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その⑥ ~風に揺れるタオル~ 京都の食堂・居酒屋「風景」のマスターを助けたい! マスターの隠れ家計画

こんばんは。今日はマスターの作品を一つ紹介させていただきます。

この記事を初めて読んだ方は、①~⑤のいきさつも読んでください。

時間がない方のために簡単に説明を

京都の錦商店街近くで飲食店「風景」を営む松田正弘さん、通称マスターが、新型コロナウイルスの影響で窮地に立たされている。
そんなマスターを助けるために、「マスターの隠れ家計画」と題して、マスターを救うために、このプロジェクトを立ち上げました。
ただお金を支援してもらうだけでは忍びないとのマスターの意向をくみ、形の残るものを作成するために、マスターの趣味であり特技である文章を書く力をお金に変えるべく試行錯誤しております。
このnoteを使ったweb媒体での販売と、マスターの夢でもある、本を出版するという紙媒体での販売に向けて、慣れない作業に奮闘中です。


さて、今日はマスターが今年の1月13日に受賞した作品を紹介します。

【第16回 60歳からの主張】
全国老人福祉施設協議会という社団法人が主催するこちらのイベント。
成人の日に毎年行われる「青年の主張」の、いわば高齢者版で、「もうひとつの成人式」、というサブタイトルがついている。
審査員は、
アナウンサーの草野仁さん
サッカーの釜本邦茂さん
ノンフィクション作家の吉永みち子さん
とそうそうたる面々。

惜しくも最優秀は逃したが、立派な入賞作品。

その作品がこちら
※マスターこと松田正弘さん本人から掲載の承諾をいただいております。


    風に揺れるタオル

 今日も真夏の日差しが容赦なく照りつけている。午後3時過ぎ、今週も母が暮らすアパートに到着。バイクを駐輪場に停め104号室へ。母の部屋の前にはいつもどおり、きれいに洗濯された数枚のタオルや布巾、白い前掛けが物干し竿に吊るされ風に揺れている。ガラガラ……、引き戸を開けると中から、「まーちゃんか?」と母の声。「うん」。「おかえり」。おかえりの声に混じって聴こえる少々大きすぎるテレビの音声は競馬番組のそれだ。僕は少し可笑しくなって一人微笑み、靴を脱いで上がり込む。
京都の錦市場近くに飲食店を開業して30年になる。定休日の日曜は朝からメーンレースを含め2、3レースの検討をしてPATで購入したあとジムへ行く。トレーニングを終えると母の住むアパートへ直行し、母と二人食事をする。
 もう4年、こんな日曜日が続いている。

 4年前、僕の姉が突然逝った。58歳だった。二人姉弟で、姉は町田市へ嫁いでからの30年間も、アパートで独り暮らしをする母にしょっちゅう電話をかけ、盆や正月、ゴールデンウィークなんかには必ず京都へ帰って母のアパートを訪ねてくれていた。父は30代のある日、姉も僕もまだ幼い頃に心筋梗塞で突然消えた。以来母は再婚もせず、僕たち3人は肩を寄せ合い、どうにか生きて来た。
 84歳で突然最愛の娘を失った母の憔悴は予想以上に大きかった。生きる気力が萎え、生活は規則性を失い、眠るために薬を乱用した。正直、僕も妻も、母をもて余していた。
 妻と考えた末、ふたつのことを実行することにした。ひとつは、これまで妻がしていた店の洗濯物を母にしてもらうというもの。必ず毎日しなくてはならない店のから拭きタオルやダスター、前掛けなどの洗濯は、パートを始めた妻には結構な負担だったということもあるが、何か必ず毎日しなくてはならない仕事を母に与えたい、というのが本音でもあった。もうひとつは、僕が日曜の昼食を母と一緒に食べる、というもの。週に一度母の手料理を差し向かいで食べ、姉や父の思い出話を聞いてやるだけでずいぶん違うんじゃないか……。
 効果は絶大であった。洗濯は、自分が息子の店の役に立っている、という歓びを母に与え、日曜日は朝からあれこれ料理をして僕を待つようになった。洗濯のためにいつも天気予報をチェックし、日曜の献立を考え、スーパーへもよく買い物に行くようにもなった。

 アパートへ着くと僕は、父と姉の仏壇に手を合わせたあと、ゆっくりと食事をしながら母と競馬中継を観る。武豊騎手しか知らない母はいつも、豊さん何番の馬?と訊いてくる。「4番。青い帽子。青と黄色の服着てるのが武豊」。ゲートが開く。僕は息を詰めて自分の軸馬を目で追う。最後の直線、大外からエアスピネルがぐんぐん伸びて来ると母は、豊さん来た!豊さん来た!と無邪気にはしゃいでいる。馬券は外れるが僕は、自分が必要とされる居場所を見つけてずいぶん元気になった母が嬉しく、日曜の午後に年老いた母親と二人競馬観戦している幸せを想ったりもしている。

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過去の記事一覧

その① ~マスターを助けたい!~

その② ~私は大きな勘違いをしていた~

その③ ~タイトル命名の話~

その④ 〜家庭用プリンターで本を作ってみた〜

その⑤ ~マスターの書く文章~

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