見出し画像

楽天技術研究所とシンガポール

楽天技術研究所は世界5カ国に拠点があります。
そのうちの一つがシンガポールにあり、Deep Learning を活用した様々な技術群を研究しています。特に、BLEU (機械翻訳の評価アルゴリズム)スコアの高い、Transformer による独自の翻訳技術を開発しています。またその技術をベースとした、言語学習サービスも展開しています。


シンガポールですが、ご存知の通り、小さい国土の都市国家です。1時間程で横切ることができる、人口560万の最も所得の高い国の一つと言われています。石炭や石油等の自然資源を持っていないのですが、アジアとヨーロッパの海路ををつなぐ島として、交易の重要なポジションとして見出され、英国が1819年にコロニーを作ります。1965年の独立後も英国との密接な関係を維持し、国際ビジネスに開かれた国家としての道を歩み始めます。そして、交易と産業化を国家の介入によってドライブするというシンガポール独特の手法によって高度な成長を実現します。例えば、1960年台には、世界最大のスラム街があると評される程、住宅状況が悪かったそうで、人口9%程度の人のみが公営住宅(public housing)に住んでいたそうです。しかし、今や80%以上の人が暮らしており、まさに手厚い国家サポートによる経済成長。失業率も低い。ゆえに、ストライキ等も日本と同じでほとんど発生しないとのこと。

政府は更にご存知のとおり、外国からの直接投資を積極的に誘致してきて、1980年台には製造業のハブに生まれ変わります。HDDの最大生産拠点でもあったことがあります。ただ産業構造のシフトを非常に戦略的にやってきており、製造業は今日ではGDPの20%のみに留まります。通信企業を民営化し、金融・保険を自由化して、サービス産業を伸長させ、1980年台にはGDPの24%程度だったのが、2017年には70%を超えるまでになり、グローバル企業がシンガポールにリージョナルHQを設置し始めるに至ります。世界銀行の調査によるとシンガポールはビジネスのやり易さで2位に位置しています。(1位はニュージーランドなんですが、これはまた別の機会に)

研究の世界においてもシンガポールはリーディング国家となってきています。例えば、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)の管轄下に、非常に多くの研究機関があるのですが、情報系の研究所としてインフォコム研究所(I2R)というのがあります。各国様々なところから優秀な研究者が集まっており、PhD ホルダーが600名ほど在籍しているそうです。これは日本の同様の研究機関と比べてもとんでもない数であることはおわかりいただけると思うのですが、非常に興味深かったのはI2Rの研究者の評価システムです。I2Rは経済に貢献する実践的な研究機関であることを旨としており、研究そのものではなく、企業との共同研究の結果によって研究者が評価される仕組みとなっています。ゆえに研究者は企業に実際に使ってもらえる研究というのを志向し、企業から評価されなければ辞めてしまうことになるというシビアな競争環境で研究活動を進めることになっています。それがために、研究者の在籍年数が比較的短い、、、気がします。過去I2Rと不取引正検知の共同研究をしたことがあるのですが、I2Rの研究者は研究者っぽくなく、なんとなく自分の古巣のアクセンチュアのようなコンサルティングファームのコンサルタントのような、アグレッシブかつ実利を求めるような雰囲気が前面にでており、とても印象に残っています。ところで、I2Rだけでなく、楽天技術研究所は科学技術研究庁(A*STAR)とも共にAI人材育成プログラムというのを過去に実施し、優秀な研究者を同プログラムから採用したこともあります。更にシンガポール国立大学(NUS)や南洋理工大学(NTU)の先生たちと共同研究を行い、優秀なインターンも受け入れ、そこから採用につながったケースもあります。シンガポールには優秀かつ実践的な人材を育てる環境や仕組みが色々あるなあと思います。

楽天技術研究所シンガポールは過去に、I2RやNUSやNTS等から優秀な人材を採用することができ、それが世界レベルに通用するDeep Learning 技術の開発につながっています。とはいえ競争も激しく、最近はやはり世界的なAI人材獲得がヒートアップしており、厳しさも感じておりますが、引き続き優秀な人材とともにトップクラスの技術群にチャレンジし続けていきたいと思っています。

最後に、シンガポールに関して、楽天技術研究所シンガポールの所長 Ewa Szymanska が語っている Videoをご紹介します。シンガポールは色々な意味で熱いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?