あの頃  【詩】

台風が過ぎ去って
夕方が
異常なほど朱い
あれはいつだったか

今でも思い出す
夕暮れの夏の広場で
稚気とした愛しい目をした
あの娘は今頃
風が冷やした砂を裸足で踏んで
決して知られぬよう嬉しさを隠して
腰の高さの餅草を飛び越えてみせた
恥ずかしそうに目が合い
微笑んでくれた

恋もましてや愛も
知らない無垢に 純真に
好いていることに気付いた自身の想いは
今も私を密かに喜ばせる

引っ越してしまったあの娘も
この夕暮れを見ているだろうか
あの頃のように
微笑んでくれているか
懐かしさでなく
愛しさでなく
ただ ただ穏やかに
貴女を想います

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