芸能人爆誕

ウキ!
僕は猿。お猿のモンタ。
飼い主は空豆二郎(そらまめじろう)。

とってもかっこいい、僕の飼い主!

二郎は、その名の通り三人兄弟の次男で、なんといってもその精神力!
三日間ずっとキャンプ場で焚き火を燃やし続けた男!
「もう朝ですよ。」
「さすがに熱いです。」
「多分意味ないですよ。」
そんな言葉にも屈せず、もうすぐ子供を産む母鳥のために、真冬の中火を燃やして温め続けた。
そんな母鳥は、焚き火が熱すぎて逆に子供を産むのに時間がかかったらしい。

その子供は、恩を返すために、よく地面がぬかるむと有名な三角州で修行中の二郎のもとにやってきて、最強の長靴を二郎に渡し去って行った。
僕はその長靴が気に入らなくて、子供の鳥に威嚇をしてしまった。
本当にダサかった。

しかしそんな素敵な飼い主の二郎は、僕にロッククライミングを教え切ってしまうと、急に体調を崩し肺の病気にかかってしまった。
死ぬ寸前に二郎が僕に残してくれた言葉はずっと忘れない。
「あばよ。楽しかったぜ。」

僕は空豆二郎という人間の偉業を、世界中に発信したい。
そう思って、YouTubeを始めたのが僕の人生の転機だった。

なにしろ僕は、二郎のおかげで、
・猿なのに日本語が喋れる
・なんとなく中国語も理解してしまう
・キャンプのいろはを知っている
・寿司を握れる
・人間のおごりを知っている
・筋トレできる

つまりハイスペックモンキーということ。

そんな僕にはエンターテインメントなど朝飯前であった。
YouTubeを一本上げれば一気に登録者が増え、動物系ユーチューバーとコラボし、テレビプロデューサーの目に留まり、とんとん拍子でテレビスターへ。
人気者の僕と、飼い主を亡くした哀れな猿としての僕とのはざまで感じた葛藤を本にすれば、爆発的ヒットを生み出し一躍印税富豪モンキーとなる。
Tedで、「猿が天下を取る方法」というプレゼンをさせられ、あまり良い評判を得られなかったのは苦い思い出。

そうして世界規模での大スターとなった僕は、いつの間にか空豆二郎との思い出がどんどん記憶から薄れていっていた。

さすがに猿のキャパシティだった。


二郎の十三回忌の法事。
二郎が夢で僕に会いにきた。

「モンタよ、お前は何をしたいのだ? 
人に合わせて笑い、ほどほどに嘘をつき、自分の精神を忘れかけている。
モンタの良さは、モンタの忘れ去ってしまった記憶の中にある。
俺は、モンタには、自分がどれほど素晴らしい存在なのか、しっかりとわかっていてほしい。」

二郎へ。
ごめんなさい。
僕はいつの間にか二郎の教えを全て忘れ、慢心モンキーへと変貌してしまっていた。
一人になると不安で、毎日パーティーで飲み明かしていた。
パーティーで、あったかどうかもわからない二郎との感動エピソードを自慢げに話していた。僕は、二郎を自分をよく見せるための道具にしてしまっていた。
二郎がくれた優しさを、全てみにくい俗世のゴミへと変えてしまっていた。
僕の原点は二郎だというのに。



僕はこれまで見てきたキラキラした芸能界での出来事を全て忘れることにし、二郎について、どんな人間であったか、彼の精神力について、圧倒的な人徳、それらを全て思い返すことにし、僕が失ってしまったものを取り戻し、自分について、どんな猿であるべきか、深く考えることにした。


そんな僕の隠居生活を、また本にして出版してしまったこと以外では、後悔のない時間を過ごしている。


僕が人生を駆け抜けて、おじいさんになって太陽に当たりながら死ぬことになったら、真っ先に二郎に会いにゆく。そして、これまでの後悔と、謝罪と、抱えきれないほどの感謝を何時間でもかけて伝えるよ。
僕は、いっときは大スターにもなったけれど、結局僕を救ってくれたのは二郎の教えだ。僕には二郎。これが全てだ。

一生分の愛を込めて。
              モンタ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?