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3 初めての授乳

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 作業小屋の汚れたタオルでくるまれていたのだから、少しキレイにしてあげたい。もしかしたらノミだってついているかも知れない。衛生第一。ひとまず小さな子をダンボールに寝かせておいて、ホームセンターへ走った。

 低刺激性のシャンプー、カゴ型のベッド、哺乳瓶、ミルク、トイレシートなど、子犬の世話に必要そうな物を買い揃える。生後1〜2週間の子犬にシャワーを当てても良いものか迷ったが、人間だって生まれたばかりで産湯に浸かるんだし、優しくすれば良いじゃないかと人肌の温度に調整した柔らかなシャワーで洗う。

 そしてミルクの時間だ。
 ネットで検索すると、お母さんのいない子犬の授乳は「3〜4時間おきに1日6〜8回」とある。何しろ私は自宅でパソコンひとつで仕事をしているフリーランサーだから時間の自由は効く。ドンと来いだ。
 さて哺乳瓶での授乳、これがまた勝手がわからない。私が右手に哺乳瓶、左の手に子犬を載せてミルクをやろうとするが、掌から乗り出そうとする子犬と子犬が落ちないように支えようとする指との格闘で、とても穏やかな食事時間を提供することができない。見兼ねた妻が「私にやらせてごらん」と言うのでやらせてみた。

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 妻が自分の体と掌でそっと子犬をささえ、哺乳瓶を子犬の口元に近づけると実に安定した体勢で子犬はミルクを飲んだ。子犬が安心し切っている。手のひらで優しく犬の体を受け止め、口元へ哺乳瓶を近づけている。力づくで子犬を黙らせようとする私とは大違いだ。

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 子犬はまだはっきり目が見えていないらしい。何度か授乳をするうち、2日前に初対面した時の「生まれたばかり感」が薄れて来ている事に気づいた。授乳して一眠りする度に成長しているのだ。授乳後の寝姿はまだお母さんのお腹の中にいた頃のままで、四肢を丸めてピッタリと体に付けている。どうやら妻にもこの子を迎え入れたと言う実感が湧いたか「名前、どうしようか」と言い出したのは妻の方だった。妻だって昔は実家で犬を飼っていたのだし、嫌いなわけではないのだ。

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