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11歳の僕からの手紙~世界を旅色に、自分の手で変えていく~

拝啓。

25歳のキミへ。

元気にやっていますか。

小学6年生の僕だ。手紙を差し上げよう。

どうせキミのことだから、麻布十番のお洒落なBARでワイングラスを片手に読書でもしているのだろう。お酒の味は、美味しいかい。

あ、タバコはやめとけな。
親父はいまだに吸ってるけど、じいちゃんは癌でおっ死んでるんだから。

まあでも、きっとキミには邪念やわだかまりも多いんだろうな。
目に浮かぶよ。悩み続けながらも、人生をありとあらゆる方向で謳歌しているであろうキミの姿が。

だって、この僕の15年後の姿なのだから。


――さて、ちょっとだけ今の僕の話をしてもいいかな。

僕の今の趣味は、小説を書くことと、麻雀の勉強と、バックギャモンだ。
少し風変わりなあたりが僕らしいと思うんだけど、あとは野球や書道、ピアノなんかも出来る。

僕の家では「ポケットモンスター金銀」「パワプロクンポケット」を含めたゲームが全て両親に没収されてしまったから、今はこっそり友達の家に行って「大乱闘スマッシュブラザーズDX」と「カービィのエアライド」をやるのが楽しみだ。

僕の一番の趣味は勉強。基本的に、毎日深夜1時まで、勉強漬けの日々を送っている。勉強が楽しくて楽しくて仕方がないからね。学校のテストでは全科目100点以外をとったことがないし、塾でも特進クラスのトップ3には毎回入っている。無論、周りからも一目置かれる存在だ。

学校の宿題は僕だけ全て免除。「僕はもう中学の勉強をしている」「宿題は時間の無駄だ」って言ったら担任の先生は何も答えられなくなったし、やらせる意味がないって彼女自身もハッキリ分かっていたから、そのまま5年生の夏休みぐらいから完全になくなった。良き理解者だよ、S先生は。

そうだ、音楽にちょっと興味が湧いたから、この前自分のお小遣いでスキマスイッチの「ボクノート」を買ったよ。15年後は、一体どんな音楽が流行っているのかな。

どうせ天才のキミのことだから、NYのユニオンスクエアに庭を建てているアーティストでも好きになっているのだろう。それか、親父がよく聴いているビートルズかな。「In My Life」。あれは色褪せないいい曲だ。

想像すればするほど、キミの人生は彩り豊かで面白そうだね。


――突然だが、僕はキミを理想の形にする為に、自分自身で自分の生きる世界を変えてこようと思う。

今、僕は文武両道という最強のポテンシャルを持って中学受験に挑もうとしているわけだが、僕の人生の“青春”はどうやらもう直線上からは遥かに外れていて、一般の小学6年生では覚えないであろうセンシビリティも発生しているわけだから、明らかに“普通”ではないのは自分でもよく分かっている。

今の僕は、両親に緻密に設計されながら組み立てられているサイボーグ

でも、美味しいものを美味しいと感じたり、黒川の清流公園でザリガニを釣るのが楽しかったり、バックギャモンで相手の駒をBar(枠)に押しやりまくるのがドS心を擽られたり、そういった子どもならではの純粋な感覚は、どうやらまだまだあるみたい。

この何気ない感情の一つ一つが、原体験に繋がる…のかな。
だとしたら僕はこの積み重ねを大切にしながら、しっかり両親に対して反発していきたい。

今の僕の11年間の“偽り”のヒストリーは、あまりにも面白くないからさ。

世界を変える、と言ったね。
ここでいう世界とは、勿論自分の中の世界観の話だ。

全然興味もないけど、今のうちに恋でもしておこうか。だってさ、男子校に行ったら6年間女子と話せなくなるんだもんな。僕は他の連中と違って中学から埼玉県に越すし、そうしたらこいつらとはもう会うこともなくなる。

そうだな…クラスで一番可愛くて僕に気がありそうなYちゃんとか。それか、幼馴染のA。多分、あれも僕のことが好きだ。

今度「多摩平の図書館へデートしに行きませんか」って誘ってみよう。

あと手っ取り早そうなのは、小学校を統治することだな。僕が生徒会長に立候補したら間違いなく仲間たちの組織票で通るだろうし、多分この小学校はあっという間に僕色に染まる。…あっ、なるほど。これが宗教。笑


…あれ。案外世界を変えようと試みるのも、つまらないな。

だって、100%可能なことしかないんだもん。成功する未来は容易に浮かぶし、それこそ宿題と同じぐらいやる意味がないのではなかろうか。

僕って、逆に何が出来ないのかな?

今気づいたが、僕はもしかしたらとてつもない異常者で、とてつもなく孤独な人間なのかもしれない。

一人で何でも出来てしまうんだ。周りが僕のレベルについてこれない。

“普通”じゃない小学6年生の思想を持っているこの僕に、“普通”の“青春”が訪れる筈がない。訪れなくてもいいとは思うが、少しだけ違う。

“普通”にはなりきりたくないけど、少しだけ“普通”でもありたい

僕は25歳のキミに宛ててこれを書いているけど、その先の30代や40代のキミのことも気になるし、キミたちの為に今を必死で生きようと頑張ってみたいけど、どうやら僕はそれ以前に“普通”じゃないことを“普通”に悩んでしまったようだ。

キミは何をしている?僕は15年後にどう輝いている?

やっぱり「孤独」で「異常」なのか?

現在(僕)が未来(キミ)を彩る為には、何をしたらいいだろう?

分からない。

分からない。

分からない。

眠い。

分からない。

分からない。

…分かった。

帰ろう、故郷に。

僕の生まれの地、福岡県に。

一度、一人で「旅」をしてみれば何かが変わるかもしれない

僕が一番落ち着く場所へ。


…ああ、未来。
想像も、創造も、できないな、初めて。

有明海で、カニを捕まえたい。じいちゃんとクラゲ漁をやりたい。親戚の皆でゲンゴロウを食いたい。もっと、もっと、何か出来そうだけど…。一体、何が起きるんだろう。

好奇心。

“普通”ではないけれど、行った先は日常に包まれてて温かそうだ。

新しいし、面白そうだし、ワクワクする。

一人で行ってもいいか、あとで親父に聞いてみよう。
福岡空港までは、じいちゃんとばあちゃんが迎えに来てくれるはずだ。


――なあ、15年後のキミ。結果を教えてくれよ。

君の人生は、豊かに彩られたかい?

この僕の一つの行動で、どう変化した?

僕の人生はもしかしたらここからスタートしたのかもしれないよ。

教えてくれないか。

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