整理券は取れない。そう思うと心なしか体調もよくない気がしてくるし(これは本当に心だけ)、私はふたたび寄席デビューを見送った。

しかしさすがに三度目の私はくじけない。しっかりと当日の整理券を確保し、ついに新宿末廣亭で念願の寄席デビュー。初めての末廣亭は2階席だったけど、思いの外見やすかったし伯山にもいじってもらえてハッピー。宮治さんも復帰されていて、初めての成金。ここまで1500字近くも書いておいて今更そんなことしか書けないのかと自分でも思うのだけど、言葉にできないくらい嬉しくて楽しくて幸せな時間だった。ろくなこと書けやしねぇ。

こんなご時世に、換気等されているとはいえパンパンに300人近く?小屋に入ってて大丈夫かなとか、掛け声みたいなのはさすがにかけないけど、面白いシーンあったらみんな声出して笑っちゃうんだよなとか、思うよ、根が真面目だから。フルリモートで毎日お気楽に過ごしているから珍しいマスク(不織布×2)のせいで4時間ずっと強い吐き気と偏頭痛でこめかみ抑えてたけど、でもそんなのどうでもよくなるぐらい思ったのが、「みんなで笑うのって超幸せ」ってことだった。これは自分でもびっくりするぐらい純粋な感情だった。

つくづく私という人間はナマモノが好きなのである。一人暮らしをはじめて一番最初にハマったのはニコニコ動画のイベントに行くことで、それも結構狭いキャパシティのライブハウスで割とマイナーな踊り手を追いかけていた。そこからド王道のハロープロジェクトにハマり、在宅コンテンツも大いに活用したけれど、やっぱりライブがいちばん幸せだった。極論をいうとライブであれば自分の好きな人や有名なものでなくても良くて、アマチュア楽団のコンサートも、公園でのパフォーマンスアートも、なんでも楽しめる。もしかしたら世のエンタメって全部そうで、世の人はみんなナマモノ見たら感動するのかもしれないけど、とにかく私はその感度が高いというのは、楽しく生きていく上で良いことだと思うことにしている。

そんな私が見ちゃったもんだから、生の寄席はすごかった。生の演芸って本当にすごい。広く浅くエンタメが好きなつもりでいたけど、伝統芸能には伝統になるだけの理由があるのだと思った。こりゃ学校で学ぶわけだわ。もっともっとナマモノ感度の種まきをしていってくれ。私は、なんでこんなにここに来るのが遅くなっちゃったんだろうって後悔すら感じた。アイドルのライブの何が好きかというと、みんなで踊ったり歌ったり、とにかく空間を共有することなのである。もちろん動かない人がいたっていい。同じ空間を共有して、それぞれの心が動くということが、とても尊いことなのである。それが寄席でも感じられて、寄席ってとっても私向き!と嬉しくなった。

初心者が芸についてどうこういうのって元々のファンの人達に失礼だってどうしても思ってしまうめんどくさいヲタクなので、誰が良かったとかは敢えて書かない。もともと好きな伯山は素晴らしかったのだけど、落語家さんの中で「わ、この人好き!!」と思える出会いがあった。これからヲタクとして活動していって胸を張れるなと思えたら、いつか書くと思う(本当にめんどくさい)。

たまたま行った日がこうやって記録に残る令和に生きていてよかった。ありがとうヨネスケチャンネル。また再び現場に行く日を夢見ながら、在宅の日々も充実させていきたい。

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