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父の人生を変えた『一日』その42 ~運~

その42 ~運~
 ある山の木材を買い付けた。その山の木を伐採し出材していく時、あるアメリカのlogger(木こり)が言った。
「ライオンさんあの臭い木はどうするのですか?」
「なにちょっと待って」と言った。
普通の米松と米栂の山の頂上から「アメリカ檜」がでてきた。トラックでアナコーテスまで運送せよと言った。外人の木こりは首をかしげていた。なぜあの臭い木を高い運賃かけてアナコーテスに運ぶのだと思った。馬鹿者、檜だ。素晴らしい太い34本の檜がでてきたのである。アナコーテスに檜の山が出来たとき西垣林業の大前専務がアメリカに丁度検品に来た。その檜を見て驚いた。そのテレックスは未だに心に焼き付いている。
 有名はセリフを残した。大前専務は「算盤伏せて森の石松」と東京木材部にテレックスに入れろと私に言う。東京から質問が来た。「どういう意味だ?」算盤伏せての意味は、値段はトーメンに任せるのでこの檜買ったという意味である。(森の石松は喧嘩を買ったが、大前専務はこの檜買ったという意味)
大前専務の会社は奈良で国内の檜をヘリコプターを利用して伐採し日本中に販売していた。檜の販売先を熟知しているお客様であった。アメリカ人は檜、ヒバは臭いがきついので好まない。フェンスや垣根にしか使わなかったのであり高級材の意識は無かった。太い檜1本でキャデラック1台買える価値があるのである。全く棚からぼた餅で非常に儲かった。


~倅の解釈~
 この親父の自慢話は何百回と聞かされた。親父の旧友や長岡の業界では大げさな人で親父は有名であったので、特に長岡の方々は信じていないと思うが、この話は事実である。実際にそのテレックスに関わった方からお話しを聞く機会があった。
 なんでこんなに親父はこの話を好んで話すか不思議だった。高校生の時だったか、親父に言い返した。
「そんなの運でしょ。全然商売の凄さとは関係ないのでは?」と。
「元博、運というものは引き付けるもの。創りだすもの。すなわち実力なのだ」
言い返せなかった。スポーツ競技でも良くあることであるが、「運」というものに対して、その日から敏感になった。引き付ける。創りだす。この言葉が耳を離れなかった。親父もそうであったが、願を担ぐことを私も実践した。この「運」を引き付け、創りだすために。なんでも願をかけた。
 今や、スポーツ業界では「ルーティン」という言葉で有名であったが、願掛けはこれと一緒。必ず同じことを繰り返す。こだわりとおすことによって、奇跡を生み出す「運」を創りだす。でもこのルーティン、願掛けの積み重ねが「努力」という形でゆるぎない力になっている。
 私もいつの日か檜を探り当てて見せる。絶対に。

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