見出し画像

アフターコロナの宝塚 ―宝塚大劇場と、取り巻く街の現状とこれから―

――新型コロナウイルス感染拡大の影響を最初期に受け、経済活動が再開しつつある今なお立ち上がりが遅れている演劇業界。それに伴い観光産業が深刻な影響を受けているのが、宝塚歌劇で有名な兵庫県宝塚市だ。
 宝塚歌劇は年間のべ130万人弱を宝塚市に動員する観光の中心的存在だが、今年2月末から7月16日まで約4か月半もの休演を余儀なくされた。この間の動員力喪失が劇団の経営はもちろん、「観光プロムナード」と呼ばれる宝塚大劇場一帯に与えたダメージは計り知れない。
 宝塚歌劇の独特な雰囲気や高揚感は、劇場を取り巻く街も一体となって創出しているものだ。劇場と街が共にこの苦境を乗り越えなくては、多くの宝塚ファンが愛する「歌劇の街」は失われてしまう。
 6月21日・22日に現地を訪れ、苦境にある街の状況、公演再開に向けた期待を取材するとともに、今後の課題を探った――

観光都市・宝塚市の概要とコロナ禍の状況

 宝塚市は観光入込客数※1 が兵庫県内3位の観光都市だ。「宝塚」と聞いて最初に思い浮かぶ、宝塚歌劇の本拠地・宝塚大劇場(年間の観光入込客数約128万人。以下「大劇場」)以外にも、かまどの神・荒神さんの清荒神清澄寺(同約316万人。以下「清荒神」)、安産・子授けの中山寺(同約130万人)や複数のゴルフ場など、多くの観光地を有する。宝塚市役所産業文化部宝のまち創造室観光企画課の橋本さんによると、「観光・交流人口が増加すると地域経済が活発になるため、観光資源が豊富な宝塚市にとって観光産業は街の活性化を担う重要な位置づけ」。注力分野の一つとして街づくりの総合計画にも盛り込む。

 ※1 特に記載がない場合、観光入込客数は最新公表データである2018年度
  の兵庫県観光客動態調査に基づく。


画像11

【宝塚大橋から望む宝塚大劇場】

 これらの主要観光地は軒並みコロナ禍の影響を受けたが、最も深刻だったのは大劇場であることがデータからも読み取れる。市内観光地合計の観光入込客数は、日本国内で感染者が出始めた今年2月は前年同月比8%減に留まったが、3月には半減と影響が急拡大。3月は屋外の観光地は概ね前年同月並みだったそうだが、片や大劇場は既に休演中※2 でほぼゼロ。宝塚歌劇が受けたダメージの深刻さと、それが市全体の観光客動員に与えるインパクトの大きさが窺える。
 4月以降の統計データは現時点で未公表だが、緊急事態宣言期間※3 中は清荒神や中山寺なども、外出自粛で閑散となり厳しかったようだ。
 ただ、現地で周辺店舗に話を聞いてみると、自粛明けから約1か月が経った6月下旬時点で人出が回復しつつあるのに対し、大劇場は宣言解除後も休演が続いており、観光客が戻る目途が全く立たない状況が明らかとなった。

 ※2 宝塚歌劇は、政府が2月26日に発表した多人数の集まるイベントなど
  の自粛要請を受け、大劇場公演を2月29日以降休止(3月9日の千秋楽のみ
  例外)。その後6月15日付で、7月17日より公演を再開すると発表。
 ※3 兵庫県は4月7日に緊急事態宣言の指定を受け、4月15日に休業要請開
  始。5月21日に緊急事態宣言が解除され、5月23日に飲食店など一部業種
  の休業要請が解除。県内の外出自粛要請と残る業種の休業要請は6月1日
  に緩和。

起爆剤とならなかった宝塚ホテルの移転開業

 取材初日である6月21日、実はこの日は、大劇場の隣に移転した宝塚ホテルの開業日だった。公演再開に先立ち街を活気づける起爆剤になるかと期待し、開業式典が始まる10時頃からホテル周辺の人出を観察した。内覧目当てで来ていると思しき人も一定数居たが、偶然通りがかり足を停めた近隣住民が大半。人だかりは次第に膨れ、最終的に10時50分頃のオープニングは目算で200名超が見届けた。

