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スタートアップが失速することなく大企業へと成長するためのマネジメントスタイル「Founder Mode(創業者モード)」とフレームワーク「Founder’s Mentality(創業者メンタリティ)」


先日、こんな記事を書いた。プログラマー、アントレプレナーであり、スタートアップアクセラレーターであるY Combinator の創業者でもある ポール・グレアム氏が、2000年初頭にインターネット上で書いていたエッセイ集「ハッカーと画家」。そこで書かれていた様々な行動原理・精神・アプローチが、20年の時をこえて確固たる方法論群として発展・確立したという話だ。


ポール・グレアム氏は、精神面においても、また Y Combinator という具体的な組織によっても、スタートアップ文化の構築とエコシステムの発展を支え、その歴史において大きな役割を果たしている。そんな彼が今年2024年9月1日に書いたエッセイは、シリコンバレーの経営リーダーたちの間で、様々な議論を巻き起こしている。

ポール・グレアム氏のエッセイ「Founder Mode (創業者モード)」

どのような経営こそが継続的な成長と規模の拡大を目指す企業にとって望ましいのか。少数精鋭のスタートアップが、まるで都市のような大企業にまでレベルアップし続けるには、何が必要なのか。本 note の記事では、グレアム氏が投げかけたこのテーマについて少し深堀りをしていきたい。キーワードは、マネジメントスタイルとしての「Founder Mode(創業者モード)」への回帰と、フレームワーク「Founder's Mentality (創業者メンタリティ)」で見出されたプラクティスの復権である。




Founder Mode (創業者モード)

このエッセイ「Founder Mode(ファウンダーモード = 創業者モード)」は、Airbnb の ブライアン・チェスキーCEOが8月に行った講演に触発されて書かれたものであり、スタートアップから成長した組織において、いわゆる「デリゲーション(委任)中心のマネジメントスタイル」を採用すると、なぜうまくいかなくなるのかについて述べている。

リーダーへの教えとしてデリゲーションの大切さはよく言及される。組織が大きくなったら、リーダーは部下にデリゲーションをすべきだ、そうすることで、組織は次なる段階への成長が見込める。MBAでも企業における社員研修でも等しくそのように教わる。これは今やコモディティ化されている常識でもあるといえる。ゆえに、そのように教わってきた人からすると、この話は直観に反する。成長する組織でデリゲーションを行うと組織はうまくいかなくなる? それはどういうことなのか。

ブライアン・チェスキー氏は講演でこう語った。「大企業の経営に関する、これまでの常識は間違っている」
彼曰く、「周囲のアドバイスに従い、部下たちへのデリゲーションを実行したが、それは悲惨な結果に終わった」「会議が増え、社員は全社ではなく個々の目標を追及するようになった」「組織の官僚化や部署間での権限争いなどが蔓延し、肝心の会社業務やプロジェクトは滞ることになった」

チェスキー氏は改革を断行。全施策を見える化して絞り込み、事業制を解体して機能別の組織へと再編し、幹部メンバーでの集中的な意思決定に移行した。このような直接的な経営スタイルによって会社は再生し、ビジネスの立て直しを行うことができた。

グレアム氏は、チェスキー氏のように、デリゲーション中心のマネジメントスタイルを試みた創業者たちの落胆や、あるいは、そのようなマネジメントスタイルから脱却しようという試みや実際に脱却できた事例から、別のマネジメントスタイルの存在を推測している。それがエッセイのタイトルでもある、「Founder Mode (創業者モード)」である。これはスティーブ・ジョブズがかつてAppleを指揮していた方法を想起させると彼は述べている。

「Founder Mode」は、デリゲーション中心のマネジメントスタイルと何がどう違うのか。部下に仕事を委任し、それを介入せずに見守るデリゲーションは、成長していくスタートアップ組織においては、時に「優秀な人材を雇う」こととセットで行われる。組織の成長にあわせ、その規模のマネジメントを経験したことがある人材を外部から招へい・採用し、スキル・実績を信頼して委任していく。一方、Founder Mode は、グレアム氏によると、デリゲーション(委任)をしない。創業者あるいは経営者が、組織のあらゆるレイヤに直接的に関与することを志向する。

例えば、スキップレベル1on1 というミーティング手法がある。これは、かのスティーブ・ジョブス氏も実践していたダイレクトなコミュニケーションスタイルで、上位の管理職が自分の直接の部下を飛び越えてメンバーと行う対話である。「部下の部下」と 1on1 を実施することで、より現場で起きていることを直接的に理解するとともに、組織のコミュニケーションを活性化し、意思決定の透明性を向上させる。グレアム氏は、このスキップレベル1on1を Founder Mode の実践例の一つとしてあげている。他にも、マネージャー陣を集め、経営者が直接議論をリードする合宿や研修旅行等もプラクティスにあげられる。

