挑戦

物事のはじまりはいつも突然で、気が付けば終わっていた。
何かに没頭している間だけは終わりなんて見えない程潜り込んで、ある時もう終わりなのだと悟る。そういうことが多かった。

今初めて立つこの場所。
社会という大流の中に旗を立ててそこに突き進む。期待と夢を背負ってひたすら我武者羅に。そういう場所だ。
そういう世界だ。

自ら選んで、飛び込んだ世界だ。

否、強い流れに溺れ、そのからくりに転げ落ちたのだ。

渦巻く時空は蟻地獄。無限を思わせる時間、踠き苦しむうちに疲れ切った身体は激しく地に叩きつけられ意識を失った。

…とても心地好い夢をみた気がした。

夢が解けていく。

ふと目を覚ますとそこは、いくつか小窓が付いた扉のある、どこか気持ちの悪い空間だった。
どれだけ時間が経ったかはわからないが、身体を起こして辺りを探る。
何かの建物の中に居るようだが、何かが違う。
少し歩き一際大きな窓から外を覗くと、日常の風景が遠くに見えた。

いつからだろうか、おそらく夢から覚めてからだ。耳鳴りが鳴り止まない。おまけに異臭。特に小窓の付いた扉の向こうからは強くその臭いを感じる。
何なのだ。
…早く外に出よう。

少し歩いて出口を探すが見つけられたのは扉ひとつ。おそらくどこかに繋がっているであろう大きな扉だ。
ここから出られる筈だ、とその重い扉を開けた。

だが、どうなっている。
驚くことに、何も見えない。

恐る恐る扉の淵に立ち目を凝らしてみるが、足もとから数センチ先は、全くの無。
少しその境目の向こうに足を出してみるが、床があるでもなければ、天井も見えない。
何が何やらわからない。
その闇に飛び込む勇気はなく、唐突に不安と恐怖を感じ嘔気付いた。
只々激しい異臭と耳鳴りが続いた。

…今は諦めるしかない、か。

昔から諦めるのは早かった。
今回もそうだ。同じだ。
諦めると妙に頭が冴える。

今自分に起きていることはおそらく夢の中の出来事で、且つ現実でもある。
この先いつこの夢と現実に終わりが来るのかはわからないが、既にこの状況は確実に始まっている。
このからくりからは逃れられない。

もう一度大きな窓から外を覗いて、大きく深呼吸をした。

今置かれている状況を受け入れることにしよう。これから起こることも、出会うものも全て。

まだ自分が居る場所の全貌は掴めないが、ここが今までの日常とはかけ離れた場所だという事がわかった。

いや、こうなることがわかっていた自分もどこかに居たのかもしれない。

思考を巡らせ始めたその時、突然響く声。
誰かが近づいて来る。

 ーさて、今日はここまで。

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