Rebel Yell『Fall From Grace』


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 幼少時からポスト・パンクを大量に聴かされてきた筆者にとって、オーストラリアの3人組バンド100%に惹かれない理由はなかった。Minimal WaveやDark Entriesあたりのレーベルに通じるサウンドは、さまざまな側面を見いだせる。
 そのサウンドを強いて形容するなら、ゴシック風味のあるダークなシンセと、グラス・キャンディーなどItalians Do It Better周辺のバンドとも共振する甘いメロディーが際立つポップ・ソング、だろうか。リエゾン・ダンジェルーズやD.A.FといったEBMの匂いが立ちこめる無骨な音色、テクノやハウスからの影響が色濃いビート、ネガティヴな感情を包み隠さず吐きだした歌詞、チックス・オン・スピードを彷彿させるフリーキーな佇まい。これらの要素は、他人の眼差しなんて意に介さない反骨精神で満ちあふれている。

 そんな100%の中心人物がグレース・スティーヴンソンだ。彼女は100%の活動をこなしながら、レベル・イェル名義でソロ活動もおこなっている。
 レベル・イェルでのグレースは、100%のときよりも獰猛な姿勢をあらわにする。ざらついたノイジーなサウンドはポーラ・テンプルやブラワンも顔負けの強烈なインダストリアル・テクノであり、ひとつひとつの音は巨大な岩のようにゴツゴツとしている。グレースのヴォーカルは歌というより叫びに近く、文字どおりレベル・イェル(日本語では“反抗の雄叫び”を意味する言葉)だ。

 こうした魅力は最新アルバム『Fall From Grace』で深まっている。呪術的な語りをフィーチャーした“Incredible Heat”で始まる本作は、グレースのパンキッシュな表情が際立つ。問答無用でリスナーの腰を揺り動かすインダストリアル・テクノが基調でありながら、ヒスノイズ的な音も取りこんだ激しいサウンドスケープはナイン・インチ・ネイルズを想起させる瞬間も多い。そういう意味では、過去のレベル・イェル作品と比べてロック色が強いと言える
 なかでもお気に入りなのが“Anti Club Music”だ。タイトルとは違い、重低音が映えるプロダクションはクラブのサウンドシステムで聴きたいと思わせる。TB-303にディストーションをかけたようなシンセが紡ぐメロディーはゴアトランス的で、ディレイとリヴァーブが過剰に被さるグレースのヴォーカルは妖しい雰囲気を醸す。

 “Action”にも惹かれた。速い4つ打ちのビートに扇情的なヴォーカルが乗る曲構成は、アタリ・ティーンエイジ・ライオットの新曲と言われたら信じてしまいそうだ。一方で、ハード機材の生々しい音色が目立つところはL.I.E.S.やRussian Torrent Versionsなどを旗頭とするロウ・テクノの文脈を映しだしており、しっかり“今”を感じさせてくれる。過去と現在が綿密に絡みあうことで、グレースにしか鳴らせない独特なサウンドが確かに刻まれている。

 本作は、主流のポップ・ミュージックとアンダーグラウンドなポップ・ミュージック、どちらかだけを重点的に聴いてきた者には作れない作品だ。いま流行りのプロダクションやジャンルを模倣することもしないが、かといって頭でっかちな実験性や哲学に拘泥するあまり、親しみやすさと寛容性を失う罠にも陥っていない。
 かつてのグレースの発言によれば、100%のサウンドはカイリー・ミノーグ、マドンナ、ユーリズミックスからの影響も受けたという。このような折衷性は、チャレンジングかつキャッチーな本作の魅力にも繋がっている。何かを作りあげるのに、苦渋の決断という言葉などで正当化されがちな犠牲は必要ない。すべてを欲し、選べばいいのだ。そうした姿勢の正しさを『Fall From Grace』は証明している。



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