画像1

【オープニング直後、内覧のため列をなす人々。ホテル前の遊歩道「花のみ
 ち」から撮影】

 しかしその賑わいも束の間、オープン後にホテル前の人だかりが解消してしまうと、ものの30分で辺りは従前の閑散状態となった。1泊2日の取材滞在中、何度もこの付近を通ったが、賑わいを感じることは二度となかった。
 公演中は沢山の宝塚ファンで活気に満ち溢れていた場所が、すっかり変わり果てていた。

画像2

【上の写真の僅か30分後、宝塚ホテル前から大劇場に向かって撮影】

大劇場の観光客なくして成り立たない宝塚市の観光

 「入込客数トップ(清荒神)と2番手(中山寺)が復調傾向ならば、3番手(大劇場)の不振は大した問題ではないのでは?」と思う方もおられるだろうが、残念ながら大問題なのである。市役所の橋本さんは理由を2点挙げる。
 第一に、宝塚市の観光客は主目的地のみを訪れる場合がほとんどで、複数観光地の回遊が起こりづらいことだ。とりわけ清荒神、中山寺、大劇場の三大観光地は徒歩でも行き来できる距離だが、観光客は単独の目的地とその最寄り駅周辺で消費行動を完結させてしまう。何らかの動機づけをしない限り、他の地点を訪れた観光客がついでに大劇場周辺に流入することはないのだ。
 第二に、大劇場周辺には商業施設や個人店が集まっており、このエリアの停滞は死活問題だということだ。宝塚市は「宝塚歌劇中心で経済が回っているような街」なのである。

大劇場周辺「観光プロムナード」の街並み

 大劇場周辺は「観光プロムナード」と呼ばれ、観光マップも作成されている。これを基に、街の構造をご紹介したい。(下図参照)

画像3

【引用:宝塚市発行(企画・制作/(有)クルーズ) 2020年1月版 宝塚散策
 MAP~観光プロムナード編~】

 大劇場の最寄り駅は、JRと阪急の宝塚駅だ。武庫川の下流に向かって左岸に宝塚駅、右岸に阪急の隣駅である宝塚南口駅(以下、南口駅)がある。阪急の宝塚駅に直結する商業ビル・ソリオ宝塚(以下、「ソリオ」)」を抜けると、遊歩道・花のみちが大劇場へと延びる。花のみち沿いには、大劇場側に宝塚ホテル(3月末までは南口駅前で営業)、反対側に商業ビル・花のみちセルカ(以下、「セルカ」)」。花のみちの先には、手塚治虫記念館など複数の文化施設もある。対して右岸には、今も宝塚温泉が楽しめるホテル若水とナチュールスパ宝塚の他は、南口駅やホテル若水の近辺に飲食店がある程度。川上の宝塚駅側には宝来橋、川下の南口駅側には宝塚大橋が架かり、全体を一周できる。

宝塚歌劇とそのファン:年間のべ128万人が訪れる構造

 宝塚歌劇は、男役も女性が演じる世界的にも珍しい劇団だ。芝居とショーからなる豪華絢爛な3時間の舞台はしばしば「夢の世界」と評され、多くのファンを魅了してきた。
 劇団には約400名の生徒(劇団員のこと)が在籍し、約80名ずつ5つの組毎に活動する。大劇場と東京宝塚劇場(日比谷)という2つの専用劇場それぞれで、常に5組中2組が約1か月に亘る公演を行い、残る3組も次の公演に向けて大劇場内で稽古中か全国ツアーなど外箱の公演に出ているか。つまり、コロナ禍以前の宝塚歌劇は、ほぼ年中無休で稼働していた。

 そんな宝塚歌劇のファンは、9割強が女性だ。知名度はある一方でニッチな世界ゆえ、実態としてディープなファンが同じ組や演目をリピート観劇するケースが多い。この点は阪急電鉄㈱OBで宝塚総支配人の経験もある森下信雄氏が、著書『タカラヅカの謎』(2019年、朝日出版)の中で指摘している。
 一部の宝塚ファンは、生徒別の私設ファンクラブに加入している。稽古期間中も公演期間中も、生徒の楽屋入り・出の際にファンクラブ会員が生徒と交流できる入り出待ち活動がある。参加率の高さがファンクラブでの特典に繋がるため、熱心な会員は入り出待ちに日参する。

