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『SPEED』

思春期が凝縮された一冊。

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『SPEED』金城一紀

頭で納得できても心が納得できなかったら、とりあえず闘ってみろよ―。平凡な女子高生・佳奈子の日常は家庭教師の謎の死をきっかけに、きしんだ音を立て始める。謎を探る佳奈子の前に立ちはだかる敵。そして、偶然出会った風変わりなオチコボレ男子高校生たちに導かれ、佳奈子は歪んだ世界に敢然と立ち向かうことを決心する!大人気のザ・ゾンビーズ・シリーズ第3弾。(Amazonより)



シリーズ第三弾。これでシリーズ全作品読んだはずだけど、途中途中忘れてしまっているエピソードがあって、それがものすごく大事な彼らの感情だから、機会を見てもう一度一気読みしたい。

俺の大学生までの読書経験は金城一紀と恩田陸と重松清に凝縮されている。

金城一紀でアイデンティティや疾走感を、恩田陸で小説の不思議さとミステリーの醍醐味を、重松清で学校生活と家族について学ばせてもらった。

どの作者にも共通することは思春期や青春の描き方がものすごく好きってこと。

これに追加すると、石田衣良、伊坂幸太郎、朝井リョウかな。


今作は、覚えていないが前作までのエピソードで、飛ぶための大事な風であったヒロシを失ってしまった彼らが、佳奈子をを助けることによってまた高く飛ぶための、彼らにとってもある種再生の物語。

その過程をお嬢様学校生徒である佳奈子というゾンビーズとはかけ離れたフィルターを通して目撃するので、なんて粗野で現実離れしていてむちゃくちゃで、でもなんて純粋である種高潔なんだろうと感じてしまう。

また佳奈子の成長の過程を楽しめる点では、『フライ、ダディ、フライ』と同じワクワクせざるを得ない展開。

だけどその心身の成長にも危うさがあることをしっかり忠告しているところも素晴らしい。

もしおまえがシステムとかカラクリに疑問を感じたり窮屈に思うようだったら、きちんと怒り続けるべきだよ。こんなもんか、なんて思わないでな

変に冷めて納得するのではなく、しっかり熱を持ち続けることの大切さが伝わってくる。

徐々に物語と佳奈子の成長のスピードが上がってきて、作戦決行当日からは一気読み必至。若い頃を羨ましがるのは嫌いだけど、あの頃のどんな怖いものも麻痺してしまう感覚って一瞬だけど最高の体験だよなって改めて思った。

事件その後の展開も、下手にゾンビーズと関わらせるのではなく、佳奈子自身の整理と成長を描いていることが、青春の刹那さを表していて好感が持てた。

これまでのエピソードがどんどん気になってきたので読み直します。

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