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アイドルヲタクというアイデンティティ

「社会人になってやたらと出身大学の名前を出すのは恥ずかしい」というインターネットの与太話を信じた私は、入社式の自己紹介トップバッターを務めることになり、意気揚々と「好きなものは丸型郵便ポストと女性アイドルです!」と発言してしまい、社内をざわつかせることに成功した。

女性アイドルヲタクを自称するようになったのは大学3年生ごろだったと思う。根がミーハーなのでTwitterやニコニコ動画が生活の一部だった私は、流行りに乗ってももいろクローバーZの動画を見る程度のライトなファンだったけど、ひょんなことからモーニング娘。に辿り着き、ハロープロジェクトのアイドル全般を追いかけるようになった。

私がハロプロの応援を始めた2013〜2014年頃は、道重さゆみ・田中れいなという、私が子どものときに見ていたモー娘。の新メンバーがグループを引っ張る存在になっていて、私が子どものときに同い年の子がハロプロに入ったと意識したBerryz工房や℃-uteが中堅として揺るがない存在感を示していた。このときの気持ちを人に説明するときによく「昔テレビで見ていたモー娘。にいた人がまだ頑張ってるというのがエモいんですよね〜」と言ってるのは、大袈裟にしている部分もあるけど嘘ではない。

当時のモーニング娘。のコンサートに行くほどファンではあったし、グッズも買っていたし、野菜生活のシールも集めたけど、本格的に“ハロプロ沼堕ち”したのは、とある別グループの結成が一番大きかった。この記事を読んでいる人のほとんどは知らないであろうカントリー・ガールズという、前述したBerryz工房の嗣永桃子(この名前は有名だろう)がプレイングマネージャーを務めて2014年に結成されたグループである。スキル重視のハロープロジェクトの中で『かわいいだけでなんとかなる、か?』をキャッチフレーズに結成された彼女たちの姿は、もともとかわいい女の子が大好きな私の胸を掴んだ。加えて重要だったのは嗣永桃子の存在で、自分と同い年の彼女が、ひとまわりほど年齢の違う女の子と同じグループで活動していくことを決めたという事実が、分析好きの私の好みにクリーンヒットした。私は、カントリー・ガールズを研究対象として見守っていくことにした。

そういうわけでしばらくカントリー・ガールズ並びにハロプロを箱推ししていた私だが、ここでまたヲタクとして一つの階段をのぼることになる。気になっていたハロプロ研修生(いわゆるデビューを目指す研究生)がカントリー・ガールズに加入することが発表されたのだ。つるんとしたおでこと利口な喋り方が特徴的な梁川奈々美ちゃんがカントリー・ガールズの2期生として発表されたとき、私の脳内会議で「推し!!!!!!!」という札が満場一致で挙げられた。それからの約1年間は、本当に楽しかった。梁川さんのことをたくさん考えて、会いに行って握手して、カントリー・ガールズを愛して、嗣永桃子が卒業したあとの彼女たちの第2章を応援するのが私の宿命だと思っていたし、それ以外の未来がくるはずなんてないと思っていた。

それからカントリー・ガールズに何があったのかを記すとさすがに本題に辿り着けないので割愛するとして、簡単にまとめると、我が推し梁川奈々美さんは2019年にアイドルを円満に引退し、カントリー・ガールズもその年の年末に解散した。私が全身全霊をかけて愛していくと誓ったアイドルグループは、たった5年(満足に活動した期間はもっと短い)で儚く散ってしまった。

時は少し戻って、Berryz工房が活動休止を発表した2014年。彼女たちは『普通、アイドル10年やってられないでしょ!?』という楽曲をリリースした。デビュー以来10年ぶりに彼女たちの存在を認識した私に、10年間アイドルとして闘ってきた彼女たちが高らかに歌ったこの曲は、女性アイドルが長く活動を続けていくための矜持そのものなのかもしれないと思っていた。結局、そのリリース直後に活動休止が発表されたわけだけど。

アイドルは、いつか終わってしまう。私は女性アイドルが好きなので、それは覚悟の上だと思っているけれど、できることなら私に元気をくれるアイドルがいつまでもアイドルでいられるようにと願ってしまう。それはファンのものだけであってほしいということではなくて、いつか歌とダンス以外にやりたいことができても、ファンより大事な家庭を持っても、アイドルという生き方を、アイドルたち本人が肯定できるような世の中であってほしいと心から願うのである。そういうわけで「どうすればアイドルを長く続けられるのか」というのは、私の長年の関心ごとでもあった。2014年〜2016年の私はその答えは男性アイドルが持っていると思っていたのだけど、SMAPの件があって、私は考えることをやめた。

