2020年ベスト・ドラマ50


 今年からドラマもベスト50を選んでいます。理由は、ドラマに関する原稿を書く機会が増え、“メインのフィールドのひとつ”としてとらえていいかなと思ったからです。これまでも映像作品について書くことに自信を持っていましたが、それがより深まったのは今年の仕事のおかげ。いろいろ支えてくれている方々には感謝しかありません。
 評価基準はベスト・ブックと一緒です。質のみならず、何かしらの同時代性を見いだせるドラマを選んでいます。
 また、2019年スタートで2020年に最終回を迎えた作品や、現地では去年に全話放送済でもワールドワイドな公開は2020年という作品も選考対象としました。なので、ベスト50を見て“これ去年のやつじゃない?”といった指摘はご遠慮ください。

 去年と同じく、今年も韓国のドラマをたくさん観ました。そのなかで感じたのは、表現の質の飛躍的進化です。巧みな脚本に、秀逸なカメラワーク。韓国は音楽だけでなく、映画やドラマも世界的注目を浴びるようになって久しいですが、それゆえか挑戦的作品が目立ったと思います。ドラマとしての娯楽性を保ちつつ、社会問題も上手く取りいれたりと、多面的に楽しめる作品が多かった。

 台湾のドラマも頻繁に観ました。特に『次の被害者』は、さまざまな階級の人々で構成された上質なミステリーです。物語はもちろん、明暗のコントラストを丁寧に使いわけた映像など、技術面でも目を引くところがありました。

 このようにアジアからおもしろい作品が生まれているので、ぜひ日本のドラマにも頑張ってほしいと思っていたんですが、残念ながら今年はランクインに値する作品とは出逢えませんでした。
 まったく進歩していないとは言いません。とはいえ、他国のドラマの凄まじい成長スピードに追いつけていないのは確かでしょう。女性差別にまみれた『快感インストール』のような企画が通ってしまうのですから。

 Webメディアやブログで評を書いたドラマは、作品名にリンクを貼っているので、読んでいただけたら嬉しいです。


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ジェイコブを守るため

50 『ジェイコブを守るため』

 息子に殺人容疑がかけられた検事の物語。私たちが生きるこの世界が抱える問題とも共振しながら、登場人物が静謐に言葉を重ねていく様は滋味。



ザ・ループ

49 『ザ・ループ Tales From The Loop』

 宇宙の謎を解き明かすための施設が舞台のSF。レトロ・フューチャーな匂いが漂う映像に惹かれた。



我らのためのし

48 『我らのための死』

 1950年代のスペインが舞台の本作は、とにかく重い。時代は人を醜悪な動物へと容易く変えてしまう。



オルタードカーボン

47 『オルタード・カーボン』シーズン2

 シーズン1ほど魅力的ではないが、壮大なSF世界は上質なエンタメ性を備えている。制作費に対して視聴者数が少ないため今シーズンで打ちきりという結末は寂しい。



ナチ・ハンター図

46 『ナチ・ハンターズ』

 アウシュビッツ記念館から批判されるなど、トラブルも少なくない作品だが、フィクションを通してナチスの恐ろしさを描こうとする視点には興味深いものもあった。不備を認めながら楽しむという姿勢もあっていいはずだ。



セルフメイドウーマン

45 『セルフメイドウーマン』

 貧しい洗濯婦の生活から抜けだすために奮闘するサラを中心とした物語は、主演のオクタヴィア・スペンサーをはじめとした役者陣の好演もあって、視聴者の心を震わせるものだ。それでも、時代考証における雑さは批判を免れない。



アレックス・ライダー

44 『アレックス・ライダー』

 MI6に採用された少年スパイのアレックス・ライダーを主役としたドラマ。『ボーン・アイデンティティー』を想起させるシーンの多さに思わず微笑。



 愛しのホロ

43 『愛しのホロ』

 人間×人間×AIの三角関係を描いた韓国のドラマは、愛の在り方を探る物語で筆者を楽しませてくれた。脚本の粗も目につくとはいえ、視点のおもしろさだけでも一見の価値あり。



ドドソソララソ

42 『ドドソソララソ』

 よく出来たドラマ。最初はララをManic Pixie Dream GirlやBorn Sexy Yesterday的に見せておきながら、それを徐々に覆していく丁寧な人物描写が素晴らしい。



