失われた公衆電話を求めて
登場する人
旅の始まり
「そういえば公衆電話でインターネットできるらしいぜ」
自宅で飲んでいる時に友人のK氏がこう言った。
もちづき「公衆電話でインターネット…?」
何だか面白そうな話である。
もちづき「どうやるんだそれ」
K氏「ISDNで接続するんじゃないかな?」
もちづき「ISDN…」
ISDNは聞いたことがある。…が使った事は1度もない。
「早速やってみようぜ!」ということになり自宅からノートPCとLANケーブルを持ちだして近所の公衆電話に向かう。
しかしよく見るとLANケーブルを繋ぐ場所がない!早速Googleで調べてみる。(インターネットをする為にインターネットをするという謎の構図)
なるほど!公衆電話には2種類があり、電話機能のみの緑色とインターネット接続可能なグレーの公衆電話があるそうだ。
確かになんとなくグレーの公衆電話もあった気がする。
じゃあ探してみようと近所を練り歩くもグレーの公衆電話なんて全くない!
探せども探せども見つかるのは緑色の公衆電話だけである。
1時間ほど歩き、そろそろ緑色にうんざりしてきたところで新たな公衆電話を発見!
これは………グレーだ!!! うおおおおおお!!!!
早速LANケーブルを繋いで接続を試みるK氏。
固唾を呑んで見守っていると何かに気づいた様だ。
K氏「これ、プロパイダと契約しないとだめだ」
公衆電話の料金だけじゃインターネットできないのか!
K氏「なんか調べたら月々300円くらいで契約できるらしいから今度までに契約しとくわ!」
流石インターネット、調べればなんでも出てくる。
そしてその日は解散し後日……
消えゆく公衆電話
K氏から「契約したからインターネットするぞ!!」と誘いのLINEが。
僕は友人のI氏も誘い3人でインターネットに興じることにした。
インターネットをする為にわざわざ集まるというのもすごい話である。
朝から例のスーパーの最寄り駅に集合した3人。
「さぁインターネットするぞ!」と意気揚々とグレーの公衆電話に向かう。
……………………
………………………………
……………緑色になってる!!!!!!!
なんと数ヶ月前までグレーだった公衆電話はピカピカの緑色に変わっていたのだった。そんなことある!?
なぜなのかは分からないがとにかく無いものは無い。新たなグレーの公衆電話を探さなければ。
そこで僕は公衆電話に書かれているNTTのサービス案内に電話を掛けてみることにした。
NTTのお姉さん
お姉さん「はいNTT東日本サービス案内窓口です」
もちづき「あ、もしもし、今灰色の公衆電話を探してまして…」
お姉さん「灰色の公衆電話?……をお探しなんですか?」
もちづき「そうなんです」
お姉さん「……ちょっと確認してきますね…お待ちください」
ひたすらに困惑が伝わってくる。そして待てども待てども保留。ごめん!なんかごめんよお姉さん!
お姉さん「お客さま、お待たせしました」
もちづき「はい!」
お姉さん「ちょっとどの公衆電話が灰色かっていうのはご案内できないんですが…」
お姉さん「NTTがインターネット上で公衆電話の配置場所を公開してますのでそちらをご覧頂ければ」
もちづき「それを実際に見て緑色か灰色かを判別してくしかない感じですかね?」
お姉さん「そうなっちゃいますね……。ただ灰色の公衆電話は施設等の依頼でしか設置していないので、施設内の公衆電話を回られるのが良いかと思います」
もちづき「なるほど!ありがとうございます!」
確信的でないが大きな情報を得ることが出来た!ありがとうお姉さん!
そして新宿へ…
我々が今いる稲城市では巡回の効率が悪いため新宿へ向かうことに。新宿ならいっぱいあるだろう!
一行は新宿へ。
とりあえず東口から探す。
………が、やはり、無い!緑緑緑緑緑緑緑、緑一色である。
東口にはグレーの公衆電話はないのかもしれない。西口に移動しよう!
