BLACKPINK(블랙핑크)『THE ALBUM』


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 韓国の4人組グループ、ブラックピンクが待望のファースト・フル・アルバム『The Album』をリリースした。まず目を引いたのはジャケットだ。黒一色の背景に、ピンクのティアラとグループ名という構成。とてもシンプルだが、ポップ・ミュージック界の頂点に立つ彼女たちの現況を上手く表している。ああだこうだ言わなくても、私たちが女王なのは確かだ、とでも言いたげな風格が漂う。

 本作の収録時間は約24分だ。先行公開されると、あたりまえのように大ヒットした“How You Like That”と“Ice Cream (With Selena Gomez)”を含む全8曲が収められている。“Kill This Love”(2019)の曲展開を想起させる“How You Like That”で始まり、壮大なバラード曲“You Never Know”で終幕を迎える流れは手堅い。ここは盛りあげどころで、ここは聴かせどころといった起伏を上手く構築している。フル・アルバムというフォーマットだからこそ可能なストーリー性があり、曲を寄せあつめただけの内容ではない。

 さまざまな面で良く出来ている本作だが、曲のクオリティーに差がありすぎるとも感じた。なかでも厳しいのは“Lovesick Girls”だ。作詞にメンバーのジスとジェニー(ジェニーは作曲でも関わっている)が参加し、デヴィッド・ゲッタがプロダクションの一部を担うなど、本作において推しのひとつなのはうかがえる。
 しかし、肝心のサウンドにおもしろみがない。サイドチェインを駆使したウォブリーなシンセ・ベースが生むグルーヴは単調で、高揚感を演出する4つ打ちやアコースティック・ギターの音色が耳に残る曲調も、カイゴあたりのトロピカル・ハウスを模倣しただけに聞こえる。

 逆にとても惹かれたのは“Pretty Savage”だ。ブラックピンクに対するヘイトを迎撃したと思われる歌詞が素晴らしい。彼女たちの熱心なファンほど、にやけてしまう言葉が並んでいる。人形のように黙っていると思うな。攻撃されたらやりかえすという明確な意志を滲ませる言葉の数々は、ティアラを掲げたジャケットの凛々しさにふさわしいものだ。
 サウンドも聴きどころが多い。ギターを取りいれたクランクと言えるトラックは攻めた音作りが際立ち、無駄のないミニマルなビートは的確な音色選びとプロダクションが光る。こうしたチャレンジングな姿勢を滲ませながら、ポップ・ソングとしての親しみやすさも保つバランス感覚は見事だ。

 長所と短所が明確な本作を聴いていると、複雑な気持ちを抱いてしまう。デビュー当初からブラックピンクを追いかけてきた筆者にとって、USポップ・ミュージックの主流を意識しすぎるあまり、“As If It's Your Last”(2017)などで炸裂していた奇異ながらもキャッチーという先鋭さとオリジナリティーが薄まった作品と感じるからだ。
 一方で、より世界的なグループになるための礎として、『The Album』のような作品を出す必要性も理解できる。これまでの持ち味を残しつつ、さらなるリスナーを得るため新たな要素を取りこもうとする姿勢は、サウンドからも伝わってくる。ただ、その綱渡りが上手くいっているかと訊かれたら、筆者は「まだまだ」と答えるだろう。ブラックピンクのポテンシャルは、こんなもんじゃない。



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