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ワーケーションを企画・実践するための問いかけ:「3つのS」

スタイルとしてのワーケーション

ワーケーションは地域、企業、ワーカーそれぞれにとっての「スタイル」と言えます。地域にとっては観光、関係人口、地元経済のひとつのスタイルとして、企業にとっては人材育成や開発などワークフロー、働き方のひとつのスタイルとして、ワーカーにとっては休暇や仕事のひとつのスタイルとしてワーケーションがあります。

8月に入り地域や観光業を中心に「ワーケーション」を冠した企画や制度、サービスが続々と出てきています。またこれから考える・企画するところも多いかと思います。その中で何がポイントになるのか。「スタイル:Style」にひっかけて「3つのS」の問いかけでチェックできるのかなと思います。

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そのワーケーションは「Stimulate:刺激する」ものになっているか?

ワーカーにとって休息・回復という意味での休暇もありますが、それだと「休暇中に仕事をするなんて!」という意見につながります。それはそれできちんと仕事を離れて休息する時間も重要かと思いますが、一方でリフレッシュしたり、自分の仕事やキャリア、生き方への刺激になるような時間としてワーケーションがありうるのかなと思います。

また地域にとってワーケーションを受け入れることが観光、関係人口、地元経済などの刺激になっているか・なりそうか。ワーケーションがこれらの何らかの足しになればよいということではなく、ワーケーションを受け入れることでそれらが再定義されたり、変わっていくきっかけになるか。

企業にとってもしぶしぶ認めるのではなく、人材育成や新規事業の展開、ワークフローの見直しのためにうまく取り込んで活用する方向を探るほうが健全ではないでしょうか。

そのワーケーションは「Story:共感できる物語」となっているか?

先の話と若干重複しますが、ワーカーにとってワーケーションが「休暇中に仕事をする」「できるのは一部の(優位にある)人たちだけ」というストーリーだと全然共感できません。メディアでの批判が多いのも結局、ワーケーション報道に共感できるストーリーがなかったからだとも言えます。

企業にとってはコストだけがかかりそう、といったものになっていませんか。

また地域にとっては観光業の穴埋め的な位置づけであればワーカーや企業は置き去りにされると感じるかも知れません。なぜその地域でワーケーションをすると快適そうなのか、面白そうなのか。それは機能だけの説明では他との差別化も難しいかも知れません。wi-fiがあって、温泉があって...というのは日本だと珍しくありません。

例えば、デジタルノマドたちに人気のチェンマイ(タイ)という都市があります。チェンマイは宿が比較的安いとか、コワーキングスペースがいろいろあってwi-fi環境も整っています。ただ大きな魅力のひとつはタイのなかでも古都としてさまざまな文化が入り交じるなかで「ランナー文化」と言われる文化が育まれてきた歴史を持っているというところにもあります。チェンマイと同様にデジタルノマドに人気のバリ島などもインドネシアにあって独特の文化を形成しています。

欧米ではベルリンなども有名です。もともと芸術が豊かで、カフェ文化があり、また波乱の歴史を持つ街でもあります。近年ではテックやデザインなども盛んで外国人が多い街としても知られています。他にもリスボン、ワルシャワ、プラハなどどこもwi-fi環境が整い、都市的な生活が可能なのと同時に、比較的物価が安く長期滞在でき、歴史・文化的にその都市・地域に滞在するために共感するストーリーがしっかりとある街です。

別に文化や歴史が直接的に仕事に関わるわけではないですが、長期滞在する中でそのような固有の歴史や文化と現代的なワークスタイルやライフスタイルと結びついているストーリーはワーケーションを行う人にとって魅力になりますし、地域にとってもシビックプライドに結びつくでしょう。

日本の地域もそこに特有の歴史や伝統、文化など資源・素材は多くあります。それを現代的な意味でどのように再定義し、ストーリーとしてワーケーションで滞在するように企業やワーカーに刺さるか、がポイントになるのではないでしょうか。そういった「語り手:ストーリーテラー」やメディア発信はワーケーション企画において重要な役割を担うと思います。

そのワーケーションは「Sustainable:持続可能」か?

ワーケーションを推進するためにイベント的な仕掛けは大事かも知れませんが、単発のイベントになりがちです。きっかけとしてはそれも良いかと思いますが、そもそもワーケーションが「観光以上関係人口未満」だとするなら一時的に盛り上がるのではなく継続的に来てもらう必要があります。

企業にとってもせっかく制度として整えても、限られた期間やメンバーしかできないなど取得のハードルが高かったり、支援がほとんどない、など社員が使いにくいものになってしまっては残念です。また社員の成長やビジネスにつながっているか、地域への貢献だけになっていないか、なども考えたいところです。

ワーカーにとっても、一生に一度、清水の舞台から飛び降りるようなものではなくもっと気軽にできるものでないといけません。いずれにせよ、ワーケーションを大規模なイベントやキャンペーンとして捉えるのではなく、もっとカジュアルに実施できるようにすることがポイントではないでしょうか。

最後に

ワーケーションの効果測定など実証研究も徐々に進んでいます。もちろんこれらの調査は重要ですが気をつけたいのは、生産性が向上するからといって、生産性を上げるためにワーケーションを行う、というのは若干筋が悪いのかなと思います。そうなるとワーケーションの成果報告書が求められたり、なぜワーケーションしているのに生産性が上がらないのか?などと問い詰められるかも知れません。それであれば普通に休みたい、となるでしょう。

そういった意味で、「なぜワーケーションが必要なのか」といった必要論ではなく「なぜワーケーションが面白そうなのか」「そういうのもやってみたい」という地域・企業・ワーカーそれぞれ三方良しの共感を組み込むことが本質なのかなと思います。


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