愛の不時着

41 『愛の不時着』

 世間的にはルックスが良いとされる人ほど持てはやされ、それ以外の人はほとんど周縁に置かれるなど、ルッキズムの観点では微妙なところも目立つ。だが、映画『ロングショット』的な性役割を逆転させた描写、徴兵制への嫌悪感が広がっている韓国の世情を反映するなど、社会との繋がりを感じさせる物語は興味深い。



ザ・サード・デイ

40 『ザ・サード・デイ』

 ロンドン郊外にある孤島が舞台のミステリー。精神がギリギリまで追いつめられた人の姿を映しだす映像に触れると、澱みきった水を飲みほすような嫌悪感が体中に走る。とはいえ、“哀しみ”を探求する物語はとても楽しめた。



リトル・ファイア

39 『リトル・ファイアー~彼女たちの秘密』

 1990年代のクリープランドを舞台に、経済力が異なる2つの家族を描いた作品。“母親”とは何か?を掘りさげる物語は、現代の病巣を炙りだしている。



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38 『ダッシュ&リリー』

 多くの恋愛物語(劇中の台詞を借りれば「おとぎ話」)は男性が作ったことを示唆したうえで、そのおとぎ話が広めてしまったステレオタイプな“女らしさ”や“男らしさ”を解きほぐすラヴコメ。全話合わせて4時間もない尺に重要なメッセージがたくさん込められた物語は、どんなクリスマスプレゼントよりも豪華で大切にしたい感情を示す。



ハイエナ

37 『ハイエナ』

 キム・ヘスとチュ・ジフンという人気役者が揃った韓国のドラマは実にスリリングだ。正義と不義、道徳と不正などさまざまな境界線を問いなおす物語は社会派と言って差しつかえない。



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36 『DES/デス』

 実在の連続殺人犯デニス・ニルセンを描いたイギリスのドラマ。全3話と短いが、丁寧なカメラワークといった技術面での見どころが多い。



エートス

35 『エートス』

 終盤まで幸せそうな人がほとんど登場しないトルコの作品は、さまざまな社会的背景が交わるヒューマンドラマを描いている。トルコ特有の背景も多いが、住む国を問わない問題も登場するため、多くの人たちに受けいれられる素地はある。



ペリー・メイスン

34 『ペリー・メイスン』

 大恐慌時代のロサンゼルスで活動する弁護士、ペリー・メイスンを描いたドラマ。多くの問題を抱える現代への問いかけも随所でうかがえる。



サブリナ

33 『サブリナ : ダーク・アドベンチャー』シーズン3

 いまのところシーズン最高作と言える。キャストのケミストリーは洗練を極め、フェミニズム要素が濃い物語も見ごたえたっぷり。



サイコだけど大丈夫

32 『サイコだけど大丈夫』

 第3話における更衣室のシーンはセクハラそのもので、擁護できる余地はない。しかし、“家族”のあり方に対する問いかけ、作りこまれた美術や映像の構図など評価できるところも少なくない。愛の形はひとつじゃないと示す物語に救われた。



ステートレス

31 『ステートレス』

 オーストラリアの移民拘留センターが舞台の作品。物語で描かれる移民の厳しい現状は、外国をルーツとする者たちが多く住む日本に生きる私たちも無関係ではない。



セックス・エデュケーション

30 『セックス・エデュケーション』シーズン2

 笑いも交えて性に関するシリアスな悩みを描いたことで注目されたドラマの続編。前作から大きく変わったところはないが、深化作としては及第点以上の出来。エミリーのエピソードには心を抉られた。



ノット・オーケー

29 『ノット・オーケー』

 『キャリー』と『この世に私の居場所なんてない』を掛けあわせたようなドラマ。テンポのいいマンブルコアを求める人はぜひ。特に目を引いたのはシドニーの家族関係だ。裕福じゃない彼女の家庭の描き方には生々しさがあり、《貧しい家庭=ギスギスしてる》と決めつけず、かといって血縁を称賛するファンタジーにも陥っていない。こうした機微を掬えるバランス感覚から学べることは実に多い。



秘密の森

28 『秘密の森』シーズン2

 “権力のあり方”に対する批評精神が色濃く、社会問題をふんだんに盛りこんだ物語が輝いている。それでいてドラマとしてのエンタメ性も十分。前シーズンでは、イ・ミジャの「椿娘」を引用することで、現在の韓国社会に向けた眼差しを描いていたが、こうした上手さは今シーズンでも際立つ。



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27 『アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』