画像8

【2019年9月、某人気トップスター(中央の青いスーツ)の出待ちの様子。100
 人を超す会員が参加している。花のみちよりギャラリーに交じって撮影】

 入り出待ち前後の時間調整や休憩、生徒に渡すファンレターの準備、一緒に観劇する友人との待ち合わせや終演後のお喋りなど、カフェやランチで利用できる店の需要は旺盛だ。大半の宝塚ファンは、入り出待ちや観劇で大劇場を訪れる度に、少なくとも一度は飲食店に寄ると考えてよい。
 先述のとおり、大劇場の年間動員数は約128万人だが、休演期間の約4か月半に亘りゼロとなった。公演再開後も、各種規制や感染予防ガイドラインに則った対応により、当面は客席数が半減、入り出待ちは引き続き中止だ。
 これにより周辺の飲食店が受ける影響の大きさは、言うまでもない。

 市内でコミュニティ誌の制作を手掛ける㈲クルーズの久保代表取締役は「大劇場休演と同時に観光プロムナードでは人の動きも全くなくなり、休業要請期間中はほとんどの店が休業していた。セルカ、ソリオ、南口駅エリアなどでは、客が来ない状態で数か月は経営が持たないと廃業した店も幾つかあった」と話す。
 宝塚ファンに人気の飲食店を中心に取材すると、久保さんのお話の通り、総じて休演直後から影響を受けていることが浮き彫りになると同時に、立地(エリア)、顧客に占める宝塚ファン比率(意外に差がある)、人気度、営業形態の違いにより、経営へのダメージに少しずつ差があることも分かった。

セルカ:大劇場なしには成り立たない

 セルカは、最も状況が厳しいエリアだ。立地の性質上、公演の有無が来訪者数に直結する。テナント各店が大劇場に合わせて水曜日を定休と定めているのがその表れだ。休演中は実質「毎日が水曜日」なのだから、厳しい状況は察するに余りある。
 2階の「Pasta」は豚高菜ピラフが楽屋への出前でも有名で、生徒からもファンからも愛される飲食店だ。しかし、お店を営む中川さんは、宣言解除から1か月が経つ今も状況は厳しいという。従来は9時から21時まで営業し、早朝や平日の昼公演の前後であっても宝塚ファンで賑わったが、休演後は現在まで来店客が3分の1に減り、営業時間も11時から17時へ短縮。宣言後は1か月半近く休業もした。創業は40年前で、阪神大震災で被災し5年かけて店を立て直した経験もあるが、今回のコロナ禍には先が見えない恐怖がある。店は宝塚ファンが「みんなでお喋りをして楽しむ集いの場」だったが、公演再開後もどの程度客が戻るかは不透明だ。

画像6

【セルカ2階、Pastaと周辺の飲食店が面した通りの様子。日曜日の昼時でも
 客の往来はほとんどない】

 セルカには他にも複数の飲食店や土産物店、ファッション雑貨店などが入居するが、店舗による差が大きい様子。Pastaやサンドウイッチの「ルマン」(幕間や観劇前後の軽食として愛されるサンドウイッチの名店。タマゴサンドが有名で、生徒への差し入れとしても人気だという)といった人気店は、昼時から午後にかけて一定の来客があり盛況な時間帯も見られたが、隣近所でも閑古鳥の飲食店や閉店セール中の店もあった。Pastaですら厳しいのだから、あまり人気のない店は相当深刻な状況だろう。

南口駅周辺:ホテル移転が重なり二重苦?

 一連の取材中、他エリアの複数の方から「南口駅周辺の飲食店はうちの店より更に厳しいだろう」と心配する声が聞かれた。宝塚ホテルの移転が人の流れを変え、コロナ禍とダブルパンチだというのがその理由だ。
 実際、南口駅界隈は日中、車の交通量こそ多いものの人通りはまばらで、夜は20時を過ぎればほとんど無人になる。閉館した旧・宝塚ホテルの姿は駅前を一層寂しげにし、夜になるとやや近寄りがたいほど。飲食店の数、駅の利便性いずれも宝塚駅(周辺)に劣ることもあり、公演が再開しても南口駅界隈の人出は伸び悩むかもしれない。

