コント・カクテル

◯お洒落なバー
◯店内のカウンターには若者・山本(30)が座っている。
◯カウンター内ではマスター(50)がグラスを磨いている。

若者「このカクテル美味しいですね。」
マスター「ありがとうございます。ラム酒にライムジュースとひと摘みの砂糖を加えて、シェークしています。一度飲んでハマる方、結構多いですよ。」
若者「へぇー。このお店の雰囲気も好きだし、今度女の子連れてきます。」
マスター「彼女さんですか?」
若者「いえ、まだ付き合ってはいないんですけど、今度デートに行くことになったんです。」
マスター「はい。」
若者「このバーなら、彼女もときめいてくれるかなって。」
マスター「あははは。精一杯雰囲気作りのお手伝いはしますよ。」
若者「あははは。でも彼女がどんなお酒が好きかわからないんですよ。大丈夫ですかね?」
マスター「もちろんです。女性と言っても好みは違いますから。でも、うん。デートだということであればなんとなく…」
若者「あるんですか?よかったら今作ってもらえますか?」
マスター「かしこまりました。では、女性が喜ぶカクテル作らせていただきます。」

◯マスター、カクテルをシェークする。
◯徐々に激しく振り出す。

若者「凄え。これがプロの作り方か。激しすぎる。」

◯あるある探検隊みたいにシェークする。

若者「なんだこの、あるある探検隊みたいな振り方は。凄え。」

◯剣道の試合みたいに振る。

若者「凄え。剣道の試合のように振っている。さぞかし美味しいお酒ができるんだろうよ。」

◯マスター、お酒をグラスに注ぐ。

若者「あっ、できた。」
マスター「ちょっとお待ちを。」

◯マッチに火をつけて燃やす。火がボーボー上がっている。

若者「うわあ!カクテルが燃えた!アルコールが全部飛んでいく!ほとんど何も残っていないぞ!」
マスター「できました!」
若者「できましたか!ズバリ、何というお酒でしょうか!」
マスター「テキーラストレートです!」
若者「テキーラ!…いや、カクテルじゃないの?!テキーラのストレートですか?!」
マスター「テキーラのストレートです。」
若者「めちゃくちゃ酔う奴じゃないですか。あの激しいシェークは振って混ぜていたわけじゃないんですか?」
マスター「あれは気持ちを込めてました。」
若者「そうゆうものですか?」
マスター「そうゆうものです。飲んでみてください。」
若者「ほとんど何も残っていませんが、頂けます。…はっ!!」
マスター「どうですか?」
若者「なんだか、ここら辺が温かくなってきました。」
マスター「…もちろんです。気持ち、込めましたから。」
若者「…マスター。…あんた凄えよ。他にも女性が喜びそうなお酒ありますか?」
マスター「ありますよ。お作りしますか?」
若者「お願いします。」

◯マスター、また激しくシェークし出す。

若者「この激しすぎる振り方が、癖になるわ〜。」

◯マスター、高く宙にシェーカーを投げる。

若者「投げた!かなり高いぞ!そこだけ天井が吹き抜けになってるんだ!凄え!」

◯マスター、ヨタヨタする。

若者「取れるか?!取れるのか?!」

◯マスター、背面キャッチする。

若者「すげえぇぇぇ!!背面キャッチした!イチローもビックリだよ!凄え!」

◯マスター、グラスにお酒を注ぐ。

若者「あっ、できた。」
マスター「ちょっとお待ちを。」

◯マスター、グラスを壁にパリーンと叩きつける。

若者「グラスを割ったー!」

◯マスター、グラスを拾う。

若者「グラスを拾ってどうするんだ?」

◯中華鍋で料理し出す。

若者「中華鍋で炒め始めた!どんなカクテルが出来上がるんだ!」
マスター「できました!」
若者「できましたか!ズバリ、何というお酒ですか?」
マスター「豚とおナスのピリ辛中華炒めです!」
若者「なんだそれぇぇ!(中華炒めを背後に投げ捨てる。)」

◯マスター、ビビっている。

若者「さっきから調子に乗りやがって!何が豚とおナスのピリ辛中華炒めだ。どうゆうこと?テレビのドッキリとかでも入ってるの?なぁ?絶対オンエアさせねえからな!」
マスター「そうゆうんじゃないです。」
若者「大体こんなんで女性が喜ぶと本気で思ってるの?」
マスター「中華が好きなら。」
若者「中華食いに来てねえから!カクテルを飲みに来てるから!」
マスター「はぁ。」
若者「なんでピンときてねえんだよ。お前がデート行く時、こんな所連れてこれるか?」
マスター「あっ、僕、人とお付き合いした事ないからわからないです。」
若者「童貞マスターかよ。そんなややこしい見た目するんじゃねえよ。」
マスター「すみませんでした。」
若者「帰るわ。お会計は?」
マスター「はい。お会計、300円です。」
若者「やっす!また来ます!」

《完》

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