爆風の中でみたモコモコの雪化粧〜那須岳〜
10月に槍ヶ岳の登頂を果たし、なんともいえない達成感に浸っていたがここで終わりではない。冬から春にかけてはまた一味違った山のぼりの愉しさが待っている。
11月上旬、紅葉はもう終わっているから逆に混雑していないであろうと、以前より気になっていた栃木県北端に位置する那須岳へと向かった。
那須岳とは茶臼岳を指す場合と、茶臼岳・朝日岳・三本槍岳の総称で呼ばれる場合があるようだ。
茶臼岳は那須岳の主峰と呼ばれているが標高は1915mで、那須岳の中で最高峰になるのは標高1917mの三本槍岳。
なぜ茶臼岳が主峰なのかはわからなかったが、
・那須火山群の中で中央に位置する
・那須火山群の中で噴火活動の始まりが一番新しい
・今もなお噴煙をあげる活火山
という情報に主峰と呼ばれる所以を感じた。
他にも那須連山には様々な山があり、一説には三本槍岳・朝日岳・茶臼岳・南月山・黒尾谷岳の5つを那須五峰や那須五岳と呼ぶそうだ。
いずれも連なった山々は縦走してみたくなってしまう。
また、麓には多くの温泉が湧き出し、温泉宿も充実している。
今回は初めてなので「まずは日帰りで」と、那須岳と呼ばれる茶臼岳・朝日岳・三本槍岳の3連山をめざすことにした。
ー ルート
今回選んだのは茶臼岳・朝日岳・三本槍岳と前述したが、結論三本槍岳にはいかず、1900m峰までで引き返した。理由は本文中でお伝えするとして、通ったルートは
峠の茶屋登山口 → 峰の茶屋(避難小屋)→ 朝日の肩 → 1900m峰 → 朝日の肩 → 朝日岳 → 峰の茶屋 → 茶臼岳 → 峰の茶屋 → 峠の茶屋登山口だ。
茶臼岳は那須ロープウェイを使えば山頂駅から40分ほどでのぼれてしまうので、気軽にハイキングで訪れる人も多い。
私はロープウェイは使わず、峠の茶屋登山口からのぼった。
*地図がごちゃごちゃしてしまったので、のぼった山は赤丸で囲んでいます。
ー アクセス(駐車場情報)
那須ロープウェイで行く場合:
那須ロープウェイのサイトをみると駐車場は山麓駅付近には3箇所あり、150台駐車可能とある。時間に制限はないようだが、夏休みや紅葉シーズンの混雑時は駐車所に施錠をすることもあるそうなので、季節によっては車中泊はできないのかも知れない。
峠の茶屋登山口の場合:
第1と第2とあるようだが、峠の茶屋駐車場は第1を指すようだ。
150~160台ほど駐められる大きく整備された駐車場で綺麗なトイレもある。
第2駐車場は第1駐車場の手前にあり30台ほど駐められるとあった。
いずれも県営の無料駐車場で車中泊も可能。
峠の茶屋駐車場までは東北道の那須ICから栃木県道17号那須高原線を進むと30分ほどで到着する。
ー 車中泊から峰の茶屋
今回は山で知り合った女性と2度目の山行。
何事もタイミングである。
行きたい山と行ける日が合うのは、もはや偶然ではない。
出逢うべくして出逢ったのだ!
そんなわけで住んでいる地域が異なる二人の待ち合わせは駐車場。
夜中から運転して早朝に着くよりも車中泊の方が
・眠い時間の運転ではない
・満車の心配が少ない
・結果的に長く寝れる
というメリットがあるので、車中泊が可能でかつ比較的安心できる場所やトイレがあるといった場合は迷わず車中泊を選ぶようになった。
今回も
・車中泊可能
・整備されている
・車中泊でお勧めする記事が多い
・トイレが近くにある
など、条件がよさそうだったので車中泊を選択した。
22時、東北道の那須ICを降り30分ほどで峠の茶屋駐車場に到着。
道は整備されているし宿泊施設も多いので道中比較的明るく、対向車も数台あったので怖い印象はなかった。
ただ、最後の2kmくらいで雪が降り出した。
天気予報で雪マークがあったので、すでにタイヤは冬タイヤに履き替え済み。完璧な判断!!
駐車場につき、さっそく相方に連絡しまずはトイレへ。
そう、夜の駐車場のトイレは怖いので、子どものように一緒にいきましょうとお誘いした。
駐車場は真っ暗だが、トイレに近づくと人感センサーが設置されていて電気がついた。これはありがたい!
