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「イネーズ」生まれたての前夜に その3

「その水や食料で得たエネルギーなんかは全部不思議なことに消えるんだ」

「はあ・・・?」

俺は少し理解できなかった。

「消えちゃう?」

「うん。私達は自分たちで動くことができないじゃない?だからその場にあった食べ物とか水とかを食べてくらしてるわけじゃん」

「はい、そうですね」

「これは多分、うーんわからないけど、本当なら食べ物も水もこんなに無いはずなんだよ。過剰にこの場所にあるの。不思議とね」

「だから、本当なら水や食料を奪い合ってしまって私達の数が減るんだと思う」

「でも減らないの。なぜならそこに水や食料があるから」

遠くの人たちはなぜだろう、誰かに話しをしているのだろうけど、なぜだろうそれが自分たちに言い聞かせてるように聞こえた。

「貴方のところ・・じゃあわかりにくいね。「おれくん」でいいかな?私達は「わたしちゃん」って呼んでくれればいいから」

どうやらこちら側を「おれくん」
少し離れた場所にいる人達を「わたしちゃん」としたいらしい。

「「おれくん」たちのところには水も食料もある

「わたしちゃん」たちのところにも水と食料がある

でも「わたしちゃん」達のエネルギーは消えていってる。

それを証拠に「おれくん」たちと同じ時期に芽を出したのに

背も足も、葉も根も「おれくん」たちより小さいままだもん。

これはなんでだろうって「わたしちゃん」も考えたんだけど

わからないんだよね」

俺はもう一度自分の足元を見た。
そして向こうの足元も見た。

俺はその疑問に対しての答えが見つかった気がする。
だけど、それを言っても解決しないだろうということもわかってしまった。

その疑問は「言わない」にしても数日中に「わたしちゃん」たちが水や食糧不足になったりとか、「言わない」ことで向こうが不幸になるなんてことはないもの。

ただの「事実」それしかない。

多分、向こうは人が多すぎるから。
他の人に気を使うエネルギーを消費して、自分を伸ばすエネルギーを枯渇させてしまっているんだろう。

もっと詳しく言えば自分を伸ばすエネルギーを使うということは必然的に他人にエネルギーを使ってしまっている。

確かに根と根が絡めばそれで都合のいい状況もあるのだろうけど

それらは互い違いに絡み合いすぎて次第にわからなくなって

沢山人がいるのにも関わらず、まるで「ひとつ」のようだった。

多分、「ひとつにまとまっていると楽」なんだろう。

複雑なものほど「まとめてひとつ」にしておいたほうが楽。

でもその楽に落とし穴がある。

その穴は・・・

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