ソフトバンクの株価評価について思うこと

(本記事は2018年8月9日にtumblrにポストしましたがこちらに転載いたします)

■企業価値とバリュエーション
まずそもそもの話として、企業価値とは何か、というか株価評価はどうあるべきか、となると様々なバリュエーションがあるわけですけど、例えば誰でも知っているPERとPBR、両方見ているとどちらのバリュエーションに株価が引きずられやすいか、がなんとなく見えてくることがあります。
つまり乱暴に言ってしまえば「その企業は資産を評価すべきなのか収益力を評価すべきなのか」という話で、もちろん「収益も資産も」であり「収益を生み出す資産」を評価するんですけど、もう少しマイルドに言えば「資産寄りの評価をした方がいいビジネスモデルなのか収益寄りの評価をすべきビジネスモデルなのか」という話です。
前者は例えば不動産だったりするし後者は例えばソフトウェアやゲームみたいなものを指すと言えばわかりやすいでしょうか。さらに言ってしまえば、株価と財務の関係というのは、要は「今株価に織り込まれていない変動要素はどこから出てくるか」であり、故に多くの場合、期間損益に議論が集中するわけです。
そしてもちろん、市場環境によってどこを議論するのかも変わってきます。不景気な時でリスクオフだという時にはCash is kingとかいって負債の多い会社が売られ、強いバランスシートの会社が買われるといったようなことですね。

■ソフトバンクは評価軸が変わってきた会社
そういう視点でソフトバンクを見ると過去大きく評価軸が変わってきており、独特であることが言えるかと思います。
大別すれば

・ネットバブル前:普通の会社、98年頃にはバランスシートリスクも
・ネットバブル期:投資資産による評価
・ADSL参入期〜ケータイ事業参入期:通信会社としての評価、収益力
・Sprint買収以降:収益力とバランスシートリスク
・Alibaba上場、SVF設立以降:投資資産による評価

というような感じになると思います。

こうなるのはつまり、それだけソフトバンクの事業構造が多岐に渡り複雑であるからで、株価評価ももちろんPERやPBRでやってもいいんだけど、じゃあ何がどう評価されてるのとなるとPERやPBRでは説明しきれないのですよね。

■ソフトバンクにはSoTP(Sum-of-the-parts)を使うのが一般的
そこでアナリストが一般的に持ちいているのがSum-of-the-Partsバリュエーション(以下SoTP)で、ソフトバンクの各事業の評価をして、それを積み上げることでソフトバンクの価値をよりもっともらしく説明しましょうというものです。
ソフトバンクのSoTP評価の構成要素としては

・Alibaba株:保有株数x株価x(1-想定税率)
・ARM株:上場してないし100%なので買収価額そのまま
・Sprint株:保有株数x株価x(1-想定税率)でもEV/EBITDAやPERでも
・通信事業:EV/EBITDAでもPERでも
・ヤフージャパン株:保有株数x株価x(1-想定税率)
・Softbank Vision Fund:ここで調査力・評価力の差が出るかな
・その他

といった感じになると思いますが、このうち上場して日々株価がついているものはそのまま株価を使うのが一般的で、そうして計算されている価値の合計とソフトバンクの株価とのギャップがプレミアム(ソフトバンク株価>SoTPによる保有資産価値)またはディスカウント(SoTPによる保有資産価値>ソフトバンク株価)というような評価をします。
もっともIFRSになって、ずいぶんと時価評価されるようになってきているので、発表される財務諸表から計算される純資産とのギャップも以前に比べ小さくなっていることから、PBRで評価しようという考え方もなりたつかもしれません(雑すぎると思うのでアナリストはやらないと思いますけど)。

前までは各アナリストが独自にSoTPを計算していましたが、ソフトバンクのサイトにも出ているので個人でもそうした数値を作らずとも得られるようになりました。(これも含み益を税引き後にするとかしないとか、その場合の税率はどうだとか、Sprintは株価ではなくPERやEV/EBITDAで評価すべきとか、繰延税金資産等の他のバランスシート項目を考慮すべきとか、調整項目は色々あります)

1株当たり株主価値情報

こうしてみるとソフトバンクのポートフォリオマネジメント自体の評価を大きくするのでない限り、より価値があると思われる=株価アップサイドがあると思われる分野の株を直接買えばいいわけなので、だいたいソフトバンク株はその保有している資産価値に対してディスカウントされていることが多いです。プレミアムになった期間もないではないけど、ネットバブルの頃はポートフォリオ投資先が上場してないとか小さいとかわからないとかでソフトバンクの方を持つ意味があったためプレミアムになっていたように思います。

で、ネットバブル以降はおおむねディスカウントされているのですが、そのディスカウント率はリスクオンなら少なめ、リスクオフなら多め、的な傾向があるやなしやだったり、時にSprintのクレジットリスクが脚光を浴びればSprintのCDSとソフトバンクの株価に相関性が出ることもありますし、Alibabaが好決算だ株価上昇だとなればそちらに引きずられることもあります。

■ソフトバンクはこれからしばらくは資産寄りの評価がいいのでは
で、毎日このディスカウントを計測して、自分の見る市場のリスク許容度から乖離しているかどうかを問えばいいんだと思いますが(もちろん株価はファンダメンタルだけではないので、ファンダメンタルだけからみると色々乖離するわけで)、ただそもそもとしてこれから先、ソフトバンクという企業の価値は資産寄りなのか収益力寄りなのかを見るとやはり資産で評価するフェーズではあるなと思っています。

そう考える理由には3つあって、

1. まずAlibabaとSVFがSoTPの企業価値の大半を占めることになるからということ(アリババの50兆円の時価総額の29%を持っているので15兆円、税金引いても10兆円、SVFはご存じの通り10兆円だけど持分を掛け算してやる感じで)
2. さらにSprintへの投資についても賛否両論というか全体的に否の評価が多いと思いますが、現在T Mobile USAとの合併の話があり、これが進むことで、Sprintの事業リスクが低下する、Sprintの株価が上がる、ソフトバンクの持分が低下することでソフトバンクの連結から外れる、という期待値があること
3. 国内通信事業についても上場が発表されており、これも持分低下という側面からも株価がつくことで投資と看做して資産評価が可能になること、

ということなのですが、これはもう資産ベースの評価でいいんじゃね?という感じになるのではないでしょうか。

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