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月を目指す: DX・イノベーションを超える、現代のムーンショットへ

DX は、今の企業にとって重要なテーマとなった。しかし、DX そのものは、究極の目標ではない。DXは、現代のマーケットのデジタルによる驚くべき進化にどう企業がキャッチアップし、生存していくかという話であるためだ。

DX そのものは企業の究極の目標にはなりえない。デジタル化という変革の力を借りつつ、企業は何を目指して跳躍を果たすのか。企業全体としての野心的なチャレンジが求められる。企業が挑戦をもってこそ、各部門、部署、チーム、従業員も(例えばOKRのような枠組みを使って)熱意のあるゴールを持って活動することができる。


ムーンショットと好奇心、アポロ計画の時代性

一度ヒット商品やサービスを作り上げ、大きな成果を達成した企業が、いかにその成長と成功を維持し続けることができるのか。これはイノベーションのジレンマが指摘した中心的命題であり、これを打ち破るべくあまたの企業が野心的挑戦に臨む必要性を感じている。いわゆる、ムーンショットである。

ムーンショットの語源は、有人で月を目指し着陸をしたアポロ計画にある。ニール・アームストロングが月面を歩き、米国の国旗を立てて帰還。人類の進歩を示す偉大な目標を達成し、その過程であまたの技術やシステムの進化をもたらした。

それは野心的であることをこえて、当時の世界中の人々の根源的好奇心につながり、様々な夢を思い描かせた。好奇心は人を結びつける力としてコアとなる。だからこそ、人々のそれぞれの不断の努力を束ねて目標への推進力と高めていくことができる。

しかし、アポロ計画は時代の産物としてのアプローチでもあった。野心的であった一方、月自体は確かな存在として空にあるので、いずれ人類がたどり着くことは約束されていたとも言える。宣言し、資金を投じ、時間とリソースをかけ、組織力を鍛えて、長期にわたる研究開発を遂行し、継続していけばやがて達成されると、誰もが信じていた。古き良きシンプルな時代だった。


不確実な時代、複雑怪奇な課題

VUCAというワードが人口に膾炙している。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を持つ世の中に突入している。今日、我々が生きるこの社会は巨大な転機にいる。

これまで科学の発達によって、人類は様々な問題を解決してきたが、その一方で解けない、内在する問題に多く直面し始めた。世界は今や非常に複雑怪奇な自らのあり様と対峙している。環境、人口、食料、健康、グローバリズム、格差と分断、技術と生命、デジタルと精神の境界線、脳や意識、、そして孤独。これらは極めて入り組んだ不条理な複雑性を有している。今我々が直面している社会的課題、経済的課題、企業や個人の課題に対して明確に回答が出せるようなアプローチはなく、アプローチ自体をモダンな形で構築していく必要がある。


ロングショットからアジャイルへ

加えて、野心的な未来にむけたプランニングとプロジェクト遂行を行うことは、ますます困難になっている。

我々が、長距離射程を飛ぶかのような遠くの未来へと大きなビジョンを描いても日々起きている予測不能な出来事や社会状況や国際環境の急激な変化によって常に書き直していかなければならない。またクラウド、ビッグデータ、データサイエンスAI5G、量子コンピューター等、様々なところで起こる技術のイノベーションによってソリューションそのもののパラダイムが変わってしまうということもある。とりわけ世界中で生まれ続けている新しいスタートアップや技術・特許、そして大小様々な組織による革新的なプロジェクトは政治や経済、産業のストラクチャーに対する見方を突然、まったく違うものへと変えてしまう。ブロックチェーンやIoTスマートコントラクトによるスマートシティ構想。AIによる医療革新の試み。至るところで推進されているディスラプティブ型のプロジェクトの少なくない例においてこのようなことを観察することができる。

ここにおいては、インターネット企業・スタートアップを中心として活用が拡大してきた各種アジャイルな方法論の適用も重要になってくる。リスクを許容しつつ、挑戦をしつつも、進度や失敗の度合いをモニタリングし、それにより大胆に目標のアップデートもはかっていく。そのようなことを踏まえた刷新が、現代のムーンショットには必要である。


新たなムーンショットへ

これらを念頭に置いて真の躍進を実現するには、ムーンショットに挑まんとする動きを現代社会のシステムのあり様に調和させる、よりプラクティカルなやり方を改めて確立することが極めて重要だ。その一方で同時に月を目指す、人々の好奇心を掻き立てる未来をデザインする。時には過去に失敗したチャレンジングなプロジェクトから、時代の変化を踏まえて現代において再挑戦する価値があるものを取り出し、それをデザインへ取り込むということも意味を持つかもしれない。ムーンショットをどう創造的に形成していくのかという方法論はより巧みにあるべきだろう。

過去や現代におけるムーンショットのあり方についての対比を行い、両者の知識と洞察を集積し、理解を深める。そして、現代の不確実な環境における技術のブレークスルーをも取り込みながら、挑戦を推奨し、好奇心ある未来のビジョンを共有していくことが、実りある社会へと導いていくために大切である。



おまけ

世界経済フォーラムの創設者兼会長の Klaus Schwab 教授が提唱した第四次産業革命は、ムーンショットプロジェクトに関する議論をする上で一つの参考にできる方向性ではあろうかと思います。ご参考までに。


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