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最低賃金31円上げを目安にした水面下③ #0138/1000

今回は、2022/8/2にひらかれた中央最低賃金審議会で共有された資料のうち、最後の公益委員の見解をみてみます。

公益委員とは、政府関係の各種の審議会や委員会が、相異なる利益を代表する委員によって構成されている場合に、公平・中立の立場から公益を代表する委員のこと。

今回のケースでは、この中央最低賃金審議会が、使用者側と労働者側、相異なる利益を代表する委員で構成されているため、厚生労働大臣の任命で設置されています。

令和4年の公益委員はこんな方々です。

(公益委員)
鹿 住 倫 世 専修大学商学部教授
権 丈 英 子 亜細亜大学経済学部長・教授
小 西 康 之 明治大学法学部教授
中 窪 裕 也 一橋大学大学院法学研究科特任教授
藤 村 博 之 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
松 浦 民 恵 法政大学キャリアデザイン学部教授

学界における専門家ぞろいですね。

その公益委員がどんな見解を述べていのか、確認してみます。

・平成29年全員協議会報告の3(2)で合意された今後の目安審議の在り方を踏まえるべき

この「全員協議会報告」は、この資料です。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/17031701.pdf

3(2)とは、
「3 目安審議の在り方について」の、「(2)今後の目安審議の在り方について」のこと。

以下のような内容が述べられています。

・今後の目安審議については、公労使三者が、その真摯な話合いを通じて、法の原則及び目安制度を基にするとともに、それらの趣旨及び経緯を踏まえ、時々の事情を総合的に勘案して行うという在り方の重要性について再確認するとともに、地方最低賃金審議会に対して目安の合理的な根拠を示すための努力など目安への信頼感を確保するための取組を一層進めていくことが必要である。

・近年の最低賃金の引上げ状況を踏まえ、最低賃金引上げの影響について、 参考資料の見直し等によりこれまで以上に確認していくことが求められる。

・引き続き、利用可能な直近のデータに基づいて生活保護水準と最低賃金との比較を行い、乖離が生じていないか確認するなど、生活保護に係る施策との整合性に配慮することが適当である。

・ 目安審議に当たっては、真摯な議論により十分審議を尽くすとともに、効率的な審議にも留意すべきである。

このあたりは、労働者側、使用者側双方の主張に配慮した、公労使三者(公益委員、労働者側、使用者側)の認識合わせ、かならず食い違うだろう主張の議論のベースとして、「この総論は賛成だよね」という空気を作っている感じです。

「加えて」の後にこそ、公益委員の主張を感じます。

・加えて、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」及び「新しい資本主義実行計画工程表」並び に「経済財政運営と改革の基本方針 2022」に配意しつつ、各種指標を総合的に勘案し、下記1のとおり公益委員の見解を取りまとめたものである。

下記1とは、この目安の表です。

以下、こう決まった経緯が、最低賃金法第9条における3要素(賃金、労働者の生計費、通常の事業の賃金支払能力)に基づいて述べられていますので、具体的に見ていきます。

1.賃金

使用者側が重視している「賃金改定状況調査結果」第4表をとりあげ、賃金が上昇していることに触れ、「同表における賃金上昇率を十分に考慮する必要がある」としています。

ただし、「今年4月以降に上昇している消費者物価の動向が十分に勘案されていない可能性がある」ということが懸念点としてあげられています。

2.労働者の生計費

消費者物価指数が上がっていること、そしてその各種指標のなかでも、最低賃金に近い賃金水準の労働者にとっては必需品的な支出項目に係る消費者物価の上昇が厳しいという見方のもと、最低賃金の目安が、今年4月の「持家の帰属家賃 を除く総合」が示す 3.0%を「一定程度上回る水準を考慮する必要がある」としています。

3.通常の事業の賃金支払能力

法人企業統計における企業利益(売上高経常利益率)、業況判断DI、中小企業景況調査などで、コロナ禍からの改善傾向が見られる。
だが、コロナ禍や原材料費等の高騰により、賃上げ原資を確保することが難しい企業も少なくない。

4.3要素をもとに審議した結果、この目安に決めた根拠

・賃金について、上昇率は大きいが、今年4月以降の消費者物価の上昇分が十分には含まれていないこと
・労働者の生計費については、「持家の帰属家賃を除く総合」が示す 3.0%を一定程度上回る水準とし、さらに、最低賃金について、政府が「できる
限り早期に全国加重平均が 1000 円以上」となることを目指していることも踏まえると、可能な限り最低賃金を引き上げることが望ましい。
・通常の事業の賃金支払能力について。まだまだ経営状況の厳しい企業が多いが、最低賃金は、経営状況にかかわらず労働者を雇用する全ての企業に適用され、それを下回る場合には罰則の対象となる。とすると、引上げ率の水準には一定の限界がある。

これらを総合的に勘案しつつも、物価の値上がり幅が大きい現在、3要素のなかでも労働者の生計費を重視し、3.3%を基準として目安を検討することが適当である。

5.政府への要望

労働者よりの判断となったが、中小企業・小規模事業者の賃金支払能力の
点で厳しい結論となっているため、生産性向上の支援や官公需における対応を含めた取引条件の改善等をもとめる、としている。

具体的には、以下のとおりです。
・可能な限り多くの企業が各種の助成金を受給できるよう一層の取組をする
・生産性向上にかんする業務改善助成金については、原材料費等の高騰にも対応したものとし、最低賃金が相対的に低い地域において特に重点的に支
援を拡充する

6.「地方最低賃金審議会への期待」とは

最後に、「地方最低賃金審議会への期待」として、以下の内容が述べられています。

・この目安は地方最低賃金審議会の審議決定を拘束するものではないが、目安を十分に参酌しながら、その地域の経済・雇用の実態を見極めつつ、自主性を発揮することを期待する

・中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する

使用者側は、「中央最低賃金審議会の目安額は地方最低賃金審議会を拘束する性質のものではないことを小委員会報告に明記」を希望していました。

確かにそこは明記されています。

そして、「地方最低賃金審議会は地域別最低賃金額及び発効日について、当該地域の実態を踏まえて決定できることを確認したい」との要望もありました。

それも、明記されています。

ですが、その後の、中央が地方を「重大な関心をもって見守ることを要望する」…

ここでなんとなく圧を感じるのは私だけでしょうか?


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