当然のことながら、スタートアップの創業者・経営者は、従業員が20人だった頃と同じ方法で2000人の会社を運営し続けることはできない。ある程度の委任、役割分担は必要になる。また、「Founder Mode」はややもすると、ただの過干渉、マイクロマネジメントになる可能性もある。しかし、そのリスクを踏まえても、Founder Mode を採用する方がよい、とグレアム氏は主張している。創業者や初期からいる経営者には後から入ってきた役員や管理職にはできないことができるのだ。

グレアム氏は、このエッセイの草稿をイーロン・マスク氏に読んでもらったことを明かしているが、Founder Mode は、ビジネス界・スタートアップ界の著名なリーダーたちの間で議論を起こしている。彼ら彼女らも、組織が大きくなってから管理職になったマネージャーに任せることと、創業者として直接影響を与えることの分担やバランスについてまさに悩みを持っている。例えば、ある創業者は、「詳細の把握は続けるが、細かい指示まで行うことはしない」というバランスをとっていたり、他の創業者は「各事業は事業のリーダーの指揮のもとやってもらうが、そのリーダーとは密に1on1 を行うと同時に、会社全体には創業の理念やパーパス、組織カルチャーが常に浸透しているように、常に実践されているように働きかけ続ける」等、絶妙な形での組み合わせがないか模索している。

Founder Mode とマイクロマネジメントを分けるものは、「明確さ」である。マイクロマネジメントは、意図や背景、そもそもの戦略やビジョンを明確に伝えることができないマネージャーが陥る干渉行為である。どうしてそれをやるのかの「Why」をきちんと明確にできるリーダーは、マイクロマネジメントを行うマネージャーと異なる。成長をし続ける組織においてメンバーが求めるのは、目指す姿の、行うべきアクションの明確さである。同じ方向に向かってはっきりと進むことが第一である。リーダーシップとしてクリアなビジョンを示し、それをチーム全体に一貫して伝え続ける。Founder Mode ではそれが鍵となってくるだろう。


Founder’s Mentality (創業者メンタリティ)

グレアム氏は、Founder Mode は重要なプラクティスでありながら、それに関する書籍もビジネススクールもないのでは、という自身の見解を述べている。しかし、同様のテーマを分析し、そのための処方箋として Founder Mode の重要性を指摘した書籍が、「Founder’s Mentality (創業者メンタリティ)」というタイトルで2016年に出版され、既に存在している。

The Founder's Mentality: How to Overcome the Predictable Crises of Growth
(日本語版) 創業メンタリティ

Founder’s Mentality は、Bain & Company のパートナー(共同経営者)、クリス・ズック氏とジェームズ・アレン氏によって提唱された概念であり、フレームワークである。創業者の持つ野心的で大胆な姿勢や行動にフォーカスし、企業の持続的な成長を実現する経営者や組織に見られる特徴をとるべき行動指針としてまとめている。
例えば、そのような経営者や組織には、以下のような特徴がある。

・自らをイノベーターやディスラプターと称する
・全社で強い使命感を共有する
・現場重視の価値観が組織全体に浸透している
・複雑さや官僚主義を徹底的に排除する
・従業員の当事者意識(オーナーシップ)が強い

これらの特徴を、ズック氏は、Founder’s Mentality の3つの柱としてまとめている。

Insurgency (反骨精神)
Frontline Obsession (現場主義)
Owner's Mindset (当事者意識)

Insurgency (反骨精神)

創業者は強い目的意識を持っており、自社を単なるビジネスではなく、ムーブメントととらえている。それゆえに、多くのスタートアップは Insurgency を備えている。自らを社会のイノベーター、あるいは古い因習にとらわれた業界を破壊するディスラプターと見なし、今まで十分にサービスを受けられていない層やニーズがあるのに見過ごされていた層のために、新たなサービスを生み出して業界に戦いを挑む。彼ら彼女らは、反骨精神を持つ者たちであり、他の誰よりも優れた形でその顧客にサービスを届けるという大胆な使命を持っている。自らに課したその使命は、企業に独自のアイデンティティと目標を与え、従業員だけでなく、顧客や市場にインスピレーションを提供していく。 このような独自のアイデンティティを持ち続けることは、トップ人材を引き寄せ、従業員のエンゲージメントを高める重要な要素となる。


Frontline Obsession (現場主義)

