Ben&Ben『Limasawa Street』



 去年のベスト・トラック50で、「アジアの音楽をよく聴いていた」と書きました。これはいまもそうで、主にオンラインラジオなどを介していろいろ楽しんでおります。「特に惹かれることが多かったのはフィリピンのアーティストによるもの」というのも同様です。Wonderlandも現地のシーンを取りあげたりと、他の国と比べて情報が得やすいのもあって、フィリピンの作品を耳にすることが多い。

 そのなかでも特に追っていたフィリピンのバンド、ベン・アンド・ベンがデビュー・アルバム『Limasawa Street』を発表しました。ベン・アンド・ベンは、兄弟であるパオロ・ベンジャミン・グイコとミゲル・ベンジャミン・グイコを中心に結成された9人組。バンドとしてのデビューは2016年ですが、その前からグイコ兄弟はザ・ベンジャミンズとして知られていました。アルバムのリリース前から、アウィット・アワード(フィリピン最大の音楽賞)にノミネートされるなど、現地ではすでに評価を確立しています。CNNフィリピンがデビュー・アルバムの発表を報じたことからもわかるように、一般的な人気も高い。

 本作は、バンドが得意としているアコースティック・サウンドを基調にした作品です。フリートウッド・マック的なクラシック・ロックを彷彿させる瞬間もありつつ、端麗なコーラス・ワークと親しみやすいメロディーを前面に出している。強いて言えばフォーク・ロックと形容できるのかもしれないけど、そうした単一タグに収まるほど単純の音楽性ではありません。
 たとえば、オープニングを飾る“Limasawa Street”。アコースティック・ギターによるイントロこそフォークの匂いを醸しますが、その後展開されるダイナミックなグルーヴはU2に通じるものです。広がりのある音像も特徴で、ひとつひとつの音が耳にスッと馴染んでいく心地よさがある。ちなみにこの曲、スティーヴ・リリーホワイトがプロデュースしています。スティーヴといえば、XTCやU2の作品を手がけた大物プロデューサーです。その影響か、“Limasawa Street”のドラムは、『Drums And Wires』期のXTCを想起させる。ポスト・パンクに多いドライな響きと言いますか。タイのスロット・マシーンによるアルバム『Spin The World』もそうだったけど、最近のスティーヴはアジアのバンドと良い仕事してますね。

 “Araw-Araw”も素晴らしい。イントロでは軽くプリズマイザーをかけたような声が聴けるけど、それもあってボン・イヴェールと共振できるサウンドだと感じました。この曲は、ドラムやベースといったリズム・セクションが特筆ものです。派手なプレイやトリッキーなフレーズはないけれど、バンド・アンサンブルをしっかり支える優れたリズム感覚があるんだなとわかる。ある程度ミックスで補正した可能性もありますが、それだけでは曲の隙間を縫うように演奏し、他パートを邪魔せずに引き立てることはできないでしょう。他の曲以上にスロウで、プロダクションもシンプルだからこそ、高いスキルが際立ちます。



サポートよろしくお願いいたします。