話を2019年に戻し、カントリー・ガールズの解散を映画館のライブビューイングで見届けた私は「いよいよハロヲタ卒業だな」と確信していた。他のハロプロのグループも魅力的だし、家族や友人がファンなので情報を遮断することはできないけど、その環境においても、カントリー・ガールズならびに梁川奈々美さんほど好きだと思える人に出会うことはできなかった。ハロプロ以外のアイドルを少し調べてはみたものの、やっぱり「好きになろう」と努力する気持ちを捨てきれず、アイドルに熱中できない日々が続いた。

幸い人生のコンテンツには困っておらず、当時は乳幼児の育児中であったこともあり、時間的な余裕はなかったので、推しのいない生活もなんとか耐えられた。しかしそれ以上に痛手だったのは、人に伝えやすい趣味がなくなったということである。「女性アイドルが好き」という自己紹介は、良くも悪くもなんとなくの人柄を相手に伝えるのには好都合で重宝していたため、できるだけ低コストでインパクトを与えたい人間としては致命的だった。自分を表すしっくりくる言葉が見つからず、自己紹介のたびに人知れず虚しさを感じていた。

そんな私が少しずつアイドルの世界に戻ってきたのは2021年の春のことだった。『でんぱ組.incが10人体制になり、5人の新メンバーの中には踊ってみたレジェンドの愛川こずえがいる。さらにセンターの古川未鈴は産休取得予定』という改めて羅列しても整理しきれないカオスな状態であったでんぱ組に、私は5年前に真剣に考えていた「どうすればアイドルを長く続けられるのか」問題を解決する糸口を見つけたような気持ちになった。女性のアイドルグループを存続するにはメンバーの加入と卒業を繰り返すしかないと今のところ証明されてしまっている中で、センターが産休育休を取得すると発表できてしまうでんぱ組が眩しくてたまらなかった。私はすぐに、でんぱ組.incを研究対象にして、今も応援している。

でんぱ組には推しもいて、ライブにも足を運んでいる。カントリー・ガールズ後に出会ったグループの中ではかなりきちんと推している方だと思う。ただ、どうしても研究対象として見てしまう癖が抜けきれず、彼女たちをとりまく環境になにか変化が起きる(あるいは起こされる)たびに、俯瞰してしまうのを感じていた。でんぱ組の推しのことが好きという気持ちよりも、これからのでんぱ組がどうなるのかを見ていたいという気持ちの方が強いと気付いてしまってからは、自分自身にとってでんぱ組そのものは推しではないと思うことすらある。

やっぱり『推す』ということはどこまでも主観的でありたい。「好きでいよう」という気持ちを冷静に保てているうちは、まだその沼に堕ちていないのである。どんなに冷静になろうしても四六時中そのことを考えてしまう、そんな情熱的に恋焦がれる推しに、もう会うことはないのだろうかと半ば諦めていた私が、つい先日、出会ってしまった。3,000字以上書いてきたが、ここからが本題である。

女性ドルヲタ歴10年目にして、突如ジャニーズにハマった。

そのグループのことは2019年に耳にした記憶がある。表舞台を引退した滝沢秀明さんが、ベテランで人気のジャニーズJr.のグループに新人3人を加入させたというニュースである。ドルヲタDDなのでジャニーズの話題も入ってくるTwitterのタイムラインで、ジャニヲタの人たちが阿鼻叫喚になっているのを見ながら、私は「タッキー、ハロプロみたいなことをするなぁ」と呑気に考えていた。女性アイドルといえば加入と卒業を繰り返すものであるので新メンバーの加入には嫌でも慣れている私にとって、加入そのものにはマイナスイメージを持たないのだが、それと同時にメンバー間の関係性を愛でるグループアイドルヲタクでもあるので、調和していないグループを見るのはしんどい。それからどれぐらい経ったか覚えていないが、何かの番組で初めて彼らを見たときに「若い人が3人入ってるはずだけど全然わからないな、すごいな」と思ったことは覚えている。3年後そのうちの1人に信じられないほどハマりますよと肩を叩いて教えてあげたい。

2022年4月24日、私は娘と昼寝をしている傍らでいつも通りYouTubeを見ていた。当時の私はとある界隈にハマりかけていて、その影響で少しだけTikTokも見ており、その曲の一部分だけ知っていた。SnowManの『ブラザービート』である。TikTokで耳馴染みのある曲がジャニーズの人たちの曲なんだ、ぐらいの印象しかなくて、映画おそ松さんの主題歌だということも全く知らなかった。ジャニーズはSexyZone以降のグループに所属する個人名をほとんど覚えていなくて、でもミーハーだからカウコンは見たい、ぐらいの関わり方だった。だから、ワンフレーズだけ知っている曲の1曲を確認してみようかな、なんだか楽しそうな雰囲気のサムネだし。まさか今更ハマるはずないし。大丈夫大丈夫。ぐらいの。気軽な。本当に気軽なノリで。その動画の再生ボタンを押してしまったのである。