しかしここで1つの問題が浮上、K氏は恋人とのデートの時間が迫っており残された時間は1時間と少しであった。
公衆電話を探していて遅れたなんて言ったら破局してもおかしくはない。
普段だったらどんな距離でも歩く僕だが今日ばかりはタクシーを使うことを決意。幸いタクシーは一瞬でつかまった。
タクシーの運転手さん
もちづき「都庁までお願いします」
運転手さん「わかりました」
もちづき「……」
もちづき「……………」
もちづき「変なこと聞くんですけど、グレーの公衆電話がどこにあるかなんてご存知ないですよね?」
運転手さん「いやーちょっとわかんないですね」
もちづき「ですよね〜」
運転手さん「グレーの公衆電話をお探しなんですか?」
もちづき「そうなんですよ!ちょっとグレーじゃなきゃいけない理由があって」
運転手さん「今グレーの公衆電話ってかなり減ってますよ」
もちづき「あ、やっぱりそうですよね〜」
運転手さん「公衆電話はね田村電機ってところが作ってましてね、今は合併してサクサっていう会社になったんですが…」
運転手さん「今はもうグレーの公衆電話は作ってないんですよ、だから減ることはあっても増えることはないでしょうね」
もちづき「……なんか運転手さん詳しいですね?!」
運転手さん「私タクシードライバーやる前は公衆電話のパネルを作る会社で働いてたんですよ」
一同「!?!??!?」
そんなことある!?公衆電話を探すためにタクシーに乗ったら運転手さんが過去に公衆電話のパーツを作っていた。そんなとてつもない奇跡が起こるとは!!
もちづき「ど、通りでお詳しい…」
運転手さん「でも新宿ですから、根気よく探せば絶対見つかると思いますよ。頑張ってください」
もちづき「ありがとうございます!」
ラストダンジョン『都庁』
都庁に着いたグレー公衆電話捜索隊は早速案内図を確認。
都庁は端と端にそれぞれ公衆電話が設置されている。
まぁ、真ん中にあっても需要ないもんね…。
時間もないため足早に公衆電話のもとへ。
どうだ………!?
ん〜〜〜〜緑ッ!!!!!
都庁まで来てもダメなのか……。
骨折り損を予期しつつ半ば諦めながら反対側に向かう。
まぁどうせ緑なんだろうな…。
と、思った矢先……………
………………………………
あれ!?
緑 じ ゃ な い !(灰 色 だ !)
あったああああああああ!!!!!!!!!!!
うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!
あまりに数が多すぎて書ききれないがこの日は何十台もの公衆電話に裏切られてきたのだ。
ありがとう、東京。
ありがとう、百合子。
しかし我々に喜んでる暇はない。
早速インターネットにとりかかる。
だが…
K氏「あれ…?」「うーん…」
あまり状況が芳しくないようだ。
インターネットは目の前にあるというのに!!
どうも接続の手前の段階で躓いてしまっている様子。
K氏「なるほど……」
K氏「モデムが必要だ…!」
もちづき「モデム…!?」
曰く、昔のノートPCにはモデム内蔵のものがあったそうだが、僕がそんな物を持っているはずもない…。
インターネットを目前にして諦めなければならないのか…。
…………………………
K氏「ノートPC用の外付けモデムがあるらしい!」
ノートPC用の外付けモデム!?!?
もちづき「そんなんどこで買えるんだ!」
K氏「わからないけど家電量販店に行ってみるしかないと思う」
I氏「ビックカメラまで徒歩15分らしい!」
K氏に残された時間は1時間を切っている。
もちづき「走れば10分だな!」
新宿の街をインターネットを求めて走るアラサー達。
ビックカメラにて
ビックカメラに到着しPC周辺機器のコーナーへ。
探してる時間もないのですぐに店員さんに聞いてみる。(そもそもあるのか?)
