20日目 歯茎まわりのネジをはずす

昨晩、寝つきは悪かったし、相変わらず痰の吸引でこまめに看護師さんを呼んだりしたけれど、比較的よく眠れたと思う。6時前に一度目が覚めたけど、もう少し寝て、かたまった身体を少しずつほぐして、背をおこしていく作業。7時の朝食は完食。車椅子を持ってきてもらい、トイレに連れて行ってもらう。便座に座るところまで介助してもらう。便がでた。ベッドに戻り、薬と栄養剤(あまりにも吐くので100㎖に減らしてもらった)を胃瘻から入れる。順調だ。

リハビリの時間は毎日変わる。朝、介護スタッフさんが配ってくれる予定表にその日のリハビリ時間が書いてある。その時間になると作業療法士(OT)さん、理学療法士(PT)さん、言語聴覚療法士(ST)さんが、ベッドまで来てくれる。レントゲンや創洗浄、身体拭き、処置などと時間がぶつかる時もある。その時はだいたいリハビリはお預けになったりする。

今日は初めてリハビリテーションルームに行った。広い部屋にいろんな器具があって、子どもから大人まで、いろんな怪我をした人がそれぞれトレーニングをしていた。歩く練習をしている人を見て、私も早くその練習がしたいと思った。そのために、身体を支えられるように、左手のリハビリを進めなければ。指の曲げ伸ばしだけでかなり痛い。

お昼前に口腔外科の先生が様子を見にきてくれた。顎の手術をして1週間以上がたったので、歯茎に装着した金具を外すのだ。どこか処置室に行くのだろうと思ったが、この場で、ベッド上で行われた。目の前にドライバーやペンチが用意された。麻酔とか、しないのかな。歯茎に固定されたネジを、ドライバーでぐりぐりと外していく。あれよあれよという間に、金具は取り外された。口の中に柔らかさが戻る。顎の麻痺は半年くらい続くらしい。顎の筋肉をべりっとはがしたから・・・と先生は言う。そんなことさせて、ごめんなさい。顔の腫れは少しずつ落ち着いてきたけれど、元の顔に近づけるためにマッサージをする。表情が上手くつくれるようになりたい。ひとつ嬉しいのは、左目が二重になったこと。左目下の切開して周りが腫れた時の、副産物だろうか。ぱっちりおめめゲットだぜ。(左限定)

この病院では整形外科の先生方が朝、10人くらい団体で回診をする。物々しい足音で、部屋を回っている。足音の迫力がすごい。4人部屋の大部屋の中で私のベッドは4番目なので、他の患者さんがお話ししてるのを聞いて、自分の番が来るのを待つ。「ますこさーん」と呼ばれて、カーテンが開けられる。右から開くか、左から開くか、いつも勝負だ(こちらが勝手に勝負しているだけだが)。たくさんの先生や研修医さんっぽい人に囲まれる。「調子はどうですか」「指はうごきますか」「傷をみせてくださいね」「(指を)よく動かしてくださいね」。あちこちから声がする。こちらは声が出せないので、頷いたり表情で反応する。筆談をしている暇はない。自分の予定や目標を書いたホワイトボードを見て、励ましてくれることがある。どやどやーっと人が押し寄せる雰囲気の回診にびっくりする患者さんもいるらしい。動物園の動物になった気分だとおっしゃる人もいた。私はといえば、この不思議な空気は楽しい感じがして、嫌ではなかった。(調子悪い時は、そっとしといて…って顔をした。)

入院してはじめてわかる世界があることを知る。


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