コント・お袋、もう一杯

◯実家
息子(30)が食事をしようとテーブル席に座っている。母親(55)が料理をしている。

息子「久々だなぁ。母さんの料理食べるの」
母親「だってショータ全然実家帰らないじゃないの。仕事そんなに忙しいの?」
息子「ああ。まあね」
母親「…あんた、ナナコさんと上手くいってないんでしょ?」
息子「うーん、まあ」
母親「久々だから2人分の食材まで準備してたのに」
息子「いや、俺が悪いんだよ。なんか、ナナコも俺も仕事が忙しいからイライラしちゃっててさ」
母親「そうだとしても、相手方の両親に挨拶ぐらい来るべきよね。そんなに会えるわけじゃないんだし」
息子「…実はさ、ちょっとナナコを怒らせちゃったんだ。ナナコが平日休みだった日に、俺の為に朝早く起きてお弁当作ってくれてさ」
母親「お弁当ぐらい私も作ったわよ」
息子「うん。そうゆうことじゃないんだよ母さん。俺、その弁当持って会社行ったんだ。でもその日は取引先と外で昼食を取ることになってて、弁当のことそのまま忘れて帰っちゃったんだよ。で、中身が入ったままの弁当箱見つかっちゃって、ナナコすごい怒って口も聞いてくれないんだよ…」
母親「あら、そう。でも仕事だったってちゃんと説明すれば良かったじゃないのよ」
息子「それはしたよ」
母親「じゃあ、ショータは悪くないじゃない」
息子「え、そうかな?」
母親「そうよ。お母さんだって、あんたが高校生の時、どんだけお弁当残してきても文句言わなかったじゃない」
息子「あー、確かに。そうだよね。なんか元気出たよ」
母親「ほら、いいから夕飯食べましょう。ショータの好きなピーマンの肉詰め作ったから」
息子「やった!俺が1番大好きな奴だ。さすが母さん、わかってるわ」
母親「何よ。ピーマンの肉詰め久しぶりに食べるって顔してるじゃない」
息子「久しぶりだよ。だってナナコの奴、ピーマン苦くて食べられないんだもん」
母親「あら、大人にもなって好き嫌いがあるなんて大変ねえ」
息子「まあ、でもそうゆう子供っぽい所が嫌いじゃないんだけど」
母親「(ピリッと)ダメよ!大人にもなって食べ物の好き嫌いがある人なんて、子供が出来た時にまともな教育ができないんだから」
息子「母さん、大袈裟だよ」
母親「大袈裟じゃないのよ。ショータはまだ子供だからわからないだけなんだから」
息子「俺もう30だよ」
母親「子供じゃないのよ。男の子は40までは子供なのよ」
息子「そうなの?聞いたことないけど」
母親「ほら、いいから食べなさい。あと、あんたが好きな肉じゃがとぶり大根も作ったから」
息子「うわ、すげえ。オールスターだ」
母親「馬鹿言ってんじゃないわよ。いつもいつも食べてたじゃない」
息子「いただきます。(ガツガツと食べながら)あー、美味い!懐かしいわー!」
母親「あらそう?あんた麦茶飲む?」
息子「うん、ありがと。やっぱり母さんの料理は最高だわ」
母親「はいはい。ありがとさん」

母親、嬉しそうに麦茶を注ぐ。

息子「ああ、ナナコの作る肉じゃがと何が違うんだろうなぁ」
母親「なんだろうね」
息子「なんかさ、ナナコの作る肉じゃがは、肉の旨味が他の具材にもしっかりと染み込んでてコクがあるんだよね」
母親「母さんのは?」
息子「母さんのは薄味なんだよ」

母親、動揺して麦茶をこぼす。

息子「おお、大丈夫?」
母親「大丈夫よ。そうよ、母さんはね、健康面を考えて敢えて薄味にしてるのよ」
息子「さすが母さん。俺のことわかってるわ」
母親「ショータ、肉じゃがはいいから、ぶり大根いっぱい食べなさい」
息子「え、なんでよ」
母親「肉じゃがのことは忘れなさい、らほら、ぶり大根食べなさい」
息子「うん。(ぶり大根を食べながら)やっぱり美味しいなあ、母さんの作るぶり大根は。ナナコとは全然違うよ」
母親「はいはい」
息子「なんかさ、ナナコが作るぶり大根って、口に入れるとジュワッと旨味が広がって、ぶりと大根の極上のハーモニーを奏でてきやがるんだよ」

母親、膝から崩れ落ちる。

息子「母さん?!さっきからほんとに大丈夫?」
母親「極上のハーモニー?母さんのは?母さんの作ったぶり大根は?」
息子「薄味でうまい」
母親「クソがっ!」
息子「母さんの作るぶり大根は薄味で懐かしいんだよね。最高だよ」
母親「うるさい!あんた、もうピーマンの肉詰めと麦茶しか飲んじゃダメ!」
息子「どうしたんだよ母さん。あ、誰かから電話だ。(ポケットからスマホを取り出す)」
母親「ショータ、お行儀悪いわよ」
息子「あ、ナナコからだ。もしもし…。ああ、今実家だけど…え?……いや、俺の方こそごめん…。ううん、俺の方がいけなかったんだよ。せっかく俺の為に作ってくれたのに、ひどいことしたよ。ナナコいつもありがとね…エヘヘ。え、今言うの?だって近くに母さんもいるし。え、わかったわかった。…愛してる。エヘヘ、嘘つくなよ聞こえただろ!わかったわかった。愛してる。エヘヘへ」
母親「…なにこの時間」
息子「…なんか会いたくなっちゃった。今から帰るね。…うん、まだあんまり夕飯も食べてないからさ。えっ、今からピーマンの肉詰め作ってくれるの?最高じゃん!ナナコ大好き!じゃあ、また後で(電話を切る)」

母親、呆然。

息子「母さん、俺帰るわ。料理残しちゃってごめんね」
母親「ああ、いいのいいの。ナナコさんと、仲良くしなさいよ」
息子「うん。ありがとう」

息子去る。母親残った料理を見る。

母親「…お父さん、早く帰ってきて〜〜!」

《完》

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