創業者は最初に自らのビジネスの顧客になってくれた人・会社のことを昨日のことのように覚えている。創業者の中には、顧客ととりわけ強いコネクションを持ち、顧客に価値を提供できるビジネスパートナーと厚いネットワークを持っている者もいる。常に顧客と接することができる現場の部署や従業員を重視し、顧客のニーズを理解し、市場の変化をつかみ取り、迅速にアクションを取る。プロダクトマーケットフィット、強固なフィードバックループが、ビジネスの継続的改善を可能にする。
例えば、Amazon における「徹底した顧客への執着」に基づく事業オペレーションは広く知られている。それに基づく迅速な配達システムや顧客サービスでの継続的な革新は、現場主義の好例といえる。以下は、Amazon が起業してから5年後である1999年の、ジェフ・ベゾス氏のインタビュー動画であるが、この中で、ベゾス氏は、Amazon とは何かといったら、それは、顧客体験(Customer Experience)への執着であり、Amazon がインターネット企業かどうかは重要ではないと語っている。1999年と言えば、UIやUXの概念がようやくビジネスの場に普及してきたような頃であり、CX経営というコンセプトが普及するのはその後のことだ。この時点でCXの追及を企業の中核においたベゾス氏の現場主義の徹底ぶりは驚嘆に値する。


現場主義を持つ創業者は従業員に顧客の声を聞くことを奨励し、顧客満足をなした者を英雄と称賛し、顧客接点を持つ最前線を組織のもっとも大切な部署として扱う。顧客の声をすべての重要な議論に反映させ、オペレーションを研ぎ澄まして常に改善することで、官僚主義がイノベーションや顧客ニーズへの対応を妨げることを防ぐ。


Owner's Mindset (当事者意識)

創業者は、ビジネスに強いこだわりを持つ。会社の中で行われる全てのタスク、オペレーション、プロジェクトに責任感を持ち、品質に対しての高い基準を適用して、結果にコミットメントする。加えて、従業員にも同じような責任感、基準、コミットメントで役割を果たすことを期待する。これにより、パフォーマンスを追及し、複雑さを排して官僚主義が組織に入り込むことを回避する。スティーブ・ジョブス氏が、Apple のすべての製品に彼の高い基準を満たすよう要求していたのはよく知られている。創業者の持つ当事者意識は従業員にも伝播し、彼ら彼女らは自らの役割にイニシアティブを持ち、Get Things Done の精神で物事に臨むようになる。


Bain & Company の調査によると、創業者が率いる企業は他に比べて顕著に優れた成果を上げるという結果が出ており、Founder’s Mentality はそれらの企業の業績、株価、競争力と強い相関関係があると見ている。そもそもスタートアップにおいては、上記3つの特徴はごく当たり前のものとして存在している。イノベーションをもたらす反骨精神、顧客重視としての現場主義、使命感を伴う当事者意識、これらにより濃密な時間の中で爆発的に成長していくことがそもそもスタートアップにとって生き残れるかどうかの分水嶺である。言い方をかえると、Founder's Mentality が示したこの特徴はスタートアップにおける基本的な行動様式でもある。


Founder’s Mentality の喪失

しかし、スタートアップも組織が成長するにつれて、体現していた Founder’s Mentality の特徴は次第に薄れていく。大きな規模となり、プロセスや管理の負担が増大し、予期していなかった力や惰性によって蛇行する羽目になり、その勢いと輝きを失っていく。複雑化して動きが遅くなった企業は、遠からず成長を停滞させる。もはや迅速に対応する柔軟性は失われ、官僚主義が蔓延し、前にも後ろにも進められない苦境に立たされるか、完全に自由落下な崩壊状態へと移行してしまう。

ズック氏によると、スタートアップは時に次の3つの危機に直面する。

Overload (過負荷)
Stall-out(停滞)
Free fall(自由落下)


Overload (過負荷)

企業の成長とともに人員も増え、部署の数も増加する。マネージャーも増え、社内のコミュニケーションの量も増え、混乱を防ぐために様々なルールが作られる。面倒な手続きが積み重なっていき、マネージャーは管理業務にフォーカスするようになり、必要となるチェックも承認も多くなり、業務プロセスは長大なものへとなっていく。このような複雑化は従業員の自由度も敏捷度も抑えることとなり、クリエイティビティを阻害し、内部の機能不全をまねく。そして、組織としてのモーメンタムは失われる。