 マーク・ラファロ主演のヒューマンドラマ。さまざまな苦悩と希望を行き来する物語は、巧みな登場人物の描写を通して極上の叙情性を紡ぎだす。



エイリアニスト シーズン2

26 『エイリアニスト』シーズン2

 家父長制という男性優位な社会構造で女性が生きることの厳しさを描く物語は、ストレートにフェミニズム要素を打ちだしている。そこを理解できれば、サラがクライズラーに〈君の事件だ〉と言われる伏線など、多くの精巧な仕掛けも見えてくる。



返校

25 『返校』

 台湾が抱える負の歴史を“霊”で表象した物語に惹かれた。映画的手法が目立つ映像や会話も良い。映画好きならチェン・ウェイハオやエドワード・ヤンなどの作品群を容易に連想できるのでは。このあたりは同様の側面があった原作であるゲームを意識したのかもしれない。



青春の記憶

24 『青春の記録』

 オチは弱い。しかし、パク・ソダム演じるジョンハに〈この国は家族を優先しすぎ〉と言わせただけでも、このドラマの価値は高いというものだ。特に好きなのは第5話。教授のイヨンを主体性があるキャリアウーマン的に描きながら、このような女性像は家事全般をエスクに任せることで成り立ってるとも示すところは、個人の努力だけでは解消できない女性に対する抑圧と経済格差を滲ませている。そうした社会構造への眼差しと、周縁に置かれがちな登場人物の心情をおざなりにしない誠実さは素晴らしい。



次の被害者

23 『次の被害者』

 台湾ドラマで社会派ということもあって、『悪との距離』などが脳裏に浮かんだ。色彩コントラストが強めな夜のシーンと、社会に押しつぶされた人たちに寄りそう物語は筆者の心にいまも焼きついている。



フィール・グッド

22 『フィール・グッド』

 主演を務めたメイ・マーティンの半自伝的ドラマ。感情の機微がテンポ良く描かれ、人生の上手くいかなさに寄りそう物語は痛々しくも優しい。



理想の花婿

21 『理想の花婿』

 インド・パキスタン分離独立後の混乱が残るインドを背景に、さまざまな家族の姿と愛の在り方を描いた力作。インドのステレオタイプがちらつくのは引っかかる一方で、恋愛ドラマの要素を下敷きにしたポリティカル・スリラーともいえる物語の挑戦的姿勢には惹かれた。



スタートアップ

20 『スタートアップ:夢の扉』

 夢に向かって走りつづける若者たちを描いただけの作品ではない。経済的に貧しい者の心理を短いシーンのなかで上手く描くなど、随所で社会問題への眼差しがちらつく。エレベーターで階級を暗喩するなど、多彩な描写のアイディアも光る。



ホワイト・ハウス・フォーム

19 『ホワイトハウス・ファームの惨劇』

 実際の事件を映像化したイギリスのサスペンスドラマ。実力のある役者陣と重厚な物語のケミストリーは必見。



クイーン・ソノ

18 『クイーン・ソノ』

 南アフリカのスパイであるクイーン・ソノの活躍を描いたドラマ。女性、宗教、セクシュアリティーに関する進歩的姿勢を滲ませた内容に拍手。新型コロナの影響でシーズン2の制作が白紙になったのは哀しいニュースだった。



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17 『プロット・アゲンスト・アメリカ』

 1940年のアメリカ大統領選挙で、フランクリン・ルーズベルトではなくチャールズ・リンドバーグが勝利していたら...という“もしも”を描いたドラマ。労働者階級のユダヤ人一家の視点から、ファシズムが忍びよるアメリカを味わう物語は、ぞっとするほどのリアリティーを滲ませる。



レポーター・ガール

16 『レポーター・ガール』

 実在する最年少記者をモデルにしたドラマ。突飛なところはないものの、テンポの良い物語の展開など基礎的部分はハイレベル。



キングダム

15 『キングダム』シーズン2

 社会性と娯楽性を共立させたキム・ウニの脚本術が冴えわたっている。キム・へジュン演じる王妃の顛末には、階級や家父長制への批判的眼差しを見いだせる。



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14 『ギャング・オブ・ロンドン』

 イギリスのクライムドラマ。数々のギャング映画を下敷きにしたと思われるシーンの多さは、映画/ドラマ好きの好奇心をくすぐってくれる。



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13 『ハイ・フィデリティ』

 レコードショップのオーナーであるロブが中心の物語は、感情の機微を上手く描いている。それだけに、シーズン1で打ち切りという決定は理解しがたい。



ヘンテファイド

12 『ヘンテファイド』

 メキシコ系アメリカ人第1世代の脚本家2人が原作と制作を務めた作品。褐色系人種間の恋愛やコミュニティー、さらには強制退去の問題まで、生活の背景にある社会がこれでもかと描かれる。アイデンティティーや階級を重要なテーマにしているのも特徴だ。



