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#小説

小説?|ブルーハワイ・フロート

小説?|ブルーハワイ・フロート

前置き
 文学的な問題は一切孕んでいません。

本編
 午後一時半の中心業務地区は酷暑と言っても差支えがないほどに大気が煮えていて、アスファルトの照り返しが私の脚をストッキング越しに刺す。何故こうも高層ビルばかり空を埋め尽くすように建っているのか――それは地価が高い以上そうせざるを得ないのだ、そんなことわかってるのに――ただ、これではまるでコンクリートの雑木林と形容せざるを得ない。植林地でもいい。

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シークレット・オブ・ジェネシス 第84話『孤独の深淵―信頼の絆』

シークレット・オブ・ジェネシス 第84話『孤独の深淵―信頼の絆』

「どうしてそれを――!?」
明らかな動揺を見せたアルルに、ハルセはあの長い長い苦闘の日々を、「調べたんです。」の一言で告げた。

「そう……。イナンナがあなた方の情報収集能力を面白いと言い、手を組む有益性まで示唆していたのは、このことだったのかしら?
なら、もう隠す必要もないわね。

 彼の言った通り、『彩の血が流るる者』は変異ミトコンドリアDNAを持ち、アカシックレコードと意識を繋ぐコネクターと

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【ショートストーリー】君の代わりに彼を買った日 後編

【ショートストーリー】君の代わりに彼を買った日 後編

私はともくんに抱きしめられながら、夢と現のはざまを漂っていた。
彼の胸板の厚さとか、呼吸の気配とか、その囁きとか、耳に残る声とか。

見えないくらい近くで抱きしめられながら、私はともくんとただお話をしている。不思議な感触だった。
時々彼のヒゲが、私の肌にこすれる。その時に、微妙に私の身体が反応するけれど、ともくんはその事には一切触れない。

「やらないにしろさ、こういう接近戦はその子とは出来ねーだ

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思い出

思い出

 最近、初恋の子の夢をよく見るようになった。

その子との接点はそれほど多くなかったと記憶している。
こちらが一方的に思いを寄せていただけで、その恋が実ることはなかった。
十余年が過ぎた今、淡い青春の一ページとして俺の歴史に刻まれている。
きっと彼女の記憶の中に、俺は存在していないだろう。

だから俺は彼女を夢見た時、あの頃を懐かしむだとか、その子との思い出を振り返るよりも、「何故いまさら?」とい

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【詩】失っても

【詩】失っても

床に倒れこむようにひれ伏す

窓の隙間から細く光が射し

本の一頁を照らす

何もかもが全て崩れ落ち

何もかもが消え

誰もいなくなる

信じていたものは何

頼っていたものは何

委ねていたものは何

周りにうず高く積んで

これが全部自分のものと

声を出さずに見せつけていた

決して自慢ではない

決して見せびらかしてはいない

決して見下してはいない

それでも崩れる時は

一瞬に崩れて

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本音と建前

本音と建前

大人ってなんだろうね

沢山の情緒を含んでいて、純度が心地よい人を指したい

全く話さない方がいい内容なんだけどね

決して綺麗ではないし、

聞いたって何の言葉も返せない

誰かに通報すらしたくなるかもしれない

そんな話をね

どうか、あなたの正義でふと溢してくれるようなひと

傲慢な私

傲慢な私

瑠璃に必要なことは、「謙虚さ」だね。と、夫に言われた。
そう言われて反論できなかった理由は、確かに私は傲慢な女だから。

とびっきり美しいわけでもないのに、もちろん聡明なわけでも、
甘やかされて育った家庭環境とそれなりにうまくいった人生は
私の自己肯定感、というなの傲慢さを育むのに十分すぎる環境だった。

