26日目 シャワー解禁

朝、のどのゴロゴロはなかったけれど、念のために吸引をお願いするナースコールする。痰はほとんどなかったようだ。

朝ごはん、薬、うがい、歯磨きをいつも通りベッド上で済ませる。今日の予定表が配られて、確認すると「シャワー」という文字を発見した。いままでは身体拭きと洗髪、それぞれだったのが、シャワーを浴びることができるようになったようだ。立てない、歩けない、左手使えない私が、どのようにシャワーを浴びるのか。病院の入浴介助を初体験するビッグイベントである。

介護スタッフさんがタオルや着替えなどの荷造りをしてくれた。看護師さんはシャワー室で傷を洗ったり、包帯を巻いたりするため、その準備。介護スタッフさんに助けてもらって、車椅子に乗り、押してもらって初めて訪れるシャワー室へ。服を脱ぐのも一苦労。立てない状態でパンツやステテコを脱ぐのが、特に難しい。がりがりの身体にいかつい創外固定、変色してぺったんこな左腕をした私の姿が鏡に映される。車いすから入浴用の車付きの椅子に乗り換えて、やっと浴室へ。

何から何まで、やってもらう。頭、身体、足、ほぼ全部洗ってもらう。私もできる範囲で右手で洗う。うっかりするとお腹側にある創外固定の金属の棒に肘をぶつけて怪我をするので、要注意。頭は念入りに2回洗ってもらう。久しぶりにお湯を浴びてさっぱりした。タオルで身体を拭いてもらい、車椅子へ乗り換える。立てないので脇を足をもってもらって、二人がかりでの移動。(トイレの便座への移動も二人がかり)

シャワー後、すぐに言語聴覚療法士(ST)さんがやってきて、リハビリがはじまった。今日から新しい方だ。私よりひとつふたつ下の若い女性だった。

まず精神テスト。簡単な計算や時間、場所の認識、記憶力、判断力のテスト。描かれた文字に従うとか、同じ図形を書くとか、紙を半分に折る、など。パーフェクトだった。頭を働かせるリハビリだった。テストのあとは、雑談をした。

職場の施設の利用者さんからお見舞いの絵をもらった。うれしかったので私も絵のお返事を描いた。母が色鉛筆や紙を用意してくれていたのだ。夫は家から塗り絵ブックも持ってきてくれていた。絵を描いていると、時間がたつのが早い。

父と母が別々にお見舞いにきてくれた。

父は、職場の出来事や、これからおじいおばあのいる遠方に様子をみに行ってくるという報告をしてくれた。

母は、いつも通りベッド周りの整理をせかせかとしてくれた。タオル補充、ナプキン補充、小さなポスターを飾ってくれたり、新しくお見舞い絵を持ってきてくれたりした。

入院時から私を担当してくれた若い女性の研修医さんが来月から別の病院に異動することになった。救急の研修医は3カ月単位で異動することがよくあるらしい。声が聴けてよかったと彼女は言う。歩けるところまで、みてくれると思っていた私は、切ない気持ちになる。本当にお世話になったし、話をきいてくれたし、抜糸もしてくれた。(もちろんお仕事だから、というのはわかっているけれど。)寂しいなぁ。

彼女も「ますこさんは、若い女性で、大怪我のなか頑張っていて、わたしも勇気づけられました。勝手に」そういってくれるだけで、本当にありがたい。仮の声だけど、直接「ありがとうございました」が言えた。涙は我慢した。涙って我慢すると、目の奥がほろ苦い感じがする。

夕食のハンバーグを食べて、元気をだす。


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