アップロード

11 『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』

 自分自身をデジタルの世界にアップロード可能な近未来が舞台のドラマ。シニカルな風刺センスが琴線に触れた。



夫婦の世界

10 『夫婦の世界』

 第8話における女性嫌悪と思われてもしょうがない暴力シーンは批判したい。一方で、綿密な心理描写といった魅力が輝いているのも確かだ。韓国ドラマのレベルの高さがうかがえる作品。



 ダーク

9 『ダーク』シーズン3

 ドイツ産ドラマのラストシーズン。“運命的な繋がり=性愛”という描写はありきたりで退屈だったが、複雑な宇宙論を最後まで見せるスリラーに落としこんだ物語は出色の出来。目まぐるしい展開を上手く転がす丁寧な脚本や、じめじめとした陰鬱な映像も魅力だ。



人間レッスン

8 『人間レッスン』

 苛烈な社会構造に絡めとられる怖さと哀しさを描いたドラマ。ギュリを演じたパク・ジュヒョンの演技力は、素晴らしい役者陣のなかでも群を抜いていた。



梨泰院クラス

7 『梨泰院クラス

 トニーの描き方は引っかかったが、階級という苛烈な現実を描いた物語は魅力でいっぱいだ。韓国ドラマの女性像を塗りかえるイソの存在も光った。



グッド・プレイス

6 『グッド・プレイス』シーズン4

 大人気ドラマのラストシーズン。最後まで機知に富んだ会話劇で筆者を楽しませてくれた。アメリカの現在に対する応答にも感じられる物語は、日本に住む私たちも共振できる側面が多い。



クイーンズ・ギャンビット

5 『クイーンズ・ギャンビット』

 薬物依存に悩むチェスの天才を描いたドラマ。物語と深く関わった色の使い方など、細かいところにまで手が行きとどいた制作スキルの高さは絶品。とはいえ、薬物が才能を引きだすというポップ・カルチャーでよく見られる虚しい神話を助長しかねない描写や、薬物依存からの脱却は簡単かのような描かれ方は大いに引っかかる。



保健教師 アン・ウニョン

4 『保健教師 アン・ウニョン』

 人には見えない“ゼリー”と戦う保健教師のお話。役者の動きや表情で物語を雄弁に紡いでいく静謐さが素晴らしい。じめっとした気持ち悪さとカラフルな色使いが際立つ映像にも惹かれた。社会風刺を醸しつつ、“死”について考えさせる物語もグッド。女性だから受ける理不尽に触れた第4話が珠玉の出来。



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3 『Giri/Haji

 登場人物の心情を同時に見せるスプリットスクリーン(複数に分割した映像を画面に映す技法)など、多彩な映像表現に惹かれた。ステレオタイプな日本人像の打破や家父長制批判を見いだせる物語もグッド。



賢い医師生活

2 『賢い医師生活』

 ベテラン医師5人の日々を描いた韓国のドラマ。何気ない日常に潜む特別を描きだす丁寧な脚本と、その魅力をさらに高める実力のある役者陣。派手な展開はほとんどないが、さまざまな面で質の高さを見せてくれる。こうした作品が少なくない支持を集め、シーズン2の制作も予定されているのは、韓国ドラマ界のおもしろさと懐の深さの表れだろう。



ノーマルピープる

1 『ノーマル・ピープル』

 アイルランドの作家、サリー・ルーニーの大人気小説をドラマ化。友情や恋愛といった定番の要素を描いた物語には、多くの先進的側面があった。たとえば話題を集めたセックスシーンでは、よくありがちな男性主体の乱雑なものではなく、過剰な演出を排した現実感あふれるセックスが描かれている。また、現実感あふれるセックスを際立たせるため、女性を支配する男性中心的なセックスシーンをあえて入れているのも見逃せない。このように“ポルノ”と“セックス”の違いを理解した作りは、ドラマ『トップボーイ』シーズン3を想起させる。他にも、抑圧的な性役割(ジェンダー)の更新、身近な家庭内暴力や性暴力など、いまを生きる多くの人たちが苦しめられている事柄を上手く物語に組みこんでいた。







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