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悪い奴らをやっつけろ_2016年の週刊文春

最近読んだ本
・春と修羅 宮沢賢治
・量子革命 マンジット・クマール
・ソラリス スタニスワフ・レム
・飽きっぽいから愛っぽい 岸田奈美
・街とその不確かな壁 村上春樹
・2016年の週刊文春 柳澤健

並べてみたけれど我ながら脈略のないセレクトだ。

私は活字中毒で常に文字を追っていないと不安になる。
最近はスマホがあるから助かるけれど、昔は通勤中に読んでいた本が出勤の電車の中で読み終わってしまって、家に帰れなくなったくらいだ(本を持たずに地下鉄に乗れない)。その時は駅の本屋に駆け込んでとりあえず読めそうな本を買って何とか遭難を免れた。

一番最近読み終えた本は「2016年の週刊文春」。文庫版で736ページという、文字を読み続けたい人間にとってありがたいボリュームのある本だったのだけれど、とても面白くてあっという間に読み終わってしまった。

常に文字を追いかける人間にとって地下鉄の中の週刊誌の中吊り広告は精神安定にとてもよく、中吊り広告があると特に興味がなくても右から左までしっかり読む。「2016年の週刊文春」を読んで、中吊り広告の左端と右端の広告記事には意味があるということを初めて知った。

週刊文春。文春砲などと言われて今週も野球選手の性的暴行疑惑のスクープがでている。彼はいま、これから数十億を稼げるはずだったプロ野球の選手生命を絶たれる瀬戸際だ。

私は芸能人やスポーツ選手のゴシップ記事にはほとんど興味はないけれど、力を持つ者がそれを利用して弱いものを虐げたり権力を利用して利得を得たり、自分の罪をもみ消すようなことはあるべきではないと強く思う。

日本の報道の自由度は71位(2022年 国境なき記者団調べ)。日本にいると自由な国だと思っているけれど客観的に見たときに、日本は報道に大きな制約がかかっているということだ。記者クラブのような既得権益、政府を批判する報道を握りつぶす権力者、芸能事務所に忖度するマスコミ。権力を持つ者について、本当に起こっていることを知ることがほとんどできないのが今の日本の報道だ。

そんな中で週刊文春はスクープを続け、どこにも忖度せずに事実を報道し続ける。なぜ週刊文春以外の雑誌、新聞ができないのかというと、記事に対して最近は高額の名誉棄損の損害賠償訴訟が起こされ、中途半端な取材に基づく報道は訴訟に耐えられないということだ。その意味で、週刊文春が記事に出す時点で訴訟されても勝てるだけの取材をして証拠を積み上げていることで、それが記事に迫真さと説得力を生んでいる。

週刊文春のスクープ主義がランキング71位の日本においてどれだけ孤高の存在かということが「2016年の週刊文春」を読むとよくわかるけれど、それ以上に面白いのが編集部についての話だ。著者も文藝春秋でナンバーや週刊文春の編集者だったのでその内実については見てきたかのように(見てきたのだ)真に迫っていて面白い。


「2016年の週刊文春」。報道の自由もなく、マスコミが既得権にしがみつき、権力者に忖度する時代の孤高の存在。今の不自由な日本に生きている私たち、不自由だということさえ分からなくなっている日本人が今読むべき本だ。



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