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怪談: 洗濯室

元上司と、飲み歩いた日にした話です。
上司とは同郷なのですが、メニューに郷土料理を見つけたところから
地元トークに花が咲いていました。

「あ、そういえば XX 大学のあの寮、改築されたみたいですよ」

「おお、そうなんだ?だよなぁ、もう何年あるんだアレ」

上司が学生だった頃に入っていた、寮の話なのですが
私の地元の友人も、学生時代同じ大学の同じ寮に入っており
改築はその友人から聞いた話でした。

「何年って言ってたかな……ちょっと忘れましたね」
「それより、改築してから幽霊騒ぎがあったらしくて」

友人から聞いたのは、こんな話でした。

ある晩、男子学生が寮の洗濯室に行ったそうです。
空いている洗濯機を探して、部屋を見回りましたが
生憎全て埋まっているようでした。

「あれ?洗濯終わってんじゃんこれ」
「なんだよ、早く取りに来いよ……」

「あ、わりぃ。それ俺」

停止中のまま放置されている洗濯機を見つけ、悪態をついていると
後ろから、彼の友人が声をかけてきました。

「お前か。いいタイミングで来るじゃん」
「ほれ、退けて退けて」

いそいそと衣類を乾燥機に移す友人を尻目に
男子学生が入れ替えるように、自分の衣類を入れ始めたとき。

「あれっ?停電……じゃないな。ん?」

部屋の電気が全て消えて、またすぐに点きました。
そして少し間が開いて、また明滅します。

「蛍光灯……じゃないよな。全部だし」

二人で顔を見合わせていると、また電気が消え、そして再び点きました。
すると部屋の中程に、まるで今しがたの暗闇が取り残されたように
真っ黒な人影が、音もなく現れたといいます。

声を上げる間もなく、また電気は消え
次に点いた時には、その姿はありませんでした。
そして電灯の明滅も、それきり止まったのだそうです。

洗濯室に佇む、真っ黒な影法師。
しかし、その顔は灰色の腫瘍のようなもので、びっしりと覆われ
一瞬の出来事でしたが、生々しい凹凸は目に焼き付いて
しばらく離れなかったといいます。

「ふーん、嫌だねぇ~」
「あ、でも俺らの時も、何かあったなそういえば」

上司曰く、それは同じく洗濯室での話だったそうで
部屋の行き詰まりの壁を、ドンドンと殴りつける音がするのを
複数の学生が聞いたのだといいます。

隣は倉庫でしたが、その壁は金属製の棚が一面に置かれており
とても壁を叩くことの出来る状態ではなかったそうです。

「へ~、なんかあるんですかね」
「改築されたの、その洗濯室らしいんですよ。広くしたらしくて」

「あーそうそう、『絶対足りてないわ洗濯機』って皆で言ってたね、当時から」
「増やしたんでしょ、きっと」

「らしいですね。壁取っ払って、となりの部屋とつなげて」

「あ、倉庫つぶしたんだ。まぁ、当時も大したもん入ってなかった気がするしなぁ」

そこまで言って、二人でハタと、目を見合わせました。

「……さっき言ってた壁叩く音って」

「……壁の中に誰か居るんじゃね~の、とか当時言ってたわ。うん」
「出てきちゃった……のかね、もしかして」

一瞬の沈黙の後、何に対してか愛想笑いをした我々は
ホッピーのジョッキを揃ってグイと空け、会計を呼んだのでした。


稀によくある、ホッピーセットのナカが多い店。


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