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生まれて初めてガチの野良猫を保護した話③

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仮の名前は、しっぽ

その日はえつこさんと、あれこれ作戦会議をしました。

「警戒心が強い子は、捕獲に失敗すると、もう同じ場所に帰ってこなくなることがあるの。だから、確実につかまえないと」

私たちは、すでに2度失敗しているので、これ以上怖がらせないためにも、まずは仲良くなるのが先とのこと。

「毎日同じ時間に、毎回同じおやつを持って、毎回同じ靴で、公園に通ってみて。猫は足音を覚えて『これくらいのじかんにおやつをくれるひと』って認識するようになるから。それから、名前もつけてあげて」

名前を呼ぶとそのうち覚えて、反応するようになるのだとか。かくして、今まで「猫ちゃん」と呼んでいたあの子は、仮名「しっぽ」ということに。長くて立派なしっぽを持っているから、というのが理由。まあ今は、残念ながら汚れてぼろぼろだけど…。

鼻をぐずぐずいわせているのは、猫風邪をひいているのだろうとのこと。

「野良猫の場合は、猫風邪で命を落とす場合もあるの。においが分からなくなって、食べ物が見つけられずに衰弱したり」

えつこさんは、抗生物質の錠剤を分けてくれました。

「1日2回飲ませるものだから、昼間は私がごはんに混ぜて食べさせます。だから夜はお願いします」

三顧の礼大作戦

かくして、毎晩公園に通う日々がはじまりました。

私は猫が大好きなので、公園通いはぜーんぜん苦じゃありませんでした! と言ったら嘘になります。

毎日同じ時間となると、向かうのは、確実に仕事が終わる22時半過ぎ。10月の終わり、その時間の屋外は結構な寒さ。おやつ片手に、しっぽがいるかどうか、まずは公園内をくまなく探します。

2日に1回はそもそも会うことすらできませんし、会えたとしても、植え込みからすぐには出てきません。

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それを今度は、

「おいしいよー。こわくないよー」

なんて声をかけながら、半ば体を突っ込むようにして、時間をかけて、奥でうずくまっているしっぽに食べさせるのです。

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寒い。寝不足。毎日のスケジュールも、ぐちゃぐちゃ。そして肝心のしっぽは、全然馴れてくれてるように思えない。

以前、瀕死の小鳥を拾ってしまったときも思ったことですが、命に関わるって、カジュアルにできることじゃありません。正直、時間も労力もとんでもなくかかります。かと言って、

「私、早起きしてランニングするのが日課なんです。寒いのも苦手。だから衰弱してる猫はあきらめます」

って言えるのか。うーん…言いたい気持ちはゼロじゃない。でも、やっぱりちょっと言えない。

えつこさんは、昼間のしっぽの様子を頻繁に送って下さいました。お仕事のあいまに、何度も足を運んで下さっている様子。

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譲渡会の人といい、えつこさんといい、手を差し伸べてくれる人の存在は、本当に救いになりました。しっぽは相変わらず馴れてくれないけど、抗生剤をうまく飲んでくれたときは嬉しいし、ひどかった猫風邪の症状も、和らいできているようにも見えます。

ときどき、公園を通りかかる人に、声をかけられることがありました。ご近所にも、しっぽを気にしている人がチラホラいたのです。植え込みに、キャットフードが入ったお皿が置かれていることもよくありました。

飼っている猫を捨てる人もいれば、通りすがりの猫に心をくだく人もいる。いろんな人がいるんだなあ…。

結局、雨の日を除いて約3週間、私たちは公園に通い続けました。警戒心の塊みたいだったしっぽは、ほんの少し、本当にすこーーしだけ、恐怖心が和らいだ、かなあ…? くらいにも見えました。

ところがそんなとき、とんでもない張り紙がされたのです。

公園で、工事!?

『11月25日から、この公園に照明をつけるための工事をします』

なんですって。こんなちっちゃな敷地の中で、工事?

大きな音や、知らない人、見たこともない何かが設置されたら、あんなに警戒心が強いしっぽ、二度と戻ってこなくなっちゃうかも。3年前、突然姿を消したみたいに。

「今夜、捕獲機を設置しましょう。しっぽを捕まえなくては」

えつこさんがそう決めたのは、工事がはじまる前日のことでした。

④へつづく

我が家の猫たちとのエピソードはこちらに。

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