友達は言う。
「でも、たった一人の人生のパートナーくらいは、とびっきり甘やかしてくれてもいい

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【詩】一滴の温かさ

【詩】一滴の温かさ

辛苦の眠りから覚めるわたし
純粋な雫が胸の奥で
一滴落ちる

見たくないだけだった
聞きたくないだけだった
触りたくないだけだった

永い眠りの中で
飛び散る細かい粒が
新鮮な旋律とともに
わたしの中で響きだす

逃げ出した先の翳りの中で
安息なんてなかった
苦しさの中の永い眠り
聴きたかったのは美しい調べ

冷たい思ひが溶けて
心のドアをそっと開いて
くつろぎたかっただけ

逃げても追いかけてく

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【カオリ】letter

【カオリ】letter

一人きり

朝日差し込む部屋のカーテン閉め切り

いつかの夢に

囚われる

望んで囚われてる僕

気付いちゃいない君は

僕なりのこれ以上ない

愛 お伝えしても

迷い

悩み

どこか

遠くへ

突き進む

止める術も

引き留めておくような生き物でも

ない僕だけど

君だけには

気付いて欲しかった この気持ち

気付いたとしても

それでいいんだって

言ったのは

僕なのに

いい

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死花-第4話-③

死花-第4話-③

「ただいま。」

「おかえりなさい。」

家に帰ると明かりがついていて、当たり前のように絢音が出迎えてくれる。

その事実が嬉しくて、藤次はマフラーの隙間からクスリと笑う。

「すまんのぅ。遅なってもうた…」

「ううん。編み物してたから、全然時間、気にならなかった。」

言って、コートを藤次から受け取り、2人は居間へと向かう。

「編み物て…前に採寸した、セーターか?」

「うん。クリスマスまで

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コルトレーンの囁き Vol.1

コルトレーンの囁き Vol.1

『 破壊 』ノースリーブのロングワンピースにカシミアのストールを肩にかけてバルコニーに出る。素足にサンダルではまだ少し冷たい朝の空気に無防備な素肌がきゅっと引き締まる。眼前に広がる厚い雲に覆われた梅雨空はどんよりとして今にも泣き出しそうだ。

ここへ越してきてからすぐに、ヨーコはバルコニーでハーブを育て始めた。バジル、パセリ、ミント、ローズマリー、カモミール、レモングラス。目にも鮮やかなグリーンた

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人生草露の如し(番外編) 『告白』 / 【小説】

人生草露の如し(番外編) 『告白』 / 【小説】

美也子さんと出会って10年になる。

俺はそれまで勤めていた販売の仕事を辞めて、あるメーカーの営業職についた。

洋服の販売の仕事は楽しかった。自分にとても合っていると思っていた。昔から洋服やファッションに興味があって、幼少の頃からお洒落に気を遣うことが、日常の中でごく普通のこととして育った。それは紛れもなく、母の影響だった。

母はとても美しい人だった。俺がようやく物心ついた頃、朝目覚めて隣で寝

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人生草露の如し vol.3 / 【小説】

人生草露の如し vol.3 / 【小説】

仕事は滞りなく定時に終わって、待ち合わせの店へと向かった。

仕事帰りに男性と待ち合わせて食事をするなんてとても久しぶりだ。美也子は弾む心を落ち着かせるために、何度も深呼吸しては手持ちの小さな手鏡を覗いた。

よし、メイクは完璧だ。さっき会社を出る前に念入りに直した。パウダーをつけすぎると乾いてシワがくっきりと目立つので、なるべく自然に仕上がるように、丁寧にパフを叩く。そして一日経って疲れが目立つ

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人生草露の如し vol.2 / 【小説】

人生草露の如し vol.2 / 【小説】

企画会議は思った以上にスムーズに進んだ。来シーズンの主軸となる美也子の提案する新製品は、従来の人気商品をバージョンアップさせたデザインだった。対象となるユーザーの年代がいわゆるマダム層なので、キーワードは「 着て楽、取り扱いが楽、見た目がスッキリ 」という三つに絞り込んだ。本来ならもう少しデザインに凝って、繊細でモード感のあるマテリアルを使いたいところだが、いかんせん「売れる物作り」を意識すると結

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