インダストリアルなデス・テクノ 〜 Prostitutes『Dance Tracksz』〜



 90年代前半、デス・テクノという音楽が流行った。これは日本だけで通用する言葉で、いわゆるハードコア・テクノやレイヴ・ミュージックのことを形容したものだ。サウンド的には、ジュリアナのメインDJだったジョン・ロビンソンや、L.A. スタイル「James Brown Is Dead」、さらにそのアンサー・トラックとも言えるトラウマティック・ストレス「Who The Fuck Is James Brown ?」あたりを想像するといい。
 90年代といえば、インダストリアル・テクノも注目された。レジスやサージョンなどが、硬質でハードなビートを鳴らしていた。2010年代に再注目され、ブラワンやハッパといった新世代の台頭、さらにはModern Love周辺を中心とした、ベース・ミュージックとインダストリアル・テクノが交わるサウンドも隆盛を誇った。一時期の盛り上がりは落ち着いたように見えるが、去年はデムダイク・ステアが素晴らしいインダストリアル・アルバム『Wonderland』を発表したりと、興味深い音が今も定期的に生まれている。


 そんな、ふたつの音楽をパッチワークしてしまったのが、アメリカはオハイオ出身のプロスティテューツだ。本作『Dance Tracksz』はズバリ、レイヴ・ミュージックからあらゆる装飾を剥ぎ取ったら、硬質で粗々しいインダストリアル・テクノになってしまった...という作品である。太いキックや扇動的なヴォイス・サンプリングなど、至るところにレイヴ・ミュージックの残骸を散りばめながら、ガシガシと蹂躙的に突き進むグルーヴを創出している。そのグルーヴが漂わせるシュールな雰囲気も秀逸で、一度ハマったら抜けだせない高い中毒性がある。無闇にアゲていくわけでもなく、かといって、したり顔でアヴァンギャルドなサウンドを追究するわけでもない。そうした掴みどころのなさが、シュールな雰囲気に繋がっているのかもしれない。


 随所で見られるポスト・パンクやEBMの要素も面白い。たとえば「Bottle Smashing」は、クラッシュ・コース・イン・サイエンスに通じる、チープなシンセと執拗な反復ビートが際立つ曲だ。さらに「Rudeboy」のマシーナリーなビートは、リエゾン・ダンジェルーズやDAFを連想させる。このように本作は、ポスト・パンク的に解釈しても楽しめる作品だ。


 本作は言ってしまえば、これまでの音楽史からいくつかの要素を拝借し、それらを組み合わせたサウンドである。ひとつひとつの音は既聴感を抱かせるもので、ここまで書いてきたことからもわかるように、あらゆる連想が可能だ。しかし、それが悪いことだとは思わない。人並み以上にワンクリックを積み重ねれば、さまざまな時代の音楽に触れることができる昨今において、人々の連想から完全に逃れた “まったく新しい音楽” を作りあげることは難しい。
 それでも、“新しい/古い” という価値観に拘泥し、多くの音楽を切り捨てる者は後を絶たない。そして、そういう者に限って、“今年も音楽は面白くなかった” みたいなことを口にしたがる。だが本作のように、既存の要素の組み合わせでも、音楽を塗り替えることはできるのだ。面白さの中身は常に変わるが、音楽が面白いという事実は不変である。

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