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【短編小説】灼熱の風が吹くこの星で ⑥


【SCENE 6】

 おそらくもう、僕の寿命はあまり残っていない。
 家に向かって歩いている時、僕はそんな予感を抱いていた。

 何故なら地の民は、死期が近付けば近付くほどに、大量のエサを食べるようになる。
 最近の僕の食欲は異常だった。
 寝ている時以外は、常に何かを食べていなければ落ち着かない。
 体は丸々と太り、他の寿命で死んでいった地の民と、同じような見た目になっている。

 食べるのを我慢していれば、もしかしたら長生きできるのかもしれない。
 そうは思うのに、やはり食欲を抑えきれない。
 道中、僕は背負い鞄の中に入っているコロモイを、常に食べ続けていた。



 灼熱の風の吹く回数が少なかった往路とは違い、復路は何度も歩みを止めなければならなかった。
 それでも睡眠時間を削ったお陰で、四日目には何とか自宅へとたどり着くことができた。


「ただいま!」

 ドアを開ける。
 奥の部屋にいたミリスが「お帰り、レルフ」と顔を出す。

 相変わらずの可愛い顔だった。
 地の民の女の子とは違って、洗練された美しさのようなものがある。
 僕は水の民である彼女が家にいてくれる幸運に笑顔を浮かべた。

 ――しかし、唐突に眉を顰めることになる。

 ミリスが凄く苦しそうに呻き始めたのだ。

「ミリス? どうかしたの?」

 心配になった僕は、ミリスに駆け寄ろうとした。

 しかし「来ないで!」と叫ばれ、足の動きを止める。

「な……何でなのよ……?」

 呟くミリスは悔しそうだった。
 しかし口角だけは、笑顔の時と同じくらい、いや、それよりももっと上がっていた。

 ミリスの浮かべている表情には見覚えがある。


 いつの間にか僕の全身は、小刻みに震えていた。
 だってミリスの顔は、水の民が地の民を無差別に殺戮する時のものだったのだから……。

 不意に、ミリスが床を蹴った。
 僕の方へ向かってきたのだということは、すぐにわかった。
 次に気が付いた時、僕はミリスに喉輪をつかまれていた。

「ミリ……ス……どうして?」

 僕は苦しさで顔を歪めながらも、ハッとした。
 ミリスが泣いている。
 笑顔なのに、涙が溢れている。





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