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遺物~虎の毛皮、鮫の牙、父の足跡~

 ドアノブに力を込めると、扉は容易く開いた。扉の向こうはアパートの他の部屋と同じ六畳一間で、椅子のほかには何もない。椅子には男が腰掛け、足を投げ出して背もたれに体重を預けていた。おそらく死んでいる。胸に生まれつき頭が入るほどの大穴が開いているという、特殊な人間でもない限り。
 俺の隣で、息をのむ音がした。隣室が臭うと訴えて俺の袖をつかみ、ここまで引っ張ってきた管理人気取りの婆だ。婆は扉から溢れる臭いをたっぷりと吸い込んだためか短くうめくと、口を押えて廊下を転がるように駆けていった。隣室の臭いの正体がわかって、さぞすっきりしたことだろう。
 一方俺は面倒事に巻き込まれたことを悔やみつつ、警察と救急車のどちらから呼ぶべきか悩んでいた。その時俺はようやく気が付いた。男の顔が、一昨年死んだ親父とまるきり同じであることに。親父の場合は事故ではあったが、胸に大穴を開けられるという最期まで、男と父は同じだった。【続く】

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