画像6

【閉館した旧・宝塚ホテル。南口駅前から撮影。駅の明かりが反射している
 とはいえ、夜になると薄暗くて少し不気味】

 そもそもコロナ禍で人出が減少している状況では、ホテル移転の影響を測るのは困難だが、多くの店が休演や一般市民の外出自粛の影響を受けているのは事実だ。ただ、セルカと同様、店により状況はまちまちで、駅前のタイ料理店は閉店、海鮮丼店や串かつ屋は閑散としていたのと対照的に、「ルマン」(セルカにも店舗があるサンドウイッチ店)や「たからづか牛乳」(市内の里山エリアの牧場で作られる無添加・無調整の牛乳と乳製品が人気。生徒の中にも「ざらめ入りヨーグルト」のファンが多いという)など、人気店は一定の来客が見てとれた。
 中には、「客がほぼ付き合いの長い地元の常連なので、ホテルの移転もコロナも一切影響しない」と語る、レトロな喫茶店「シュプール」(元雪組トップスター・早霧せいなさんが在籍時に劇団専用CS番組の撮影で利用したことで有名)という強者もあったが、武庫川に面したイタリアン「Karos Kuma」(大劇場を眺めながら食事が楽しめる)の「公演が再開しどの程度宝塚ファンが戻ってくるかが鍵になる」との見方は、多くの店に共通するものだろう。

ソリオ:駅直結も地元客の来店少なく「ほぼ通路」

 ソリオは宝塚駅直結のため他のエリアより見かけ上の人出はあったが、実態は地元住民が「通路」として利用しているにすぎず、各店は苦境が続く。
 英国風ティータイムが楽しめ、季節の果物のケーキやスコーンが人気の「TEA HOUSE SARAH」。店長の笹倉さんによると、元々観劇客は3割程度で、大半は地元客やソリオ内のカルチャー教室のグループ客。休業要請期間は、教室の閉鎖や地元客の外出自粛も重なりソリオからほとんど人出が消えた。4月20日からGW明けまでの短期休業で営業再開したが、売上げが数万円の日もあり厳しい状況が続いた。自粛明け後、段階的に来客は増えているものの、今も経営は「いっぱいいっぱい」。公演再開に一定の期待を寄せるが、当面は劇場の客数が半減な上、感染リスク回避でお茶をしないファンが多いと予想。入り出待ち禁止で朝の需要も戻らないと考え、「今までは休みなく長時間営業していたが、そうしなくてもいいかと最近思うようになった」と、早朝営業の取止めも検討する。

画像7

【日曜日夕方のSARAH店内。客席は7-8割埋まり、見た目には盛況だった】

 他店でも話を聞いたが、贈答品やお土産に選ばれる老舗「寶もなか」は、自粛明けで客足は徐々に戻ってきたものの、駅と大劇場を結ぶ土産物通り的な立地ゆえ、休演の影響を受けているとのこと。「たからづか牛乳」は、休演の影響で今なお、ソリオ内の人通りも自店舗への客足も「体感は8割減」だという。

観光プロムナード周縁店の一例:通販に活路あり

 観光プロムナードからは外れるが、大劇場から徒歩5分あまり、国道176号線を渡った先の「SHIZUKU COFFEE ROASTER」。コーヒー豆屋がベースのカフェだ。宝塚駅界隈で唯一スペシャルティコーヒーを扱っており、生徒から口コミで宝塚ファンにも広まった人気店である。
 代表の浅野さんによると、顧客には宝塚ファンも多いが、コーヒー好きな地元客も多い。自粛期間中、カフェは来客ほぼゼロの日もあったが、ステイホーム中の愉しみとしての豆需要を掴み、豆の販売量は通常より大幅に増加。特に通販は9割近くが東京や神奈川の宝塚ファンからの注文だった。「近隣ではセルカや南口駅界隈の飲食店が非常に厳しいと聞く。うちは飲食だけの店と比べ、まだましだったのだろう」。
 以前は、公演がある週末は入り待ち後や観劇前のファンで開店前に行列ができ、2回公演の合間時間なども混雑した。「公演が始まれば街全体に活気と華やかさが戻ってくる」と再開に期待を寄せる。

観光プロムナードに人出を復活させるには

 宝塚歌劇の公演再開が決まり、明るい兆しは見え始めたものの、先述のとおり感染予防対策で当面は客席数半減、入り出待ちは中止となる。宝塚歌劇関連だけでは街にコロナ以前の人出を取り戻せない状況で、行政はどういった観光振興、消費喚起策を考えているのだろうか。