入るととても綺麗な水洗トイレで手を洗う場所も綺麗だった。
準備も手慣れて23時には寝る体制が整った。
駐車場の外気温は0度。風も強くかなり寒い。
この日は寒波とまではいかないが、かなり寒く初雪も降った。
天気予報を確認し覚悟はしていたので寒さ対策は万全だった。
しかし、車中泊での対策はまだまだだった。
エンジンを切った後、モンベルの温度計を見たとき車内の温度は13度だった。
上は薄手のロングダウン+メリノウールの長袖インナー+長袖シャツ+厚手のフリース、下は冬用スパッツ+冬用パンツ+ロングソックスをはき、シュラフとブランケットに身を包み就寝。
しかし、2時半寒さでめざめる。いや、その前も熟睡はできていなかった。
シュラフが冬用ではない。昔買ったもので、おそらく夏用?
暖かさが足りない。
そのためロングのダウンで足元を包み、上は短いダウンに切り替える。
首にはネックウォーマーをつけ、靴下は2枚重ねにし、ホカロンを背中に貼った。
この時車内の気温は5度。
朝用に買ったおにぎりが凍りそうだったので、おなかの辺りに忍ばせる。
暖かいとは言えないがましにはなった。
夜中は風の音がとにかくすごく、時折車が揺れるほどだった。
5時、静かなアラーム音で目が覚めた。
6時に出発しようと話していたので、準備をし5時半過ぎにトイレに行こうと車を出たらなんと!朝日が上がろうとしているではないか!
てっきり曇りで朝日はみられないと思っていたので、これは嬉しい誤算だ。
寒さに震える間もなく興奮で体が暖まる。
急いでトイレを済ませカメラを取り出す。
「あ〜、私やっぱり写真家なんだわ」
美しいものを見ると咄嗟に撮りたい衝動に駆られるのは職業病に他ならない。
山はと見上げると霧で上の方はみえない。
予報も朝は曇りだったので山の天気は予想通りだ。
風も強いし、寒いし(興奮が落ち着くと寒さを思い出す)、出発時間を遅らせようかとも思ったが、朝日が私たちに出発を促す。
6時15分、駐車場を出発。
登山口は?と一瞬迷ったがトイレの奥に階段が見えた。
実際、トイレのある建物の壁に「登山口はこの奥」と張り紙もあったので、迷わないのが普通かも。
階段をのぼり少し進むと登山口がある。
昨日と今朝方降った雪が積もっていたけれど、凍結はほぼなく新雪の柔らかい雪が数センチ積もっている程度なのでチェーンスパイクはつけずにのぼり始めた。
道は整備されていてとても歩きやすい。
樹林帯というほどでもないが、木の間をしばらく進むと途中から開けてくる。道は変わらずゆるやかだ。
ずっと霧がかっていたが、ふと見上げたとき峰の茶屋がポッと顔を出した。
絵本の世界のようにかわいらしい赤の屋根がポツンとある。
太陽は雲に包まれ幻想的な顔をしている。
ゆるやかに標高をあげ、1時間かからないくらいで峰の茶屋に到着。
標識にもあったが峰の小屋あたりは風が通る道で、一旦吹くと強風になるらしい。
この日はずっと風が強かったが、特に峰の茶屋あたりは強風だった。
冬季になると峰の茶屋の入り口は裏手になる。
風は強いし、寒いし、霧で真っ白だし、まずは小屋の中に避難しどうするかを相談した。
峰の茶屋は茶臼岳方面と朝日岳方面の分岐になっており、峰の茶屋を正面にみて左に行くと茶臼岳、右に行くと朝日岳〜三本槍岳へとつながっている。
ー 朝日岳へ
霧はなかなか晴れないし、風もすごかったがとにかく行けるところまで行ってみようと、まずは三本槍岳をめざすことにした。
峰の茶屋から朝日岳の方に向かうとまず剣ヶ峰がある。
剣ヶ峰はトラバースして朝日岳方面に向かうのだが、ふと振り返るとさっきまでずっとベールに隠されていた茶臼岳が顔を出した。
雲が急いで山の上を渡っていく。
たおやかな姿に活火山であることを忘れてしまう。
広がる木々は雪を纏い、幻想的な世界を演出してくれる。
美しい景色に全然前に進まない。
アルプスにのぼっているときは、時間との戦いやのぼりのしんどさにゆっくり写真を撮る余裕がなかったが、那須岳はピークハントよりも稜線の景色に醍醐味を感じる。
少し進むと「恵比寿大黒」という標識があった。
この辺りから少し道が険しくなる。
危険を感じるほどではないが思ったより急な坂になっており、大きめの石をのぼるのでハイキング気分だとちょっと驚くかも知れない。
岩好きの私にはたまらない時間。
思ったより雪が多かったが、まだチェーンスパイクはつけずにのぼれる程度だった。(トラバースの細道はつけたほうが安心な気はする)
