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しおり

気に入っていた本のしおりを無くしてしまった。

そもそもわたしは普段から文庫本を買うことが多い。そして文庫本には、たいてい紙のしおりが挟まれている。なので、いつもはそのしおりを有り難く使わせてもらっているのだ。ちなみにわたしが好きなしおりは、蔦屋書店のもので、シンプルなデザインに一言「本におかえりなさいませ。」と書かれている。なんだか、ジーンとしてしまうこの言葉。思わず心の中で「ただいま。」と答えてしまう。

そんな、文庫本購入と同時にもれなく無料でついてくるしおり愛用者のわたしが、いつ、その”お気に入りのしおり”を使うのか。それは、言うまでもなく”文庫本以外を読むとき”である。少し大きめのしおりだったので、単行本や雑誌、デザイン画集などを読むときには重宝し、気に入ってよく使っていた。

気に入っていたのはサイズだけではない。実はそれは、スペイン旅行で立ち寄ったサグラダファミリアで、自身に購入したお土産品でもあるのだ。サグラダファミリアの中から見える、美しいステンドグラスをイメージした凝ったデザインのしおり。それを見ているだけで、楽しかったあの旅行の記憶がよみがえってくる。大切な思い出の品だった。おそらく、もう同じものは買えないだろう。なんてこった。

とりあえず、思い当たる場所を探してみる。大きな声では言えないが、実はつい最近もなくしたばかりだったのだ。大切なものなのに、よく迷子にさせてしまう。だが、その時はすぐに見つかった。当時読んでいた本に挟んだまま本棚に置いてしまっていたのだ。今回もその線か、と思い、最近読んだ本をひと通りパラパラめくってみたが、見つからない。どこへ行ったんだ。しおりと言えば、ユーミンの「acacia」という曲に”銀の花の押し花 栞にしてはさんだ 好きな詩のフレーズに いつの日か誰かと開いて見つけたとき 笑えるような一途さで”という歌詞がたまらなく好きである。初めて聴いたとき、上品で繊細なこの素敵な歌詞に、とてつもなく惹かれた。

そんなしおりにまつわる好きな曲の紹介をしている今も、お気に入りのしおりは迷子のままだ。もしかしたら、好きな詩のフレーズに挟んだのかもしれないな、探してみよう。

そして後日、無事にお気に入りのしおりは見つかった。少し前に読んだ、柴咲コウさんの本に挟まり、静かに眠っていた。再開したしおりを見つめ、改めてそのデザインに惚れ惚れした。そしてわたしは写真を撮った。やはり素敵なしおりだ。もう無くしたくない。今度こそ迷子にさせまいと、わたしはそう心に誓ったのだ。

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