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短編小説23-2完「君は鏡なんか見ないと言ったけど」

短編小説23-1「君は鏡なんか見ないと言ったけど」の続き

「どうする?」
「どうって言われても、同性だし……」
「もう気が付いてもいいんじゃない? 秘。君は男だよ」
「光君、何変なこと言ってるの」
「変な事じゃないよ。秘は男だ」

 いつになく真面目に言ってくる光。

「そんなのおかしいよ! だって私は」

 と、言いかけて止まる秘。

「私、は……」

 何か言おうとする秘を待つ。

「私は……光君が好きなんだもん……」
「それでも君は男だよ」
「なんでそんなこと言うの? いつもあんなに一緒にいたがるじゃない!」
「高守先輩に告白されたじゃん?」
「それが、何? 先輩に告白されたから引き下がるの?」
「違うよ」
「じゃあなんなの!? 急にわけわからないこと言ってきて」

 秘は男だ。そんなことを言われて受け入れることなんてできないだろう。
光が言い合いの中で、宣言する。

「俺は、ずっと高守先輩が好きだから」
「え」

 自分の告白直後に聞かされるとは思ってもいなかった。光は自分のことだけを見てると思ってた。鏡の中にいる光には、それしかできないのだから。自分の周りから離れられないのだから。
 だから、光の思いを否定したくなっていた。

「鏡から出れないくせに、好きになったって仕方ないじゃん。光君が先輩を好きなら、私は先輩に近づかないよ。そしたらもう会えないもんね、いいの? でも鏡から出れないもんね」

 秘は自分でも嫌なことを言っているとわかっているが、つい勢いに任せて言ってしまう。

「秘はまだ思い違いをしているよ」
「何が? 光君は私のいる場所にしか居られないくせに」
「だいたい鏡に他人が映るわけがないんだよ。ファンタジー漫画じゃあるまいしさ。いいかい? 俺は秘、君自身だよ」
「はぁ? じゃあなんでいっつも可愛いねとか言ってくるのさ。自分に言ってるとかキモくない?」
「そうだね、キモいかもしれない。けど、それを言わせてるのも秘だよ。自分自身を鏡の中に閉じ込めて、違うものになろうとしてね」

 ショーウィンドウに向かって独り言を言っている不審者にしか見えない。
 普段なら、気にして控えている行為だが、今はそんなことを気に留める余裕がないのだ。高守の告白を受けただけで、状況が一転二転三転と……。

「できてるじゃない……光君と話ができてるじゃない!」
「秘の自作自演だよ。今この会話をしてる時点で、気づいてきてるんじゃないの?」
「なんだよ、それ、何の意味があってそんなこと、しなきゃならないんだよ」
「女の子に振られたからでしょ? 騙されて、傷ついて、女の子に騙されないようになるために、自分が女の子になろうとしたんだよ。思い出しなよ。もう逃げるなよ」

秘。ではなく光の記憶に出てきたのは、一年前のことだ。ファミレスのドリンクバーで時間をつぶす女子高生二人。

「ねぇ美千(みち)~、光君どうなの? 付き合ってんの?」
「はっははは、なわけないっしょ。ただの財布。財・布」
「うっわ美千ちょー悪女! 学ばせて~」
「キャハハうっぜ、てかさ財布にされる方が悪いっしょ?」
「言えてる。で、その鞄どうすんの?」
「売る」
「いいバイト代になるねぇ」
「たりめぇっしょ。デートしてやったんだから、これくらいのバイト代は出して貰わないと」

 見た目の良さに誰もが騙されるであろう清純系。しかしその性格は破綻している。肥溜めから生まれたのだろうと確定させるに足る人格だ。
 そんな女子高生たちの一方。少し離れた席で、精神の崩壊した男がいた。

「なぁ光、聞いてるか? だから俺の彼女がさ」

 友人に話しかけられているが、耳に入っていないようだ。一人、世界から遮断されたかの如く、纏う空気が停止する。
 そんな友人の異変に気が付いたのか、自分の話を辞め、光を心配し始めた。

