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第2回聴覚障害当事者研究シンポジウム2019報告書が完成しました。

2019年9月29日(日)に宮城教育大学で開催した「第2回聴覚障害当事者研究シンポジウム2019」の報告書が完成しました。第1回シンポジウムと同様に無料でダウンロードできるようにしましたので、関心がある方はぜひご覧ください。

第2回聴覚障害当事者研究シンポジウム2019報告書(PDF版)

無題

シンポジウム当日のプログラム、開催趣旨、基調講演(東京大学先端科学技術研究センター准教授 熊谷晋一郎先生)及び聴覚障害当事者5名による話題提供の内容を書き起こしたもの、および参加者の方々が記入してくださったシンポジウムの感想の一部を掲載しております。特に、熊谷晋一郎先生(脳性麻痺当事者)は、当事者研究について研究されている立場から、先に発表された聴覚障害当事者5名による当事者研究の実践にコメントする形で、聴覚障害当事者研究はどのような意味を持つのかについて大変興味深い講演をしてくださっています。なお、シンポジウム当日の配布資料(プレゼンテーション資料)は当日に参加した方々にのみ配布しており、本報告書にも掲載しておりませんので、ご承知おきください。

当事者研究は、端的に言えば、当事者が自分の苦労(困りごと)を研究することです。苦労を抱えている人自身が、その苦労の構造や成り立ちを研究することで、どうして自分はその苦労をしているのかを見出していくようなアプローチです。当事者ではない第三者(例えば、支援者や専門家)が当事者の考え方や行動を改めたり変えたりするために行うものではないのですが、今もそうした誤解がまだあるようです。むしろ、当事者が当事者研究をすることによって、第三者は、当事者の”ソト”から見て「困った人だなぁ」と捉えるのではなく、当事者の”ナカ”から見て「ああ、このように困っているんだなぁ」と捉え直し、自身の考え方や行動を改めたり変えることにつながることが大事なのです。

熊谷晋一郎先生の説明によれば、そうした当事者研究は、現在、障害や病気の有無に関わらず苦労を抱えている人々によって取り組まれている、とのことです。聴覚障害の領域であれば、聴覚障害のある者だけでなく、家族、聾学校教員、手話通訳者、聴覚障害関係の研究者なども当事者として取り組むことができるのです。

精神障害の領域で始まった当事者研究は、その後、発達障害、慢性疼痛、聴覚障害者、認知症、吃音者、ホームレス状態の人々、トップアスリート、企業、こども、特別支援教育の現場など、障害や病気の有無を超えて、広く様々な苦労を抱えた当事者へと急速に広まっています。こうした現場の共通点は、既存の専門家の言葉や、既存の当事者グループの言葉では十分に自分の苦労を表現できない人々が集まっているという点です。
「当事者研究から見える社会」(視点・論点) 2019年11月12日

そのなかで、聴覚障害当事者による当事者研究に関しては、感覚、認知、情報、意思疎通、対人関係、自己物語、学校教育、障害学生支援など多岐にわたる苦労のテーマがあることが、第1回と第2回聴覚障害当事者研究シンポジウムの開催によって見えてきました。また、それぞれのテーマで取り組んだ研究のスタイルや進め方も具体的に発表してもらっているので、聴覚障害の領域における当事者研究の実践的なイメージが少しずつ明確になってきていると感じます。

ぜひ、第1回聴覚障害当事者研究シンポジウム報告書とあわせて読むことで、聴覚障害の領域で、聴覚障害のある者、家族、教員、通訳者、専門家などがお互いの苦労をわかちあい、新たな対話の地平を切り開く可能性を感じ取ってもらえたらと思っております。これからも色々な方法で聴覚障害当事者研究の事例を収集し、発信・共有する場を提供していきたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。