成長する企業は、規模や複雑さ、管理者の増大の負担に備えることに失敗すると、過負荷の状態に陥る。規模が拡大するにつれて、マネージャーたちは、Founder’s Mentality を軽視したり、過小評価する一方で、自らの管理業務を優先する傾向があり、これが企業が大きく羽ばたいていくための上昇速度を失わせる結果となる。


Stall-out(停滞)

停滞とは、どの企業も、成功している企業でも経験する成長が鈍化した状態である。この状態は、組織の複雑化と、かつて企業にフォーカスとエネルギーを与えていた明確な使命の希薄化によって引き起こされる。停滞は予兆もなく突然やってくる。ある調査では、時価総額が大きく減少した企業のうち、4分の1の企業は停滞前の5年間で平均12%の成長率を誇っていたが、停滞中の5年間では平均-1%の成長率にまで落ち込んだことが指摘されている。

停滞は、企業にとって戸惑いと混乱の時期である。もがいても成長のアクセルがかつてのようには反応しなくなり、より若く速い競合が勢力を増していることに焦燥感を覚える。


Free fall(自由落下)

自由落下は、企業にとって最も存続が脅かされる危機である。主要市場での成長が完全に停止し、ついこの間まで成功の要因だったビジネスモデルが、突然、何も通用しなくなる状態となる。経営チームは制御を失った感覚を覚え、突然の事態の根本原因を特定できず、どのレバーを引けばこの状況から脱出できるのかもわからなくなる。完全に自由落下な崩壊状態となり、あとは地面との激突を待つだけとなる。


明確な Founder's Mentality の復権と「Perpetual Crisis (永遠の危機)」

組織の複雑化は管理者を増やし、創業者や創業期のリーダーたちからのデリゲーションも増えていく。そのような中、反骨精神、現場主義、当事者意識という Founder's Mentality は失われていき、スタートアップは、過負荷、停滞、自由落下と、破滅へのシナリオを進むようになる。

いかに、成長著しいスタートアップはこれらの危機を回避するのか。答えは、Founder Mode による「明確な Founder’s Mentality の復権」にあると考えられる。何よりも、創業者や初期を知るリーダーが従業員と接し、反骨精神、現場主義、当事者意識を繰り返し浸透させていくことが肝になる。例えば、反骨精神を維持するために、既存の体制、既存の仕事のやり方は常に革新的なもので否定されるべきだという価値観を全社で共有し、イノベーションの追及を忘れないことを基本動作として確立する。場合によっては、「安定は危機である」というメッセージを社内に定期的に発し、一丸となって走り続けることをやめない。

Samsung の先代会長であるイ・ゴンヒ(李健熙)氏は、1980年代終わりから1990年代前半にかけて、Samsung を大量生産の廉価製品メーカーから高品質のプロダクトを作るメーカーへと変貌させた。それは売上が数倍となる大きな成長だったがそこで歩みを止めず、幹部陣を集めて合宿を行い経営方針をまとめ、その後、同社を世界最大のエレクトロニクス企業へと育て上げた。イ・ゴンヒ氏は、成長著しい最中にあっても、当時の日本企業を抜いて世界一となっても、「今、わが社は過去最大の危機にある」と明確に繰り返し、直接社員に語ったこともよく知られている。緩めてしまいかねない手綱を何度も握り直し、全社を鼓舞し続けて Samsung をグローバル企業のスケールへと導いた。これは当時「perpetual crisis (永遠の危機)」という経営理念とも評された。

この絶え間ない危機感こそが、同社を前進させた原動力であり、Founder’s Mentality を復権させ、維持させてきたものであった。

反骨精神がある限り、規模が拡大しても道を失わずに済む。経営者が最もやるべきことは、創業時の使命を忘れず、イ・ゴンヒ氏のように反骨精神を従業員に保持させ続けることだろう。一時の成功に甘んじることなく、増殖する複雑さにも屈することなく、そうすることでむしろ、反骨精神をもつ大組織として、規模の利点を活かしていくパフォーマンス創出も可能になる。


リーダーを育てる・従業員を自走させる

デリゲーション型のマネジメントによって組織は Founder's Mentality を希薄化しうる。そのため Founder Mode が改めて重要になってくる。ただ、Founder Mode は、マイクロマネジメントではないし、単なる創業者の介入でもない。ビジョンを語り続ける「明確さ」が重要であることは先に述べたが、それによって、Founder Mentality を体現する次のリーダーを育てるということと、明確な反骨精神・現場主義・当事者意識を通して、(デリゲーションではなく)従業員に自律的に動いてもらうようにする=従業員を自走させていくことがポイントになる。

