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既にそこにあるもの

大竹伸朗 著

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「この本、読んだことある?」

大竹伸朗さんとの出会いは、当時、CDジャケットのデザインを書で描いてみないか?と依頼して下さった、ある方からのおススメだった。

「君なら好きかも。きっと面白いと思うよ。」

オオタケ シンロウ

その時、初めて知った名前。
作品を生で拝見した事もなかった。
エッセイかぁ…。
あまり気乗りしないまま、読んだ記憶がある。

どんなアーティストなのか、全く調べずに先入観を敢えて排除して。

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"夜と朝のあいだには何がある。
瞬間を越える闇が飛び、岩に砕ける波が舞い、
電波からまる音が吹く。
陽の昇る直前、すべての音を星に返した海は
ほんの一瞬、あらゆる音を消し去る。…
     〜夜と朝のあいだに より抜粋"

ブルースのようなテンポで情景が刻まれていく。
自身が通り過ぎてきた日常や創作、音楽活動などについて書かれている。

初めは、少し入りにくかったものの、読み進むにつれ、人物像が徐々に頭の中のキャンバスに描きこまれていく感触。

正直なところ、響いてくるものもあれば、
全くピンとこないエピソードもあった。
ただ、なんだろう、細いけれど何か糸のようなものが心に巻きついている感じがした。
読み終わっても、どうにもスッキリしなかった。

気になる…どうしたって、引っかかっている。
何故なんだろう??

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それから暫くして、タイミングよく、
大竹さんの個展が開かれた。
生で観ないワケにはいかない!!
本を勧めて下さった方を誘って、行ってみた。

その頃には、"大竹伸朗"というアーティストについて、いろいろと調べて、古い雑誌やら限定の画集などを古書店で見つけては読み漁り、それなりに何となく情報量も増えていた。

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個展は、閉じられないほどにページに貼り込まれたスクラップブックや蛍光色に塗られた花など。

グッと腹の底から引きずり込まれるような、
そんな力強さと危なさに、ソワソワしたのを今でも覚えている。

…そして、宇和島在住の大竹さんが、その日は、
上京されていたらしく、画廊の方がわざわざご本人を呼び出して下さった。

控えめで、でも、気さくで優しい方という印象。
緊張と嬉しさで舞い上がってしまい、何を話せばいいのかドキドキした。

「今、銭湯創ってるんだよー。頼まれて。またすぐに戻らなきゃならないんだよねぇ…。」
と、大竹さん。

え?せ、銭湯??!!

どうやら、アートの島へと着々と変貌していた
直島に大竹さんが設計デザインする銭湯を建てるらしい…。

今や、その銭湯を一番の目当てに訪れる人も少なくないほどの、あの、銭湯。

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結構な時間、お話しをして下さり、あの日は
貴重な体験の一つとして鮮明に焼き付いている。それからまた暫くして、私は、直島を訪れることになるのだが…。

大竹さんと初めてお話させて頂いてから、アートに対する蓋が少し外れた気がしてならない。

"誰も頼んでないのに、本能的にどんどんつくっていってしまう奴、私はやはりそういう奴を信じる。(中略)
どうしようもねえゴミにすらなれないものも、
一瞬「オッ最高」と心の中で思ってしまうものも、そんなことはどうでもいいから、どんどんどんどんつくり、そして容赦なくそれを壊し、そしてまたどんどんどんどん作る奴、私はそんな奴を無言で信じる。…"
〜「未発表の絵」と私 より

私の心の糸は、そこに繋がっていた。

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