画像10

【花のみち。宝塚ファンからも地元住民からも親しまれる遊歩道だ】

 市役所の橋本さんによると、観光企画課では「観光客の落ち込みのV字回復は難しい」「これまで遠方から来ていた方もしばらく遠出を控えると思われ、当面はマイクロツーリズムが主流になる」とみる。以前は東京の鉄道路線にも観光促進の広告を出したが、当面は関西圏中心、阪急沿線の媒体などに絞る方向。まずは関西周辺から呼び込むことに注力し、遠方からの観光客は様子を見る。
 街での消費喚起策も、「旅行しても大丈夫、安心だという状況になり、経済産業省のGo To キャンペーンが展開され始めれば、それに上手く乗って施策を展開したい」考え。具体的には、2年前に実施し好評だった「宝塚おさんぽPASS」※4 事業や、Go Toキャンペーンを利用した宿泊観光客に対する特産品のプレゼントなどを検討している。冒頭で紹介した「交流人口を増加させることが地域経済の活性化に繋がる」という考えのもと、動機づけをして消費機会の創出を図る方針だ。

 ※4 大劇場周辺で完結する宝塚ファンの動きを南口駅や清荒神駅へ拡げ、
  新たな発見と消費を促す意図で企画。地図付きのパスポートを配布し、
  宝塚駅・南口駅・清荒神駅周辺の店舗をエリア毎に紹介。掲載店毎に割
  引など特典を設け、かつスタンプラリーで地元特産品や観劇チケットな
  どのプレゼント抽選に応募できる仕掛け。2018年11月から2019年3月末
  まで実施。

 前出の㈲クルーズは市役所からの受託業務も多く、直近ではコロナ禍でテイクアウトやデリバリーを行う飲食店と消費者を結びつける特設サイト「おうちdeヅカDeli」の立ち上げを手掛けた。久保さんは、特設サイトはあくまでも当座の緊急支援で、「国の第二次補正予算案が通り家賃補助も始まるので、助成金や給付金を利用しつつどう生き残るか模索する店が多いのでは」とみている。
 久保さんは社長業の傍ら、宝塚市総合計画審議会の委員として街づくりに参画している。この立場から、観光産業の振興に向けた行政の課題を2点挙げた。一つは予算配分の少なさだ。宝塚市は昨今、民生費予算が厚く(4割強)、観光・商工費予算は僅か1%程度(10億円未満)という状況が続いており、重点分野である観光産業の振興に十分な予算措置が必要だという。もう一つは宝塚ホテルの移転跡地活用だ。民間任せにすることなく、観光プロムナードを含む街の将来構想を描いた上で活用策を検討すべきだと指摘する。

公演再開は観光プロムナードを蘇らせたか

 実は、公演再開(7月17日)後の様子を確かめるべく、7月23日・24日の連休で再び宝塚の街を訪れた。
 客席数が半分で公演も1日1回のみとはいえ、休演中は0名だった動員が1,200名以上となることのインパクトの大きさを実感した。6月には見るだけで悲しくなるほど閑散としていた花のみちを、開演前や終演後に限らず、朝10時前から夜の20時頃まで絶え間なく人が行き来するようになったのだ。
 影響は観光プロムナード一帯に波及したようで、セルカや南口駅周辺の飲食店も「公演が再開して客が凄く増えた」といい、実際に行列や満席となっている店がいくつも見られた。6月の取材から1か月経ち、世の中全体で人の動きが活発化した影響もあるにせよ、大劇場の再開がもたらした賑わいであることは間違いない。

IMG_20200724_122222_resized_20200725_101431371コピー

【7月23日の開演前、大劇場へと向かう人々。花のみちより撮影】


 現在、大劇場で上演中なのは花組公演「はいからさんが通る」である。激動の大正時代を逞しく生きる人々を描いたロマンティックコメディで、終盤、登場人物たちは関東大震災を辛くも生き延び、未来に向けて再び歩み出す。

 くしくも今の状況とリンクするこの物語同様、宝塚歌劇と街が共にコロナ禍の苦境を乗り越え、再び以前と同じような華やかさと活気を取り戻す日が来ることを、心から願っている。

(ライター・まつざわ)