食料品デリバリーサービスを展開する Instacart の フィジ・シモ CEOは、The
 information で意見記事を執筆し、自身のMeta社での経験を引用してFounder Mode は創業者だけのものではないと述べた。

彼女は、「Metaでマーク(・ザッカーバーグ)は、私たちに良い企業幹部になる方法だけでなく、大きなリスクを取り、大きな報酬を得る方法を教えてくれました。それが Founder Mode なのです」と書いている。マーク・ザッカーバーグ氏は起業家精神を社員に共有し、新しいプロダクトや事業をゼロから立ち上げるリーダーを評価し、チームの規模やマネージャーの一般的な成功指標よりもそのような野心的挑戦を高く評価した。それは創業者が Founder’s Mentality を社員に正しく伝え、次世代のリーダーを育てるものであった。

スタートアップは成長のスピードに負けない速さで、次世代のリーダーを育てていく必要がある。次世代のリーダーにいかに挑戦と当事者としての活躍の機会を与えるかは極めて重要だ。さらに、Founder Modeを体現した経営者は、すべての従業員に現場を起点とした、顧客を向いたサービスのオーナーのように感じる文化を作り出す。これは単なるデリゲーションとは異なり、創業の精神を引き継いだ形での自律的な意思決定と実行、すなわち自走を可能とさせていく。

靴のネット販売・ECを展開している Zappos は、独特の企業文化を構築したスタートアップとしてよく知られている。顧客満足度が高いことに定評があり、顧客のリピート率が75%を超えると言われる同社は、10あるコアバリューの厳格な徹底を通して、反骨精神のバリエーションともいえる従業員のクリエイティブさの追及、現場主義である顧客へのフォーカス、自ら手本を示す当事者意識の価値を浸透させている。そうすることで、Founder's Mentality を維持し続けるとともに、従業員の責任ある自走を達成している。


成長し続ける組織を目指して

少数精鋭のスタートアップが、まるで都市のような大企業にまで成長し続けるには、Founder Mode (創業者モード)が必要であるというグレアム氏のエッセイは、今現在、規模が拡大し続けている、あるいは、成長が鈍化してしまっているスタートアップにとって検討に値する内容を持つ。そして、この問題を考察した Founder's Mentality というフレームワークは理解を深め、アクションを取っていく上で助けになる。

私自身、楽天グループで14年間(2006年~2020年)、研究開発のリードという役割で、その劇的な伸長に関わっていた。この期間、楽天のエンジニア組織はグローバル含め、20倍の規模にまで拡大した。安定を許さず、弛まぬ自己変革の連続こそが進むべき道であった。三木谷さんの近くでその薫陶を受けた者としては、この Founder Mode と Founder’s Mentality は自身の経験とも一致している。現に、今も楽天は大企業でありながらも挑戦し成長し続ける組織として走り続けている。

スタートアップはその事業が伸び、規模が大きくなるにつれ、マネージャーは増え、多くのデリゲーションが行われ、手続きも煩雑化してプロセスの官僚化を招き、創業の精神を形骸化させていく恐れと戦うことになる。その危機は予想よりもはるかに早く到来する。いかにその早くに訪れる理念の死を防ぐか。いかに創業の精神を維持し、従業員の自走を実現し、次世代のリーダーを育てるか。新たな情熱を育てていくか。成長のスピードに負けることなく、経営者が全社に、全従業員に、働きかけ続けることが、未来を切り開く上で大切であることは間違いないだろう。


参考文献

Founder Mode
https://www.paulgraham.com/foundermode.html

You Don’t Have To Be A Founder To Get Into Founder Mode
https://www.forbes.com/sites/alisacohn/2024/09/17/you-dont-have-to-be-a-founder-to-get-into-founder-mode/

Want to get into founder mode you should be so lucky
https://www.wired.com/story/plaintext-want-to-get-into-founder-mode-you-should-be-so-lucky/

A Perpetual Crisis Machine
https://money.cnn.com/magazines/fortune/fortune_archive/2005/09/19/8272909/index.htm

Founder mode shouldn’t be just for founders
https://www.theinformation.com/articles/founder-mode-shouldnt-be-just-for-founders

How I did it Zappos CEO on going to extremes for customers
https://hbr.org/2010/07/how-i-did-it-zapposs-ceo-on-going-to-extremes-for-customers

Zappos Customer Service
https://chattermill.com/blog/zappos-customer-service

Amazon.com : The Founder's Mentality: How to Overcome the Predictable Crises of Growth
https://www.amazon.com/dp/1633691160

Amazon.co.jp : 創業メンタリティ 
https://www.amazon.co.jp/dp/4822251640


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