もちづき「あのッ、すいません! 公衆電話でインターネットしたくて、ノートPC用の外付けモデムを探してるんですけど…!!」
店員さん「公衆電話で?インターネット?」
当たり前の反応である。そもそもどう説明して良いのかもわからない。
するとK氏がどこからかPCに詳しそうな店員さんを連れてきた。
PCに詳しそうな店員さん「こちらですね〜」
K氏「置いてるらしいぞ!」
置いてるのかよ!凄いなビックカメラ!
PCに詳しそうな店員さん「正直買ってる人見たことないですね(笑)」
確かにうっすら埃を被っている。
しかし今の我々からしたら伝説の古代都市の鍵に等しい存在である。
お値段は税込6960円。
高いのか安いのかもよくわからないが我々に迷っている暇はない。
外付けモデムを購入し足早にビックカメラを出ようとする。
すると…
I氏「俺はここに残るわ。お前ら先に行ってくれ」
突然意味不明な発言をするI氏。
もちづき「どうした!?」
I氏「もしそのモデムがダメだったら買いに戻ってる時間はないだろ?俺がここに残ってもし追加で必要なものがあったら走って届けるから」
もちづき「今泉……」
あまりにアツすぎるI氏に驚愕する。
I氏「まぁリアルタイムで公衆電話インターネットが見れないのは残念だがな。動画だけ撮ってきてくれ」
こんな奴が現実にいるとは…。
もちづき「…………」
もちづき「せっかくここまで来たんだから3人で見ようぜ!!」
僕たちの心は燃え上り固い絆で結ばれた!
なんとも少年漫画のような展開だが、やろうとしてるのはインターネットである。
僕たちが求めたインターネット
都庁へ帰ってきた我々はさっそくモデムを開封しノートPCと公衆電話を接続する。
K氏が先程つまづいていた所も難なく突破!これは行けるぞ!そして接続が開始する。
ビ‐ピポパポピ…
繋 が っ た ! ! ! !
早速ブラウザを開く。
しかしGoogleがありえないくらい重い!!何を隠そう公衆電話の通信速度は64kbpsである。
K氏「阿部寛だ!阿部寛のホームページのURLを教えてくれ!」
パケ死でも爆速でお馴染みの阿部寛のHP。
I氏「エイチ、ティー、ティー、ピー……」
K氏「………開くぞ!!」
……………………………………
…………………
………………………………………………
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
しかし流石の64kbps。あの阿部寛のHPですら激重なのだ。
そして頭頂部だけ現れる阿部寛。まさにイメージしている昔のインターネットだ!
徐々に阿部寛の全体像があらわになる。まるで蝶の羽化を見ているようだ…。
そして……ついに全阿部寛が降臨。僕らの歓喜は最高潮に達していた。
うおおおおおおおお!!!!!阿部ちゃんイケメンすぎる!!!!!!
寝起き1秒でスマホを見る昨今、阿部寛の写真を見るためだけにこんなに苦労することは二度とないだろう。
我々はそのあとも時間が許す限りインターネットを楽しんだ。ナウル共和国の公式HPは見れたが、Twitterは何分待っても開くことは無かった。(そして硬貨を投入し続けた)
K氏「じゃあ俺はこの辺で!」
颯爽と都庁を後にするK氏。
遊びは完遂しデートには遅刻しない有能な男である。
この後K氏は恋人に「公衆電話で阿部寛を見てきた!」と話したが反応はグレーだったそうだ。
終わりに
僕にとって伝聞でしか知り得なかったインターネットが、確かに公衆電話にはあった。
NTTが提供するISDNサービスは2024年1月1日に廃止されるらしい。つまり公衆電話でインターネットができるのも残すところあと数ヶ月ということになる。
もしあなたが町でグレーの公衆電話を見かけたなら、昔のインターネットに思いを馳せてみてはいかがだろうか。