SEULGI(슬기)「28 Reasons」


SEULGI(슬기)「28 Reasons」のジャケット

 レッド・ヴェルヴェットのスルギ(슬기)がソロ・ミニ・アルバム「28 Reasons」をリリースした。これまで彼女は、アイリーンとユニットを組んでの課外活動はあったものの、自分だけを前面に出したソロ作品は本作が初めてだ。ゆえに発表前から注目度は高く、期待も集めていた。

 結論から言うと、本作は素晴らしい作品だ。スルギはヴォーカルもダンスもハイレヴェルなアーティストであるのは周知の事実だが、そうした豊かな表現力が見事に発揮されている。全体的にダークなサウンドは統一感を演出しながらも、囁き声からパワフルな歌唱まで披露するスルギのヴォーカルは多彩だ。楽曲のコンセプトを完全に理解し、キャラクターを演じながら歌いあげる様は、オスカー俳優が上質な演技を映画の中で披露しているかのようだ。そこには優れたパフォーマンス力はもちろん、その力を支える高度なインテリジェンスもうかがえる。長年K-POPの最前線で活躍してきた者だけが身に纏える覇王色の気を発する姿は、さすがと言う他ない。

 収録曲では“28 Reasons”が興味深いと感じた。音数が削ぎ落とされ、やたら歌声が耳に近いミックスが印象的なこの曲を聴くと、18+『Mixtap3』(2013)やコープランド『Because I'm Worth It』(2014)といった、2010年代前半頃に実験的でレフトフィールドとされていた音楽が脳裏に浮かぶ。とりわけ18+は、極端にミニマルなトラックに囁くような歌声を乗せるスタイルが似ていることもあって、より強く連想してしまう。
 とはいえ、これらの作品群と同じ音を鳴らすわけではない。起承転結と歌メロを明確にすることで、ポップ・ソングとしての親しみやすさをあたえ、幅広い層に聴かれるサウンドに仕上げている。“28 Reasons”は、ポップこそ最も自由にあらゆる実験をおこなえるフィールドであると教えてくれる曲だ。

 “Dead Man Runnin’”も特筆すべきだろう。スルギが初めて作詞に参加し、ダイナミックな展開が耳に残る曲だ。
 自らの心に潜む意外な一面を見つけたような歌詞は内観的で、本作の主要なテーマのひとつである二面性が丁寧に描かれている。ここでもスルギのコンセプトを深く理解する能力が光っており、言葉でも秀逸な表現ができると雄弁に示してくれる。

 “Anywhere But Home”もお気に入りだ。ダークなイメージを打ちだす本作の中では毛色が異なり、白昼夢を彷彿させる甘美なサウンドスケープにシンコペーションが効いたベース・ラインを添えたディスコ・ソングである。他の曲と比べて奇抜な音作りではないが、メロディーとビートはとても心地よく、良い曲として繰りかえし聴きたくなる。

 「28 Reasons」は、レッド・ヴェルヴェットが披露してきたレッドとヴェルヴェットという二面性に通じるコンセプトを特徴としながら、スルギの個性と表現力を上手く活かしている。本体とは別のおまけ的な作品とするにはもったいない内容だ。
 筆者としては、本作以上にスルギが創作面で主導権を握り、自らの考えや嗜好を反映させた作品も聴いてみたいと思った。そう思わせるだけの輝かしい創造性の片鱗をスルギは見せている。



サポートよろしくお願いいたします。