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「イネーズ」生まれたての前夜に その2

声がしてきたのは「少し離れた場所」のようである。

「ちょっとすいませんねぇ」
「いえいえ、こちらこそ」
「おう、そこは俺の場所だぞ」
「ああ?ここは俺が見つけたんだぞ」

声の数から察するに結構な人がいるようだった。
少し背伸びをして少し遠くをみると、沢山の「俺たち」が芽を出していた。

静かに話を聞いているとどうやら
狭くて根や葉をうまく張れないからお互い譲り合ったり、争ったりしてるらしい。

俺は自分の足元を見た。
そのあと周りを見渡した。

すぐ隣のやつとたまに話しはするが、

そいつとは根を張る方向とか葉を伸ばす方向とかを

話し合うなんてことは無かった。

そういう「くだらないこと」にエネルギーを使ったことはなかった。

逆に「どのくらいまで大きくなってやろうか」とかそんなことばっかり考えてた。

しばらくして俺の中で有ることに気がついた。

「ん?それだけの人数がいるのなら、きっと水や食べ物も足りないんじゃないか?」

という必然の疑問が浮かび上がってきた。

しばらくは黙っていようとしたが、我慢できなくなり近くのやつに聞いてみた。

「なあ、あいつらは食い物とかも取り合うのかな」
すぐ隣のやつは何を言い出したんだこいつはという芽で俺を見てきたが、
ちゃんと答えてくれた。

「うーん俺にもわからないな、直接聞いてみたらどうだ?一応同じなわけだし」

それもそうかと思い俺は少し離れた「俺たち」に声を掛けることにした

「こんばんは」

少し離れた場所の奴らは若干びっくりしたようだった。

「こ、こんばんは」

返事はされたものの、向こうのことをいきなり聞くのもどうなのかと思い、俺は言葉を探していた。

「今夜はいい月が見れますね」
その日、天に踊る月は美しく輝いていた。
俺はこの月の明かりが好きで大体夜は月を眺めながら隣のやつとはなしていることが多かった。

すると、

「随分と余裕なんですね」

そんな嫌味のような言葉が「少し離れた場所」の「俺たち」から聞こえてきた。

「どういうこと?」
俺が聞き返すと、「少し離れた場所」の人はこう答えた。

「僕らは毎日葉や根を伸ばす方向を気づかなけりゃいけない」

「だから起きてるときも寝てるときも周りに迷惑を掛けてないか不安になるんだよ」

「そんな心配がない貴方はノーテンキでいいですな」

なんか怒られた。だけど、そのことを向こうから話してくれたのでチャンスだったから嫌味っぽいことを言われたのを押しのけて聞いてみた。

「そっちは人が多いみたいですね。水とか食べ物は足りるんですか?」

すると答えてくれた。

「水や食料はそっちよりも潤沢にあるよ」

なるほど、水や食料には困っていない様子だ。

しかしながらその中の一人が言った。

「でもね・・・



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