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ふと脳裏を過ぎっていった実習生の頃の記憶


私は病院の精神科で実習をしていた頃、一般病棟でとても印象深い男性と出会っている。

その人は声を発しない。
体は不自然に曲がっている。
食べることも飲むこともできない。
だから胃に直接栄養を流し込んでいた。

まだ見た目は若いのに……。

いったいどんなことがあったのか?
どうして精神科の一般病棟に入院しているのか?

立場上、多くの患者のカルテを閲覧する許可はもらっていたのだが、その男性のカルテは最後まで空白しか確認できなかった。
(自由に閲覧できたのはNS、OT、PSWが書き込んだ部分だけで、CPは一部分だけ、DRは基本的に閲覧できないようにされていた。つまりその男性患者と関わっていたのは、ドクターだけだったと思われる)



彼はいつも大広間か、テレビの置かれた娯楽室にいた。
看護師が車イスに乗せて連れてきていたのだ。

何人かの看護師が、彼のことを抱き締めているシーンを目撃したことがある。
事情を知っているのだろうか? 20代の若い女性の看護師は涙を流していた。


彼は何をされても反応をしなかった。
どんな時でも、ずっとうなだれていた。




あれから10年以上が経つ。

先日、【 押川 剛 著『子供の死を祈る親たち』新潮文庫 】を読んでいたら、不意に彼の姿が脳裏を過ぎっていった。

知識や経験によって、彼がどうしてあんな状態になっていたのかを想像できるようになった私は、たまらなく哀しい気持ちになった。


彼は今頃、いったいどうしているのだろうか?





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