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【1からの消費者妄想】#hitucb「とりあえずビール」スクリプト

※消費者行動論という授業で(思いつきで)話した小話、あるいはあまりにもくだらなすぎて話せなかった与太話を、(思いつきで)ここに書きしたためます。教科書が『1からの消費者行動』なので「1からの消費者妄想」という名前にします。

授業でスクリプトについての話をしました。スクリプトとは、「台本」のことだと説明しました。例に挙げたのが、レストラン・スクリプトです。皆さんは、レストランに入って食事を注文して食べて会計をするまでに、決まった順序で各ステップを行います。注文の前に会計はしないし、「何名です」と店の人に言うのは必ず最初です。当たり前ですね。このように皆さんは、レストランで食事をするときに、決まった「台本」に沿って行動しているのです。ぼくたちの消費者行動にはこのスクリプトが充ち満ちているのです。

こうしたスクリプトは、文化によって違う場合があります。例えば食事や呑み会で「とりあえずビール」を頼むというスクリプトは、極めて日本的なものです。しかし皆さんのような若者たちは、最初の一杯がビールであるべきだという「ルール」を知りません。同年代同士で飲んでいるときには気づかないのですが、何らかの理由でおじさんと呑む機会があると、そのことに気づくのです。

いや、気づかないんだよね、ほんとうに。おじさんは、居酒屋の席に座ってから、どれだけ早く最初の一杯(ビール)を全員分揃えて、乾杯して呑み会をスタートさせるのか、ということに命をかけています(本当だよ)。それなのに君たちは「カシオレ」とか「カルアミルク」とか「なんとかサワー」とか、おじさんからすれば意味不明な飲み物をてんでばらばらに注文するものだから、注文を取るのに時間がかかるし、もちろん全員分届くのも時間がかかります。

呑み会をいかに早くスタートさせるのか、ということに命がけ(本当だよ)なおじさんからすれば、乾杯までの時間の長さは非常に強いストレス要因です。いらいらしているんだけど、にこやかに談笑する周囲の若者たちはそんなことに気づきません。そんな状況を、同じくおじさんたるぼくは理解して、「この人怒らないかなと」勝手に焦ってしまい、届くまでの時間稼ぎのために、いろいろ工夫しなくてはなりません。「とりあえずビール」は日本的な文化と言いましたが、日本の中でも若者と非若者の間での文化的差異が生じているのです。

このように「とりあえずビール」という文化は廃れつつあるようです。別になくなっても良いと思います。しかしビール会社からすれば、由々しき事態かもしれません。ビールが好きか嫌いか関係なく(あるいはアルコールが苦手かどうか関係なく)、最初の1杯は全員が必ずビールを飲むというスクリプトがあれば、相当なビールの消費量が見込めます。しかし、皆ばらばらに違うものを頼んだら、当然、ビールを飲む人は減ってしまいます。

ただし、ビールは「とりあえず」の地位としては廃れているといえども、食中酒としての地位は依然として強いなあ、と感じます。割と良いレストランとかで、最初は(スパークリング)ワインなどで乾杯しても、2杯目にビールを頼む人は少なくありません。最近もそういう光景を見ましたが、ビールがないと落ち着かない人が多いのだと思います。その理由は、「とりあえずビール」を青年期以降、数多くの呑み会を通じて刷り込まれてきたことに求められそうです。この刷り込みがなくなってくると、将来はどうなるのか、ということは、ビール会社もよく考えていることでしょう。

よくよく考えてみると、「とりあえずビール」には2つのルールが含まれているようです。①最初に飲むべきものはビールである、②最初の乾杯はできる限り早く行うよう参加者は配慮すべき、の2つです。①が成立するがゆえに、②が成立する、という構図です。①が崩れつつあるいま、②も成り立ちにくくなったということですね。

この点をよく考えてみると、いろいろなマーケティング上の機会がありそうです。ドリンクメニューの構成をどうするのか? ニーズの多様性に対応しつつ、早く注文したものをお届けする、ということを、どう実現すべきなのか? スクリプトという考え方を知ることで、いろいろな発想が出てくると思います。

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