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日本の太陽の味がする。「ゆる温玉」はありそうでなかった食感と味。

時空画報

貴兄が低温調理機をお持ちなら、ぜひトライしていただきたい「実験」がある。63.3℃にセットした湯に生卵を沈め、タイマーは35分。(水温はビールの大びん633mlで覚える)
取り出した「玉子」はイメージしていた「温泉玉子」にあらず、これまで味わったことのない一品料理に出会うはず。


殻をそっと割って、小皿に移す。これ以上弱ければ崩れてしまう表面張力で纏われた薄白色の白身の下には、黄身の存在が確認できる。そのまま口に運ぶ。スーっと口の中に入ってくる食感は、ところてんのそれよりも軽い。シルクが舌の上を滑っていく、とでも言おうか。白身と黄身の食感の同質性。口をすぼめると、白身と黄身が一体化したやわらかな甘さと旨味がした舌一面を覆う。そして喉元をまたスーっと上品に流れていく。従来の「温泉玉子」にはない温かさもうれしい。一口この玉子を口に含んだだけで、饒舌になってしまう。


茶碗の中のごはんの温度を下げることがなく、ほくほくした感じが全体に漂う。すき焼きに合わせてみると、肉の温かさを保ちながら肉の旨さを引き立たせる。生卵の存在感がほんの少し弱まったようだ。納豆に合わせてみようか。また、簡単カルボナーラや温野菜のソースなど、他の用途にも思いを馳せる。「ゆる温玉」あるいは「絹温玉」とでも名付けよう。


少し前、墨東の料亭の馴染み客が中国人夫婦を招待し、すき焼きを一緒に食することとなった。しかし、ご夫妻、生卵がどうしても駄目だという。いくら美味い和牛でもすき焼きの肉を甘辛いタレだけで食べたら口の中がおかしくなってしまう。板長、この状況に「ゆる温玉」を提供した。「日本の太陽の味がする」と絶賛されたという。この話とともに「36.3
℃、35分」の数字を人づてに聞いた。和食料理人のホスピタリティ。少し誇らしく思った。

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