SUMIN (수민)『Your Home』



 スミン(수민)は韓国を拠点に活動するアーティストだ。シンガーとして豊かなヴォーカルを披露するのみならず、トラック制作や作曲もこなすマルチな才能の持ち主である。BTS“Lie”やレッド・ヴェルヴェット“봐 (Look)”などの有名曲にも参加しているから、韓国のポップ・ミュージックを愛聴する人なら名前くらい聞いたことがあるかもしれない。

 彼女の音楽を初めて聴いたのは、ファーストEP「Beat, And Go To Sleep」だった。2016年にリリースされたこの作品で彼女は、ディスコ、ソウル、R&B、ジャズといった要素で彩られた音楽を鳴らし、筆者の耳を惹きつけた。声域の広いヴォーカルも見事で、さまざまなタイプの楽曲を難なく乗りこなしていた。
 その才気は翌年リリースのセカンドEP「Sparkling」で進化した。前作以上にR&Bの要素が色濃いそれは、彼女の新たな側面を見せるという意味でも驚きがあった。なかでも“그랬으면 해”は、ヤマハDX7を想起させるFMシンセの音が印象的で、80'sポップの匂いを漂わせる秀逸なポップ・ソングだった。

 そうした道のりを経て作られた彼女のファースト・アルバム『Your Home』は、これまでの作品群を軽々と越える内容で感嘆させられた。特に興味を引かれたのは、オープニングを飾る“In Dreams”だ。甘美なコーラス・ワークはロドニー・ジャーキンスあたりの90年代R&Bが頭によぎるものだが、音の強弱(ベロシティー)を細かく変えるキックが印象的なビートに耳を澄ますと、フライング・ロータスやトキモンスタといった2000年代以降のグルーヴを聴きとれる。こうしたパーツごとに異なる要素を込めるやり方は、最近だとジョルジャ・スミス『Lost & Found』クロイ×ハリー『The Kids Are Alright』を連想させるが、そうした今のポップ・ミュージックと共振する要素が本作には多い。いまや多彩さは、曲ごとに違う音楽をやるのではなく、1曲の中に数多くの要素を詰め込むことなのだとあらためて実感させられた。

 いままで見られなかった側面という点では、“I Hate You”が一番わかりやすいかもしれない。他の曲と比べて音数が極端に絞られたこの曲は、ザ・ネプチューンズ的なミニマル・エレクトロ・ファンクのビートを刻んでいる。本作以前の彼女は、リヴァーブやディレイが深くかかったドリーミーなサウンド一辺倒の印象もあったが、それをふまえても新機軸と言える曲だろう。
 新機軸といえば“Seoul, Seoul, Seoul”も負けていない。低音を過剰に際立たせたりと、ポップ・ソングというよりはベース・ミュージックを連想させるトラックメイキングだが、そこにキャッチーな歌メロやいなたいシンセ・サウンドを乗せることで親しみやすさも得ている。こうした“万人向けのエクスペリメンタル”という少々矛盾するようなバランス感覚は、ソフィー『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』や、レッツ・イート・グランマ『I'm All Ears』といった作品と共振するものだ。そういう意味でも本作は、ジャンルやシーンを区切っていた境界線が曖昧になった現在だからこそ生まれた、素晴らしいポップ・アルバムである。



サポートよろしくお願いいたします。