ねこはこたつで丸くなる
「ねこはこたつで丸くなる」ということわざがある。
もちろん我が家のミケも例外では無く、尻尾を振りながら意気揚々とこたつに入り、すぐに丸くなってしまった。
私は受験勉強の息抜きに、こたつの中を覗き込み、「どうして丸くなるんだい?」と問いかけた。ミケは「みゃー」と一言返事をすると、そっぽを向き、丸まった背中をこちらに向けた。なるほど、どうやら教えるつもりはないらしい。
「教えないとこうだぞ!」
私はミケをこたつから引っ張り出し、膝の上に仰向けに寝かせて、お腹をワシャワシャなでた。ミケは「みゃー…」と少し不機嫌になりつつも、されるがまま、撫でられるがままであった。存外嫌ではないらしい。
しかし、実際のところ、どうして猫はこたつで丸くなるのだろうか?
ねこ以外でも丸くなったりするのだろうか?
私は近くで寝ていた飼い犬ぺスを呼び、こたつに入れてみることにした。こたつに入ってすぐにぺスも丸くなった。なるほど、どうやら犬も丸くなるらしい。
次に文鳥のピーちゃんをこたつに入れてみた。しばらくすると、見事に丸くなっている。やや!鳥も丸くなるのか……!
ここまでくると、どんな動物でも丸くなるのか調べてみたい気持ちになってきた。うさぎのぴょん吉、亀の両津、ハムスターのこうし……家に居るペットたちを続々とこたつにご案内。そして驚くことにその全てが丸くなったのである。これはいったい……?
この謎を解明するため、私は大学進学の際に生物学専攻に進み、独自に研究を進めた。その結果、こたつに動物を丸くする謎の力があることが分かってきた。「ねこがこたつで丸くなる」のではなく、「こたつがねこを丸くしていた」のである。
分かりやすくするために、ここではこの「動物を丸くする謎の力」のことを「*ねこ丸くするパワー」と仮称する。
私は教授になった後も、この「ねこ丸くするパワー」を独自に研究し、解明を進めた。
動物園の協力を得て、アライグマやトラ、ライオン、クマなどの調査を行い、その全てが丸くなることも分かった。
この調査を行うにあたって一番問題となったのが、こたつの準備である。残念ながら、日本には人間サイズのこたつしか流通しておらず、ライオンやトラのサイズのこたつ(以下、ライオンサイズ)を準備するのが大変だった。
こたつの調達のために、毎回海外に飛び、人気の少ない裏市場のこたつ店を訪ね歩いた。(ライオンサイズのこたつは人体には危険が伴うため、一般に流通させてはいけないことになっている。そのため、裏市場でしか手に入れることが出来ない)
ようやく手に入れて、空港に持ち込むことが出来ても、十中八九検問で止められてしまう。そのたびに「私はこたつの研究者だ」と主張しているのだが、現代にはこたつの研究者を偽って、ライオンサイズのこたつを密輸しようとする輩が多く居るため、信じてもらうのに大変時間がかかった。
一応誤解を生まないように、厳密に言えば、私は動物学者であり、こたつの研究者では無いということは、ここにはっきりと明言しておく。
そうして調査を進めてきた私であったが、ここで大きな問題に直面する。大型動物のゾウとキリンの調査である。
さすがにゾウサイズ、キリンサイズのこたつは海外にも流通していない。自分で作る必要があるのだ。こうして私の長い長い戦いが始まったのだ。
教授になってから十年、ゼミ生や助教授の協力を得ながら、こたつの制作を進めていった。
私はこの研究に人生を捧げたと言っても過言ではない。一時期、こたつの設計にのめりこみすぎて、授業の内容が生物学2割、こたつ学9割の内容になってしまったほどである。「あの教授は何の教授なの?」「生物学の講義は?」と言う声が生徒から上がり、「こたつマン」などと不名誉なあだ名を付けられていた。失礼にもほどがある。誰がこたつマンだ。
そうして更に十年後こたつマンは、遂にゾウサイズとキリンサイズのこたつを作り上げることに成功した。この調査が終われば、私の研究も完成するはずだ。
これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩だ。
キリンとゾウも予想通り丸くなった。
私はイグ・ノーベル賞を受賞した。
ーーー『地球の神秘 生命の神秘』より引用
*注釈:「ねこ丸くするパワー」
地球が丸い形になったことと深い関係があるとされている現象。現在は「Kotatsu gravity」と呼称され、国際的な研究が進んでいる。
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