それから、3日間SnowManのYouTube動画を浴びるように見た。Music Videoはもちろん企画物、外部イベントに出演する彼らの様子、あらゆる角度から9人全員の歌・ダンス・トーク力を一通り見漁った私は、ついに推しを決めた。この「決めた」というのはこれまで散々言ってきた「好きになろう」とした結果ではなく、SnowManのメンバー9人があまりに全員魅力的で、直感で決めることができなかったからである。かの有名なジャニヲタパイセンこと青木源太さんが「SnowManは9人の個性がバラバラで、世の女性の好きな男性のタイプが絶対に一人いる」という名言を残されているが本当にその通りで、なにこのセンター華がありすぎナチュラルボーンアイドルすごい高身長イケメンいるしピンクの人のダンス目が離せないんですけどちょっと待ってめちゃくちゃ顔が好みの人いるな???????!!!!!!!!(早口)と思っているうちに3分30秒のブラザービートが終わってしまうので、さまざまな動画を繰り返し見ざるを得なかったのである。ちなみに推しを自覚してしまった今はどれだけ9人のことが好きで9人を1人ずつ見たいと思っていても結局推ししか見ずに3分30秒過ぎてしまうので、困ったものである。

ブラザービートに出会って1週間後には映画おそ松さんを観に行ったし、なんなら5月中旬のほぼ公開終了するタイミングまでにもう一度見に行った。ここで無駄に主張したいのが、私は映画というコンテンツがそもそも苦手だということである。4月の下旬にハマって苦手な映画館に二回も足を運んだ行動力を何かに活かせないだろうか。ジャニーズweb(月額300円で全ジャニーズタレントのブログ等が読める実質無料コンテンツ)には即日入会し、paravi(SnowMan初の冠番組『それ、SnowManにやらせてください』がアーカイブ視聴できる実質無料コンテンツ)も契約し、ファンクラブ(年会費4,000円は実質無料)にも加入した。そんな教科書にも乗るぐらい美しい前転でSnowMan沼に転がり込んでいった姿勢が功を奏したのか、友人伝いでスノ担の先輩方から過去のCD特典やテレビ出演映像、雑誌などを譲り受けるというハッピーイベントが多発した。ジャニヲタじゃないときからジャニヲタが好きだという人生を送ってきたので、この歓迎ムードに感無量である。SnowManとスノ担の方々の福利厚生の充実具合に、つらかったハロヲタ生活も報われていよう。

そんなかたちでSnowManの沼、もとい崖を飛び降りてから2ヶ月が経った。自分的にはだいぶ冷静になってきたと思うが、これから新曲のプロモーションが始まるので、またすぐに人のかたちを保てなくなることだろう。正直これまでも決して避けてきたわけではないジャニーズというコンテンツに30歳になってからこんなにハマることになるとは思わず困惑している部分もなくはないのだが、ぶっちゃけ人生のうちで一回ぐらい本気でジャニヲタすることがあっても面白いじゃん?という気持ちで開き直っている。

というわけで、本日6月21日は私が誰もをドン引きさせる勢いでハマってしまったSnowManの向井康二くんの28歳の誕生日である。顔もスタイルも歌もダンスも性格もすべてがfantastic!四六時中photogenic!()な私にとってパーフェクトなアイドル。お誕生日おめでとうございます。生まれてきてくれて、ジャニーズを続けてくれて、デビューしてくれて、私に見つけさせてくれて、本当に本当にありがとう。めちゃくちゃ忙しいと思うので、とにかく身体を大事にして楽しい一年にしてください!

いつになるか分からないけど、いつか会えると信じて元気に推し活していこうと思います。変わらず女性アイドルも大好きなので、でんぱ組.incも応援します。SnowMan好きになってから久しぶりに味わう感情が多くて、私らしさの大きな部分がアイドルを好きでいることで構成されてたんだなと改めて実感した。アイドルヲタクというアイデンティティを取り戻した私は、きっと強いはず。これからは「もともと女性アイドルが好きでハロプロを応援してたんですけど、いろいろあって今はジャニーズのSnowManにハマってま〜す」と自己紹介していくので、どうかお手柔らかにお願いしたい。

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