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信じるか信じないかはあなた次第? ~推薦図書:「仕事に関する9つの嘘」~


強みや個性を仕事に活かす診断ツール「ストレングスファインダー」の提唱者であり、今年の人材育成国際会議ATDバーチャルカンファレンスのキーノートスピーカーだったマーカス・バッキンガム(Marcus Buckingham)氏の新著「NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘」のご紹介です。

タイトルが少々刺激的ではありますが、内容がそれに負けず劣らず興味深いものでした。おそらく多くのビジネスパーソンが、これまで何の疑いもなく上司、先輩等々から「当たり前」として教えられ、かつ習慣や定説のように語られていることも含まれていて、一見すると概念的なことを書いているように思えましたが、内容はかなり具体的かつ実践的です。

9つの嘘とは

この本で紹介されている嘘とは以下の9つです。

1.「どの会社」で働くかが大事
2.「最高の計画」があれば勝てる
3.最高の企業は「目標」を連鎖させる
4.最高の人材は「オールラウンダー」である
5.人は「フィードバック」を求めている
6.人は「他人」を正しく評価できる
7.人にはポテンシャルがある
8.ワークライフバランスが何よりも大事だ
9.「リーダーシップ」というものがある

薄々そうかなーと思っていたものや、文字面だけ見ると違和感があるもの等、見る方によって受け止め方は様々だと思います。9つすべてについて一つひとつ紹介するとネタバレになってしまうので、個人的に気になったポイントを私の業務領域である人事部門の機能ごとにいくつかご紹介します。

採用担当者が知っておいた方がよさそうな嘘

まずは、新卒採用や中途採用等の「採用」に関わる方が知っておいた方がよさそうな嘘(という言い方もなんか変ですが)が、1つ目にあげられている"「どの会社」で働くかが大事」"です。

筆者は「パンフレット(会社案内)」や「働きがいランキング」は現実を表しておらず、実際には「どのチームで働くかが重要」と書いています。
要は、仕事のリアリティは、「企業文化」という言葉だけで単純化できるものではなく、実際に所属するチームにあるんだよ、ということです。

ここでは「働く人」が主語になっているので、一人のビジネスパーソンとしてはそのまま額面通りに受け止めれば良いと思いますが、一方で、人の採用に関わってる方々にとっては、これから一緒に働く人を探す際には、結果としてミスマッチを生じさせないために、この点を改めて心に留めておくことが大事なことだと思います。

最近は、いいことも悪いこと正しく伝える、というスタンスが新卒採用活動においてもかなり根付いてきていると思っていますが、そうは言ってもやはり自社を魅力的に見せたい、という採用担当者の想いから、企業文化や風土等の「(いい)雰囲気」を伝える回数はどうしても多くなると思います。それはそれでとても大事なことでもあるので、そんな中でも、実際の働くチームを見せる場を作る等(インターンなんかはまさにこれですよね)、いかにリアルな状況を見せて(魅せて)いくか、という観点は忘れないようにしていきたいものです。

育成担当者が知っておいた方がよさそうな嘘

次に人の育成に関わる方が知っておいた方がよさそうだと思った嘘は、
"人は「フィードバック」を求めている"です。
ちなみに、この本で言っているフィードバックとは主に「指摘」「アドバイス」といったネガティブなものを指しています。

昨今、「心理的安全性」という言葉がや1on1などが一般化しつつあり、また、「グロースマインドセット」という考え方も広がってきている中で、周囲からのフィードバックはいいもの、そして成長にはフィードバックは欠かせないもの、ということはまさに定説となっている感もあります。また、古くからある「360度サーベイ」もマネージャーの成長/育成ツールとしては一般的です。

そんな中で、筆者は、人は自分の本当の姿を知りたいのではなく、他人が自分を見てくれているかどうか、好きになってくれるかどうかの方が大事で、フィードバックを求めているのではなく、「オーディエンス」を求めていると主張しています。もう少し具体的に言うと、最高の自分を認識してほしいので人は「注目」を求めている、と書いています。

心理学でよく用いられる「ホーソン効果」(治療を受ける者が信頼する治療者に期待されていると感じることで、行動の変化を起すなどして、結果的に病気が良くなる現象)や、「スナップチャット」がミレニアル世代でうけた要因として、「いいね」等のリアクションボタンかないことを例に挙げながら、
 ・肯定的なフィードバックは批判的なそれよりも30倍いい
 ・称賛と指摘は「3:1」で
 ・意見せずに感想を伝える
といった行動に加えて、結局、人は自分で考えないと成長しないので、そのためのコーチングの方法として、「現在」→「過去」→「未来」という順番でメンバーと一緒に考えていることを勧めています。
具体的には、
 ・うまくできていること
 ・過去に同じようなことがあったかどうか
 ・「WHY(なぜうまくいかないか)」ではなく「WHAT」の質問をして
  具体的行動を引き出す
といった実践的な取り組みも紹介されています。
単にやたらめったら褒める、ということが人を成長させるということではなく、まずはその人を「見ている」ことが大前提ということですね。

人事制度設計の担当者が知っておいた方がよさそうな嘘

最後に、人事制度のキモである「評価制度」に関する嘘、"人は「他人」を正しく評価できる"です。
まあ、これはそうだなー(嘘だなー)と思う方も多いと思いますが、とはいえ、日々の業務運営では、そうした考えがあまり前提にはされていないケースも多いと感じていて、深く考えれば考えほど、個人的にはわかってはいるものの、どう対処していけばいいのかが実は一番難しいテーマでした。

筆者の主張は、他人を正しく評価するなんて無理無理、でも自分自身の経験は正しく評価できるので、例えば、人のパフォーマンスを評価する際は、「並外れた成果を挙げたい場合、必ずこのチームメンバーの力を借りますか?」という聞き方にすることで、自分のパフォーマンスの定義に基づいた信頼性のある回答が得られる、というもで、質問の仕方をすべて自分自身に向けて変えていくべき、というものです。

結局、人のパフォーマンスのような抽象度が高いものを客観的に評価しようとする自体に無理があり、公平性、妥当性、正確性は捨てよう、客観性が望ましいと言われているが、信頼できる主観の方がよっぽど的確だとしています。
他の8つの「嘘」は自分の仕事にどういう形で活かそうかというイメージが比較的湧きやすかったのですが、この嘘については、内容については全くその通りで、大いに共感したのですが、実業務に活かすには、しっかり時間をかけて考えねばと思ったもので、そういう意味では非常に重たい投げかけでした。

ということで、いくつかご紹介してきましたが、ここで書かれていることを単にウソ/ホントという観点だけで片づけるのではなく、一つの投げかけとして捉えて、自社だったり、自分の仕事に当てはめてみることが非常に有用なことだと感じさせてくれた本でした。

私自身は疑い深い人間なので、ここに書いてあることもホントなのかなー、と疑問も持って、自分なりの真実を追求していこうと思っています。

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