峰の茶屋からゆっくりのぼって50分(標準タイムだと40分くらいだと思う)で朝日の肩に到着。
朝日の肩は朝日岳と三本槍岳方面への分岐地点だ。
朝日の肩から朝日岳てっぺんは10分程度、三本槍岳までは1時間ほどかかる。
昼頃には晴れる予報だったので、朝日岳は後に回し予定通り三本槍岳を先にめざした。
三本槍岳方面も霧の中だったが、とにかく行けるところまで行くことにした。
さらに雪深くなりそうだったので、朝日の肩でチェーンスパイクをつけた。
朝日の肩までは先行者の足跡があったが、どうやら三本槍岳方面は私たちが最初だったようで足跡は見当たらなかった。
風に負けじと霧の中を進んでいく。
信仰の山で修行させてもらっているようだ。
朝日の肩からは険しい道もなく、稜線を進んでいく。
20分ほど歩いたところで熊見曽根という地点に到着。三斗小屋温泉への分岐だ。
稜線はさらに風がすごい。
標識に張り付いた雪が寒さを伝えてくれる。
スキー用の手袋を持ってきてつくづく良かったと思った。
ゆっくりのぼっていたのと、途中衣類を変えたり、装備を変えたり、風景に感動して写真を撮ったりしていたら予定より1時間近くおしてしまっていた。
熊見曽根で引き返そうかとも考えたが、せっかくだからもう少し先の1900m峰までいってみよう!という話でまとまった。
爆風登山は修行だけれど、その分風が絶景を運んできてくれた。
雲の動きが早くて晴れたと思ったらすぐ霧の中、を繰り返していたけれど予報通り9時あたりからぱ〜っと霧が晴れた。
嘘のように空は澄み切った青に塗りつぶされていった。
熊見曽根から10分ほど素晴らしい景色の稜線を進むと1900m峰に到着!
晴れてきたのでおそらくこの先の稜線歩きも愉しいだろうと思ったが、気持ちは満足していた。
1900m峰から三本槍岳までは片道50分ほどかかるので、今回はいかず次回の愉しみにとっておこうと思えた。
よほどでないとピークハントを諦めるのは嫌なのだが、なんだかこの日は満足だった。
きっとピークハント以上の絶景に出逢えたからだろう。
引き返しながら朝日岳をめざした。
みえなかった山々が続々と姿を現す。
ゴツゴツとした岩をのぼると、360度の絶景が広がる朝日岳のてっぺんだ!
朝日岳は眺めも良くて格好のいい山だった。
あ〜、なんて美しいのだろうか。
正直、ここまでの絶景を予期していなかったので、感動はひとしおだった。
お日様の光を浴びて次第に寒さも和らいできた。
すっかり心は満たされたが、やはり茶臼岳にはのぼっておきたい。
20分ほど朝日岳を満喫し、峰の茶屋へと向かった。
ー 茶臼岳へ
戻りの道は雪もずいぶんと溶け、ぬかるみが多かった。
ゲイターをつけていて良かった。ゲイターは泥まみれだがパンツは無事。
よくやった!
峰の茶屋は朝とは違う装いになっていた。
茶臼岳へは険しくはないが、まあまあ直登でもあるのでそこそこのぼる感じはあった。
峰の茶屋から20分ほどでお釜口に到着。
茶臼岳は噴火口が周回できる。お釜口からは噴火口と山の景色を眺めながら進んでいけた。
ずっと稜線を歩いていたので、茶臼岳をのぼった時にようやく山のぼりを実感した気分だった。茶臼岳のてっぺんは広く休憩もしやすい。
眺めも抜群なのだが、茶臼岳に至るまでにあまりにも素晴らしい絶景に出逢ってしまったので、興奮するまでもなくてっぺんを愉しんだ。
風もやみ、寒さも和らぎようやくここでお昼にした。
お昼は定番のカップラーメン。
今回は期間限定(という宣伝文句に負けるタイプ)の白担担。
担々麺が大好きなので選んでみたがなかなか美味しかった。
仕上げはやはり珈琲!
なんだかんだと1時間、茶臼岳のてっぺんを満喫し下山へ。
のぼりも峰の茶屋から40分と短かったが、帰りはさらに短く30分で降りてきた。山はすっかり雪が溶け、白から茶色へと変化していた。
ずっといってみたいと思っていた那須岳は、思いの外雪化粧に包まれ、有名な爆風も体験でき、最後には澄み渡った青空にも出逢えてこれ以上ない山行となった。
そして、すっかり那須岳ファンになってしまった。
次は三本槍岳はもちろん、他の連山にものぼってみたいし、温泉小屋にも宿泊してみたい。
夏はお花がたくさんみられるようだし、もう少し早ければ紅葉にも出逢えたであろう。
たくさんの魅力を持つ那須岳、また逢いに行きます!!
距離:7.9km
累積標高(のぼり/くだり):724 / 721 m
タイム:7時間20分(休憩1時間59分含む)
*かなりゆっくりペースだったのでコースタイムは参考にならないかも、、、