「どうした?」

 聞くが返答はない。しかし、騒がしい女子高生の会話は、ちょっと意識すれば聞こえてくるのだ。
 そして、光の状態を理解した。

「あれって、お前の彼女……じゃ」

 光の記憶はここで消える。ショックで気を正常に保てなかったからだ。次に周囲を意識し始めたときは自宅であった。
 ファミレスにいた友人が運んでくれたようで、側についていてくれている。

「すまん」
「お、おお、だ、大丈夫か」
「……ああ。ありがとな送ってくれて」
「いや、いいんだ」

 特に何か話すわけでもなく、友人はしばらく光の部屋にいて、じきに帰った。
 顔を洗おうと洗面所に来た光は、鏡に話しかける。

「光君、こっち見ないで」
「えー、なんでだよ秘ちゃん!」

 鏡に映る光が返答した。

 秘は思い出してきたように、よろめいてショーウィンドウに背中を預けた。口調も光と呼ばれている人格に近づいている。
 そこに追い込みをかける光の人格。

「そんな秘を高守先輩は好きになってくれたんだよ。秘を男として好きになってくれたんだよ。だから、どうするの?」
「信用できるかよ。あいつだってまた俺を裏切るかもしれないだろ。ったく、どうしてくれるんだよ光、お前のせいで戻ってきそうだよ」
「俺も君なんだから、戻りたがってるのは君なんじゃないか? 高守に惹かれたんじゃないのか? ……俺は先輩が好きだ」

 ショーウィンドウ前に座り込み、完全に口調が戻った秘は、会話のように本心を探る。
 その姿は、クスリでもやってるのではないかと疑われてしまいそうだ。
 しかし、幸運なことに周りには誰もいない。高守が告白の為に、人気のない場所を選んでくれたおかげだ。
 呼吸を整えた秘が、鏡に映っていない、生の自分の姿を見る。

「服。男物だな」
「当たり前だろ。おまえが光って呼んでる俺は、鏡に映ったおまえなんだから」
「気分は女の子だったんだ。色んな女の子とも仲良くなったし、高守先輩と仲良くなれたのも、きっと光のお陰だ」
「俺の?」
「光がいたから、秘が作れた」
「そうか。今のお前はどうなんだ?」
「光であって秘でもあるんじゃないかな。そうだなぁ、なんとなく変われた気がする」
「なんとなくね」
「まだ、違和感しかないけどな」

 自分の現状。他人だと思っていた人が自分だったという事実に、自我が浮遊している感覚になっていたが、落ち着きを取り戻してきた。

「高守先輩に感謝しないとな」

 そこに、光が問題を掘り返してくる。

「高守先輩のお陰で、気づけたんだもんな」
「決めたよね? もう」
「うん、ありがとう。光」
「じゃあ、元気でな」

 最後に光が肩を叩いた気がした。
 立ち上がると、高守が走り去っていった方に向かっていく。もう居ないかもしれないし、見つかるかもわからない。
 けれども、今日伝えたい。と、駆けていく。

「秘?」

 ガツンとブレーキをかけて止まる。呼ばれた気がしたから。光(こう)? と思うが、姿が映るものはない。
 居るのは、フェンスに寄りかかりこっちを見る高守だ。

「あ、高守先輩」
「ど、どうしたの、そんな走って……」
「先輩がこっちに行ったから」
「……追って来たの?」
「うん」
「雰囲気、ちょっと変わった?」
「そう?」
「なんで?」
「えっと」
「なんで追って来たの?」

 二人の声以外、静かに時が過ぎる。

「ありがとう。俺を好きなってくれて」
「恥ずかしいんだけど……」

 告白したばかりで、逃げ出した高守にとっては、見つかってしまった今が、とても恥ずかしい。だから、俯きながら嬉しそうに呟いた。

「俺でよければ、彼女になって!」

 俯いている高守は顔を両手で隠す。

「うん、お願いします」

 顔を上げた高守の目には、秘だった光が映っていた。


◆まとめ
 短編小説23-1「君は鏡なんか見ないと言ったけど」
 短編小説23-2完「君は鏡なんか見ないと言ったけど」
【マガジン】松之介の短編小説集

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